これからアベノミクスの真価が問われる
7月21日の参院選挙では、自民党が大勝し自民・公明両党は76議席を獲得し(自民65、公明11)、非改選を含め参議院の「安定多数」を確保して衆参のねじれが3年ぶりに解消された。
参院での安定多数とは、与党で参議院にある17の常任委員会すべてで委員長を出したうえで、野党側と同じ数の委員を確保できる129議席を上回ることであり、今回、自民・公明両党は非改選を含めた135議席を確保しそれを上回った。
昨年の衆院選挙、今年6月の東京都議会選挙の勢いが継続しての、予想通りの自民党の圧勝となった。昨年11月以来のアベノミクスの登場と、それによる円安・株高、さらに足下景気の回復なども追い風になったものと思われる。
衆院議員の任期満了は2016年末であり、その前に衆院解散がなければ、3年後の参院選(2016年の夏)までは国政選挙はない。安倍政権はその間、よほど支持率を急低下させるようなことがなく、また首相の体調が維持されていれば、安定政権を維持することができる。
アベノミクスに関しては、うまく風に乗った感があり、急激な円安と、その円安にも影響されての株高が国民の期待を引きつけた格好となった。リフレ政策を全面に打ち出した政策であるために、安倍首相が選んだ日銀の黒田総裁はそのリフレ策を具体化し、異次元緩和を行った。
アベノミクスの三本の矢のうちの財政政策は公共投資等を増加させたが、従来型の対策であり、その効果も限られよう。しかし、今後は補正予算を編成しての追加対策も実施される可能性がある。これについても従来型の政策の延長となるのではなかろうか。
今後期待されるのが、選挙前はなかなか身動きが取りづらかったと思われる成長戦略となるが、自民党の政権基盤を考慮すると既得権者を意識して、思い切った規制緩和等は行いづらいのではなかろうか。むしろそれを保護すべきバラマキ型の政策がとられる可能性がある。
アベノミクスは結局、異次元緩和による期待がその中心にあるわけだが、今後はそのベールが次第に剥がされることが予想される。少なくとも日銀のバランスシートを拡大させることで、物価上昇に働きかける経路が存在していない。現在は世界的なリスクの後退、米国経済の回復期待、それらによりリスクオンの動きに乗っかっている状況で、一見してアベノミクスが効果を発揮しているかにみえる。実際のところはリフレ政策に飛びついた海外投資家による円安・株高の動きが背景にあった。円安による景気・物価への影響はもちろん考慮しなくてはならないが、異次元緩和が直接、物価や景気に働きかけているわけではない。
しかも中央銀行による大胆な国債買入というリフレ政策をとってしまった以上は、財政ファイナンスではないことを強くアピールする必要もある。それでなくても巨額債務を抱えているため、19日、20日のG20でも表明されたように、日本に対しては世界経済安定化のためにも、財政の健全化が求められている。
今後の安倍政権にとってはいくつかの課題が挙げられている。そのなかでも注目されるのが消費増税の行方となる。安倍首相は消費税率の引き上げについては「経済指標を見ながら、どう判断していくか決めていく」と語り、引き上げるかどうかを判断する時期については「秋に判断していきたい」と指摘していた。それに対して、G20に出席していた麻生財務相は消費増税については、上げる方向で予定どおりやりたいと述べていた。ただし、浜田宏一内閣官房参与からは「極めて慎重に判断すべきだ」との発言もあった。
いまのところ、足下景気の回復基調もあり、2014年4月の8%への引き上げは実施されるであろうとみられている。財政再建をアピールする上でも、消費増税の先送りは避けるべきである。ここで財政健全化への姿勢が揺らぐと、日銀による大量国債購入がいずれ財政ファイナンスと意識される懸念も存在する。
とにかく最も問題なのは異次元緩和の経路であり、金融緩和はあくまで時間稼ぎの手段であることを認識すべきである。それに頼り切ることになってしまうと、期待が膨らむことを意識した政策であっただけに、その期待があっさり消えて不安に繋がりかねない。そのために必要なのは成長戦略であると思うのだが、とにかくこれからアベノミクスの真価が問われることは間違いない。