トップが変われば政策も変わる中央銀行
2011年11月にトリシェ氏の後任として第3代欧州中央銀行総裁に就任したのが、マリオ・ドラギ氏。欧州の信用不安が強まるなか、ドラギ総裁は就任後、12月8日にECB定例理事会で政策金利を引き下げた上に、流動性を供給するため期間3年の長期リファイナンス・オペ(LTRO)を新設するなど手を打ってきた。2012年7月にはユーロを守るために「必要なことは何でもする」と宣言し、これをきっかに市場は落ち着きを取り戻した。9月のECB理事会では市場から国債を買い取る新たな対策を正式に決定。あくまでその準備を整えただけで、実際に使用することはなかったが、これも欧州の信用不安を後退させる要因となった。トリシェ氏からドラギ氏に変わったことで、市場はその不安感を後退させてきたとも言えた。
日本銀行は2013年3月20日に総裁と副総裁、いわゆる執行部が入れ替わった。昨年12月の安倍政権の登場で、アベノミクスを全面支援する格好となり、いわゆるリフレ派と呼ばれる人達の主張を取り入れた。異次元緩和と呼ばれた金融緩和策を、黒田総裁を中心に実行に移したのである。これまでの日銀からみれば180度異なる考え方でもあり、日銀の政策が総裁交代によって大きく変わったことになる。壮大な実験との見方もされるような金融政策が実施されている。
イングランド銀行では、2013年7月1日に総裁がキング氏から、カナダ中銀総裁であったカーニー氏に交代した。初の外国人の総裁登用であった。カーニー総裁はどうやら、キング総裁の政策をそのまま受け継ぐのではなく、こちらも独自色を出してきつつある。キング総裁は量的緩和の拡大を目指していたが、カーニー氏はそれをいったん封印し、フォワード・ガイダンスを導入しようとしている。7月31日、8月1日のMPCではフォワード・ガイダンスの詳細が発表されるとみらる。このあたりからよりカーニー色が強まることが予想される。キング前総裁は英国のインフレターゲットの導入の際の中心人物でもあり、自ら総裁となってからもそれを進めてきた。カーニー総裁の古巣のカナダ中銀もインフレターゲットを導入しているが、どうも今後のイングランド銀行の金融政策の主軸はインフレターゲットというよりも、フォワード・ガイダンスに置かれる気配がある。
このようにECB、日銀そしてイングランド銀行と、世界を代表する中央銀行はトップの交代とともに、その政策の舵取りを変えてきた。リーマン・ショックから欧州の信用不安という百年に一度とされるような世界的な金融危機のなか、財政政策には限度があり、その分、日米欧の中央銀行の政策に負担が掛かった。そんな状況下での中央銀行のトップの交代ではあったが、ドラギECB総裁はその不安払拭を成功させつつあり、イングランド銀行も市場の落ち着きから総裁交代をきっかけに、それぞれ非常時の対応から変化の兆しが見えてきた。
そして、FRBもバーナンキ議長は来年1月にも退任するとみられ、こちらの後任も注目されている。報道によるとバーナンキFRB議長の後任にはイエレン副議長とサマーズ元財務長官の名前も挙がっているようである。イエレン副議長であれば問題はなさそうだが、市場はあまりサマーズ元財務長官は歓迎していないようで、このあたりオバマ大統領が誰を指名してくるのか注目される。バーナンキ議長はそのバトンタッチの前に、オープンエンドの債券買入を縮小させて、こちらも軸足をフォワード・ガイダンスに変更しようとしているように見える。
FRBのトップが変われば、日米欧の中銀のトップがみな入れ替わることになる。それぞれのトップの手腕が試されることになるが、今後、どうやら求められるのは非常時の対応ではなく、非常時からの出口の対応となりそうである。ただし、これには日本銀行を除くが。