日銀の資金供給オペの期間延長は必要か
日銀は長期金利の乱高下を抑制するため、現在1年以下に限定されている資金供給オペの期間を2年以上に延長することを議論するそうである。早ければ6月10、11日開催の金融政策決定会合で具体的な検討に入ると、ロイターが伝えている(4日付けの日経新聞でも)。
資金供給オペとは、固定金利方式・共通担保資金供給オペレーションのことであり、共通担保資金供給オペレーション基本要領によると、金融市場の情勢等を勘案して貸付けのつど決定する「1年以内の期間」とする、としている。
ただし、期間1年という最長期間の共通担保資金供給(全店、固定金利方式)オペをオファーしたのは、異次元緩和後の4月11日が最初であった。この際は異次元緩和で日銀の当座預金の付利が撤廃ないし引き下げられなかったことも影響したが、異次元緩和によりこれまでの中短期債のアンカーが外れるとの懸念などから、中期ゾーンの利回り上昇があり、それを抑えることが目的であった。
中短期債のアンカーが外れるとの懸念というのは、日銀は異次元緩和で国債をさらに大きく買い入れるものの、その主軸はより長い期間の国債に移ることになった。これまでの日銀の買い入れは期間3年以下の中短期債に集中しており、ここが金利のアンカーとして機能していたが、そのアンカーの機能が後退するとの見方である。
異次元緩和後の国債利回りの上昇に対しては国債買い入れの細分化などよりも、シグナルオペと呼ばれる資金供給オペが効果的であった。さらにロイターによると1年以上の資金供給に対する要望がメガバンクを中心に出ていたそうである。このため、資金供給オペの機能強化が検討されているとしてもおかしくはない。
ここにきての株価の下落要因として長期金利の上昇も指摘されており、そのための長期金利抑制効果もある。資金供給オペの期間が2年以上となれば、2年国債の利回りも固定金利の0.1%以下に抑えることが可能となる。もし3年あたりまでとすれば、3年国債までの利回りも0.1%に押さえつけることも技術的には可能となる。
2011年12月8日のECB政策理事会で、流動性を供給するため期間36か月の長期リファイナンス・オペ(LTRO)を新設し、これが効果を発してユーロ圏の国債価格の安定化のひとつの要因となった。この事例も参考にされたものと思われる。
このLTROにより、ユーロ圏内の銀行は国債投資に資金を振り向けたが、日本でも同様のことが起きることも想定される。銀行による国債投資のインセンティブを強化してしまうことになるが、果たしてこれは異次元緩和の目的と整合性はあるのかという疑問も残る。
ECBの場合には非常時対応として導入したLTROであるが、現在の日銀は特に非常時の対応を迫られているわけではない。ある意味、異次元緩和で長期金利の低下をはかるとしながら、その長期金利が上昇してしまい、メンツが潰されてオペの期間を延長するというのは、どこかおかしくはないか。
市場が言うことをきかないとして、もし資金供給オペの期間を5年や10年に期間を延長し、長期金利までも0.1%に引き下げるとすれば、まさに規制金利に逆戻りかねない。さらに今後はテレビ価格の影響もあるが、円安による影響もあってCPIはプラスに転じてくることが予想される。もしファンダメンタルズを無視した金利操作が行われれば、必ずそのゆがみが市場で生じかねない。
資金供給オペの期間延長はたしかに長期金利の抑制に効果はあると思うが、副作用も想定されるため、その議論はかなり慎重に進める必要があろう。