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プラスチック・マネー

久保田博幸金融アナリスト

プラスチック・マネーといってもクレジットカードなどのことではない。イングランド銀行はプラスチック製紙幣の導入を検討しているそうである(9月10日のブルームバーグ)。

この計画をロンドンで発表したイングランド銀行のカーニー総裁は、ポリマー製の紙幣は紙のお札より清潔かつ安全で耐久性も高いと説明。切り替え決定となれば、ポリマー紙幣は2016年にも流通し、チャーチル元首相の肖像も採用されるそうである。

プラスチック製紙幣(ポリマー紙幣)は1988年にオーストラリアで発行されたのが最初とされる。カーニー総裁は、カナダ中央銀行総裁時代にポリマー貨幣を導入したが、この結果、偽造が大幅に減少したとされている(毎日新聞)。シンガポールやニュージーランドなど記念紙幣を含め、世界各国ですでに発行されている。ただし、イギリスで発行されるとなれば、日本でも検討課題に挙がることも予想される。

少し気が早いが2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催に向けて、記念硬貨が発行されようが、プラスチック製の記念紙幣というのも面白いかもしれない。ただ、政府発行の硬貨ではなく日銀発行の銀行券での記念紙幣というのは発行が可能なのか。それはさておき、この紙幣が生まれたのがいつ頃なのかをご存じであろうか。

中国の唐の時代の後期に、茶・塩・絹などの遠距離取引が盛んになるなど商業の発達に伴い銭貨の搬送を回避する手段として「飛銭」と呼ばれた送金手形制度が発生した。高額商品の売買には銭貨の「開元通宝」などでは量がかさんでしまう上、途中での盗賊などによる盗難の危険もあった。このため、長安や洛陽などの大都市と地方都市や特産品の産地などを結んで、当初は民間の富商と地方の商人との間によって「飛銭」という送金手形制度が開始された。これはたいへん便利なものであるとともに、手数料収入に目を付けた節度使(地方の軍司令官)や三司(財政のトップ)などもこれを模倣した。

飛銭を利用する際に使われた証明書(預り証)が、宋代になると交子・会子・交鈔・交引などと呼ばれ、証明書それ自体が現金の代わりとして取引の支払に用いられるようになった。特に四川地方で発行された交子は世界史上初の紙幣とされている。

紙幣はたいへん便利なものであったことで、その需要が増え、それに目をつけた政府は軍事費に当てるための財源として交子を乱発し、その価値を失ってしまった。政府に発行をまかせると紙片を乱発しかねないのは歴史が証明している。その後、新たな紙幣を発行するものの、やはり信用を落としてしまい、最終的には銅銭が復活することになった。

なぜ中国で世界最初の紙幣が誕生したのであろうか。貨幣の材料となり、貴金属などの産出が限られていたこともあるが、宋や元の時代の国家権力が強かったことも要因と指摘されている。それとともに遠隔地との交易など商業の発達がそれを促したものといえよう。紙そのものが中国で発明されたものであり、さらに印刷術も発達していたことが、紙幣の発行を可能にしたといえる。マルコ・ポーロの「東方見聞録」には、元で通貨ではなく紙幣で買い物をする様子を見て驚く場面が登場する。これからも当時のヨーロッパなどでは紙幣が使われていなかったことがわかる(拙著「マネーの歴史 世界史編」より一部引用)。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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