祝、日銀当座預金100兆円突破
9月26日に日銀の当座預金残高が初めて100兆円を突破した。アベノミクスがスタートした当時(昨年11月)は40兆円割れとなっていたが、4月の日銀の異次元緩和決定時に55兆円規模に。それ以降は日銀による大胆な国債買入などにより、当座預金残高は積み上がり、9月26日に100兆円を突破した。2013年12月末には107兆円、2014年12月末には175兆円に積み上がる予定。その結果、マネタリーベースが2013年12月末には200兆円、2014年12月末には270兆円に積み上がる予定となっている。
黒田日銀総裁は講演で次のように述べている。
「マネタリーベースは、3月末の146兆円から 8月末には177兆円まで拡大しており、本年末の200兆円に向けて、着実に積み上げています。また、長期国債の保有残高についても、3月末の91兆円から8月末には123兆円まで増加しており、本年末の 140兆円に向けて、こちらも順調に積み上げが進んでいます。買入れる国債の平均残存期間も7年程度に伸びています。」
日銀の当座預金残高も含めて、上記の数字の増加は極めて技術的なものであり、よほど国債市場での急変でもない限りは予定通りに積み上がるはずのものである。問題はこれにより何がどのように変化するか、いやしたかであろう。
「量的・質的金融緩和は、中央銀行にとって主たる政策手段である短期金利の引き下げ余地がなくなる中で、予想インフレ率を引き上げるという、世界的にも過去に例のない課題に対する挑戦です。決して容易ではありませんが、これまでのところ、確かな手応えを感じています。」と黒田総裁は述べている。
予想インフレ率を測定する難しさについても、黒田総裁は指摘しているが、物価連動国債を用いたブレーク・イーブン・インフレ率などからは、予想インフレ率が異次元緩和により上昇している気配はあまり見えない。CPIそのものは異次元緩和以前に予想されていたようにプラスに浮上している。円安による影響も見えてはいるが、異次元緩和が直接物価上昇に大きな影響を及ぼしているようには見えない。
日銀は市場に対する影響も狙っていたはずである。異次元緩和後の外為市場は一時円安が進むものの、ここにきてドル円は98円台、ユーロ円も133円近辺と円安がそれほど進んでいるわけではない。
長期金利にいたっては一時1%まで上昇する場面があったが、ここにきて0.7%を割り込んでいる。これは日銀の異次元緩和による国債買入が、長期金利の上昇を抑制することも目的であったことで、想定通りとの見方もある。しかし、市場参加者が物価上昇に本気で備えるのであれば、日銀の買入だけでは長期金利の上昇抑制は難しいはずである。これは米国債を見ればわかる。FRBによる米国債の大量の買入は縮小されていないにもかかわらず、その観測だけで米10年債利回りは一時3%台に上昇した。債券相場は需給だけで動くものではなく、市場参加者のマインドが大きく相場を左右する。つまり、この長期金利の低位安定を見る限り、市場参加者はインフレ期待どころか、デフレがこの先継続するであろうと予想しているとも捉えられる。
日銀の当座預金が100兆円に積み上がったと同時に、短期金融市場では短期国債の品不足が指摘されるほどの混乱を招いている。それが2年国債にも波及し、2年債の利回りは0.1%という当座預金に付く金利(付利)をも下回るという異常事態が生じた。
国債そのものの流動性も一時に比べて回復しつつあるものの、異次元緩和以前と比べると低下した状態にあり、何かしらのきっかけで相場が大きく動くようになると、国債の流動性の問題が再浮上することも予想される。果たして日銀の当座預金100兆円突破は何を意味するのか。今後は副作用の面を含めて検証する必要もあるのではなかろうか。