アベノミクスのほころび
8月8日の金融政策決定会合後の記者会見で、黒田日銀総裁は消費税率を来春に引き上げても「成長が続く」と強調し、政府の財政規律が緩めば「金融緩和の効果に悪影響がある」とも指摘した(8月9日日経新聞一面記事より)。
消費増税により国民負担が増加することは確かであるし、1997年の消費増税がデフレを深刻化させた原因と指摘する声がある。ただし、これは日本の不良債権問題の深刻化、アジアの通貨危機等の影響が多分に大きかった。
そもそも消費増税が必要とされるのは財政再建のためである。政府は中期財政計画を閣議了承したが、目標は掲げたものの消費増税を前提にせず暫定的なものであり、具体策は盛り込まれていない。
異次元緩和によるデフレ脱却を前提とした成長率の見通しも高く見積もられているが、異次元緩和で成長率を引き上げる経路はリフレで驚かせて円安とさせた以外には見当たらず、「気合い」に期待が掛かっているような状態にある。ただし、異次元緩和とは別に、世界的なリスク後退に伴う景気回復については期待できる面があることは確かであるが。
問題となるのは、アベノミクスを生み出した安倍首相が消費増税に対する姿勢をぐらつかせていることであり、これはつまり本音では先延ばしを意識していると思えることである。だからこそ、アベノミクスの片棒というか両棒を担がされた黒田日銀総裁が異例ともいえる政府への牽制発言を行ったのではなかろうか。
ここにきての東京市場では午後の時間帯を中心に、円高・株安が進行している。ヘッジファンドなど海外投資家によるポジション整理との見方が強いが、そのポジションを落としている要因として、アベノミクスへの懸念が背景にある可能性がある。
アベノミクスとはデフレ脱却を目指すとして、日銀法改正までちらつかせ、安倍首相が自ら選んだ黒田氏を総裁にして異次元緩和を実行させた。その異次元緩和は国債の大量買いが中心にある。ここで問題になるのは、金融緩和として日銀が積極的に国債を買い入れるというのであれば、市場では好感されるとしても、それはあくまで財政ファイナンスではないということが前提となる。日銀が財政の片棒を担ぐことになれば、結果として財政法で禁じられている国債引受と何ら変わらぬことになる。
日銀の巨額の国債買入による異次元緩和が財政ファイナンスではないとする担保として、政府による財政再建があり、財政規律の維持が必要となる。ところがその要となっている消費増税すらアベノミクスを生み出した本人が先送りを意識しているとなればアベノミクスへの信認がほころぶ可能性がある。
麻生財務相は閣議了解された中期財政計画について、財政健全化に向けたきちんとした答えを出したと述べたそうだが、少なくとも消費増税が予定通りに実施されなければ、国際公約が守られているかどうかも疑わしい。IMFも指摘したが、日本政府の財政規律への姿勢が今後の世界的なリスクになる懸念も存在する。アベノミクスはひとつ方向を間違えると大きなリスクを孕む政策であることは、その模範とした高橋是清による高橋財政後をみても明らかである。