異次元緩和による国債市場への影響(佐藤日銀審議委員の講演より)
7月22日の日銀の佐藤審議委員による福島での講演内容がなかなか興味深い。4月の異次元緩和による、日本の長期金利がボラティリティを伴って上昇したことについては「政策期待から買われて実際の政策発動とともに材料出尽くしで売られた」とし、「巨額の国債買い入れが国債市場のリスク・プレミアムに働きかけ、名目金利を抑制する一方、政策効果が発現すれば経済・物価情勢の改善を先取りする形で名目金利には上昇圧力が加わる」との二面性に着目したボラティリティ上昇が影響したと分析している。また「日本銀行が短期金利安定へのコミットメントを放棄したのではないかとの誤解が一部にみられた」とも指摘している。
4月5日の国債市場の動きについては、債券先物や長期金利とされる10年国債の利回りの変動幅などが注目されたが、最も注意すべきは岩盤のように動かなかった中期債の利回りが大きく上昇したことにあった。この背景には日銀が銀短期金利安定へのコミットメントを放棄したためとの見方は確かにあった。ただし、どうやらそれだけではなかったように思われる。
この際の中期債を主体とした売りは都銀によるものとみられ、その都銀は4月だけでなく、5月と6月も国債を大きく売り越している。この背景には佐藤委員も指摘した、物価目標とそのための巨額の国債買入による長期金利への働きかけが、両方向に働きかねず、それがボラティリティを上昇させたこともあると思うが、それだけであろうか。
佐藤委員は次のような指摘もしている。
「日本銀行の買入れの効果が発揮されたこともあり、昨年末以降の株価上昇や為替レートの変動に比べて、長期金利は相応に抑制された状態にある。また、5月末以降、大幅な変動に見舞われた米国債市場との対比でも、日本の国債市場の安定はここもと際立っている。」
足下の日本の長期金利は0.8%を割り込んで来ている。たしかに株や為替の動きに比較すれば、長期金利の上昇は抑制されており、米国の長期金利が大きく上昇しても、それに日本の長期金利が付いていくような結果とはならず、これは日銀による国債の巨額買入が功を奏しているとの見方も確かにできる。
そもそも国債市場のボラティリティの上昇の原因は、池の中に飛び込んだクジラの存在が大きい。つまり、年間発行額の7割も超長期債を含めて日銀が購入することによる国債市場の流動性の低下が懸念されたのである。ただし、公社債投資家別売買状況を確認する限り、全体の売買高そのものが大きく減少していたわけではない。ところが、そんななかにあり、極端に売買高を減少させてきている業態があった。都銀である。都銀は残高そのものを減らすばかりでなく、売買高も大きく減少させている。
都銀というかメガバンクは国債市場の流動性を供給してきた業態であり、元祖池の中のクジラと呼ばれたような存在でもあった。そこが動かなくなると、日々の流動性が落ち込む事は避けられない。国債市場は入札によって発行された国債の一部を投資家に販売し、その多くを日銀に売却するだけのような市場になりつつある。ここにきての債券市場の動きが乏しくなってきているのも、国債の流通市場の低迷が影響している。この点を本来注意すべきと思うのだが、これについての佐藤委員からの指摘がなかったことが、やや気掛かりでもある。