米と独の長期金利は何故底打ちしたのか。日本の長期金利は何故底打ちしないのか
2013年8月19日に米国の10年債利回り(長期金利)は2.9%台に乗せてきた。2.9%台に乗せるのは2年ぶりとなる。
その2年前の2011年7月下旬頃の米長期金利は3%台にあったが、そこから8月上旬にかけて2%近くまで低下した。このとき何か起きていたのか。
2011年8月4日の米国株式市場ではダウが512ドル安となり、またS&P総合500種は60ポイントの下げと2009年2月以来で最大の下げとなった。米国債券市場では、2年債利回りが過去最低水準をつけ、米10年債利回りは2.4%近辺に低下。資金を預金にも移す動きが出ていた。外為市場では、スイスフランや円が買い進まれ、この対応のため、3日にスイス国立銀行は突然、金融緩和策を発表した。4日に政府・日銀は円買いドル売りの為替介入を行ない、日銀は予定していた金融政策決定会合を午前11時15から前倒しで開催し、それも2日の予定から1日だけに短縮し、資産買入等の基金を40兆円から50兆円と10兆円追加するという追加緩和策を決定した。
これらの動きはいわゆる「リスクオフ」と呼ばれたものであった。資金の運用対象をリスクの大きなものから、より安全な資産に振り向けるという動きである。当時の欧州の信用不安はイタリアやスペインまで波及していた。また、懸念材料となっていた米国の債務問題は期限ぎりぎりになって合意に向かうこととなり、安全資産として米国債が一気に買われた側面もあったとみられる。
ここにきてドイツの長期金利も上昇してきており、1.9%台に乗せてきた。こちらは2%が見えてきたが、もし2%台を回復となれば、2012年3月以来となる。その2012年3月当時の状況を確認してみると、欧州ではECBによる3年物の資金供給オペ(LTRO)の効果が発揮されていた。ECBは二度に渡る3年物資金供給オペで総額1兆ユーロに上る流動性を供給し、これがドイツの長期金利の一段の低下に繋がった。
米国とドイツの長期金利はそれぞれ2012年7月と2013年5月に底打ちした格好となっている。2012年7月にはスペインの銀行救済向けの最大1000億ユーロの金融支援を最終承認したが、銀行問題だけではなく地方財政の問題があらためてクローズアップされ、ギリシャの債務問題が再浮上する可能性も指摘されるなど、欧州の信用不安が高まりを見せたときに米長期金利は底打ちしていたのである。
ドイツの長期金利も2012年7月にいったん底をつけて上昇していたものの、2013年5月に再び最低金利を更新した。これは5月2日のECB政策理事会で政策金利の0.25%引き下げを決定。中銀預金金利はゼロ%に据え置いたが、ドラギECB総裁はこの中銀預金金利をマイナスに引き下げる可能性を示唆。これを受けて2日のドイツ連邦債先物は過去最高値を更新し、2年債利回りは再びマイナスとなっていた。しかし、ここを底にしてドイツの長期金利は上昇に転じたのである。
米国とドイツの長期金利は、2013年5月初旬あたりから最近にかけて上昇基調が続き、それぞれ3%と2%という節目に接近している。英国債も米国債と同じような動きをしており、こちらも3%と言う節目に接近しつつある。そのきっかけはFRBの量的緩和の縮小観測となっているものの、それはあくまできっかけに過ぎない。米独英の長期金利の推移を見る限り、欧州の信用不安が後退し、それとともに欧米の景気も回復基調となっていたことが要因であるのは確かであろう。
これに対して、日本の長期金利が0.7%台にいることにむしろ違和感を覚える。世界的な金融経済危機が後退し、長期金利の歴史的な超低金利時代からの脱却が始まっており、足下の国内景気についても回復基調となっているにも関わらずである。FRBによる大量の国債買入はいまだ継続されているが、それでも米債は売られている。日本の長期金利が低位安定しているのは日銀の大量の国債買入も一因ではあろうが、それだけで相場が支えられるものではない。何故、日本の長期金利は上昇しないのか。日銀の異次元緩和によるデフレ脱却を債券市場参加者は信じていない側面もあろうが、日本の長期金利が超低位に居続けている要因も、あらためて意識する必要がありそうである。