異次元緩和からの出口と長期金利
欧州中央銀行(ECB)とイングランド銀行(BOE)は、金融政策の軸足を国債の買い入れによる保有資産の拡大から、フォワード・ガイダンス(時間軸政策)に移す。イングランド銀行は7月31日、8月1日のMPCにおいて、フォワード・ガイダンスについて何で縛りをかけてくるのかを検討してくるとみられ、8月1日のECB理事会どの同様の検討が行われるものとみられる。
FRBもバーナンキ議長の発言などから量的緩和の縮小を検討してきているのが明らかで、経済指標等を確認しながら、早ければ9月にも買入資産の縮小を開始するものとみられる。こちらも債券買入による量的緩和策から、フォワード・ガイダンスに転じようとしている。
FRB、ECBそしてBOEの動きは、ユーロ圏の信用不安等による世界的なリスクの後退が顕著となり、非常時の対応策であった量的緩和・信用緩和政策からギアを入れ替え、平時の対応にシフトしつつある。それぞれ目的は異なり、FRBは景気や株価の下支え、ECBはまさらユーロ圏の国債価格の安定化のために、国債を主体とした資産の買入を行ってきたが、その副作用が生じる前にギアをシフトダウンさせようとしている。
サブプライム問題からリーマン・ショック、さらには欧州の信用不安による世界的な金融経済危機の影響を受けたのは日本も同様であり、日銀も軸足を国債買入を主体とするものに移し、さらにはフレキシブルなインフレ・ターゲットも導入した。このあたりまでであれば、今回の欧米の中銀のようにギア・シフトは比較的楽であったはずであるが、アベノミクスの登場で、ギアを動かすことがかなり難しくなってしまった。
リフレ政策を取り入れたことにより、フレキシブル・インフレ・ターゲットからフレキシブルの文字は消えた。さらに2年間で2%の物価目標を達成するという期間を定めた目標は、達成することが無理との見方が多い。それでもその目標に向かって猪突猛進してくるのであれば、もしかすると可能かもしれない。いやすでに物価は上昇しつつあり、可能性がないわけではない、との見方もある。つまり日銀のこの目標については、時間軸がはっきりしないことになる。むしろ物価が2%となり、金利もそれに応じて上昇するとなれば先行きのガイダンスは金利の上昇を促すことも予想される。このあたりも異次元緩和後の長期金利が暴れたひとつの要因であった。
欧米の中央銀行はリスク後退から、次元の異なる金融政策から次元に応じた金融政策にシフトするなか、政府の意向も加わった日銀はすでにブレーキは使用できない状態にある。物価目標の達成が困難との見方が強まれば、さらに速度を速めることも予想される。
肝心の日銀の金融政策が物価に働きかける経路については、かなり不透明となっている。フィリップスカーブの上方シフトを期待というか気合で促すとの手段以外に明確な説明はない。すべて期待で何とかなるのであれば、金融政策も経済政策も必要なくなるのだが。3つの経路の説明もあったが、長期金利は下がってないし、ポートフォリオのリバランス効果が働いている兆しも見えない。
いずれにしても日銀は欧米の中銀が重い鎧を脱ぎ捨てようとしてるときに、さらに重装備となり、いずれ身動きが取れなくなることも想定される。物価が上がれば、それですべてうまくゆく、日銀が国債を買えば誰にも負担をかけることなく万事事が運ぶなどということが起きるとは考えられない。期待という目に見えず、さらに移ろいやすいものに頼ってしまうと、その期待が低下したときにさらに期待を高めるには、もっと思い切った行動を取らねばならず、それは中銀のリスクを拡大させかねない。
ブレーキのない金融緩和では出口を模索しようがない。2%の物価目標が見通せなくなると、追加緩和といっても2度目の大胆な緩和策などない。それこそ日銀が国債引き受けを宣言するような事態にもなりかねない。期待で本当に物価が2%に上昇したとすれば、そのときの名目上の長期金利の居所もかなり気掛かりとなる。大量の債務を抱えての長期金利の2%越えすら日本では経験していない。長期金利の変動幅が大きくなり、制御するのが困難になる可能性もある。そのようなときに出口政策を取ろうとすると、長期金利の上昇に拍車がかかる懸念も生じる。現在の日銀はいずれにしても、大量の国債買入という非常手段を講じたまま、物価の上昇、つまりは長期金利の跳ね上がりを待っている状態にある。これはかなりリスクの高い政策であろうことは間違いない。