国債の利回りが大きく動いた理由
15日に10年国債の利回り、つまり長期金利が0.920%に上昇した。5年債利回りも0.455%に上昇している。10年国債の利回りは4月5日に0.315%まで低下しており、そこからは約3倍に。5年債利回りは3月上旬に0.1%近辺にあり、そこからは約4倍となっていた。ちなみに昨年12月にスイスの10年債利回りは0.36%近辺まで低下しており、それまでの世界の長期金利の史上最低を記録していたが、4月5日に日本の長期金利がその記録を塗り替えたことになる。
これほどまでに国債の利回りが大きく動いた理由は何なのか。ちなみに10年国債の利回りは長期金利と呼ばれる。国債の利回りが低下するということはすなわち国債価格が上昇することであり、国債の利回りが上昇すればすなわち価格は下落するということになる。
4月4日の日銀による異次元緩和により大きく変わったのが国債を売買する流通市場、つまり債券市場であった。特に4月5日の債券市場で、10年債利回りは0.315%まで低下したあと、0.620%まで急上昇した。まれに見る相場の変動であった。債券価格で言えば急騰後、急落したことになる。ではなぜこのタイミングで国債は売られたのか。
実は米国でも量的緩和を実施した際に、米国債はやはり下落していた。これは期待で買って事実で売るという、相場の格言が生かされたような動きであった。つまり、FRBは量的緩和をするぞとの期待で買い進まれていたが、実際にそれが決定されると、むしろ利食い売りが入ったのである。さらに将来のインフレも懸念されて30年債など、特に長い期間の国債に売りが入った。
4月5日の日本の国債市場も同様に、異次元緩和で国債が買われたところに利益確定売りがぶつけられた側面があったと思われる。この日の20年債、30年債ともあっさりと1%割れとなっていたが、2003年6月にやはり1%割れとなったあたりで相場が急反転したこと(VaRショックと呼ばれる国債急落)も思い出されたのかもしれない。この日は特に中期ゾーンから長期ゾーン主体に売られており、銀行主体の売りであったかと思われる。横浜銀行の寺沢辰麿頭取は横浜で開いたアナリスト説明会で、残存期間5年以上の国債はすべて売却したと話したと報じられたが、同様の動きをした銀行もほかにあったものと推測される。
4月8日に今度は超長期債が大きく下落している。これは日銀という池の中のクジラの存在が大きく意識されたと思われる。それでなくても超長期国債の流動性はあまり高くない。その超長期債を含めて、日銀が国債発行額の7割を超える額を買い入れることで、あらためて流動性が意識されてきたものと思われる。
その後は次第に相場は落ち着きを取り戻すかに見えたが、5月10日のドル円の100円突破が意識されて、あらためて銀行などが中長期債に売りを持ち込み、先物へのヘッジ売り等もあり相場は再び急落した。4月5日以降の相場変動を受けて、銀行などはリスク管理上、ある程度の相場の動きにより、リスクを減らさざるを得なくなっているとみられ、それで売りが売りを呼ぶような展開となってしまったものと思われる。
今回の債券相場の下落は、異次元緩和により大きな価格変動が生じ、さらには国債の流動性低下も意識されたことで、いわゆる債券の価格変動リスクと流動性リスクが意識された売りと言える。債券から株や外債への資金シフトが要因といったわけではないと思われる。
問題となるのは、これ以外のリスクも意識されているかどうかということである。つまり、債券市場関係者は日銀の異次元緩和により本当に物価が上がると思って、国債を売っているのか。これについては日銀が物価上昇に向けた経路に長期金利の低下という項目を入れている限り矛盾がある。ただし、ポートフォリオ・リバランスへの影響は円安・株高もあり意識されようが、それで果たして経済は上向いてそれが物価上昇に繋がるのか。日本の1~3月期GDPは年率3.5%の高成長となっていはいたが、設備投資は低迷しており、いまのところそれも疑わしい。
さらに債券には価格変動リスクと流動性リスクとともに信用リスクというリスクが存在する。日銀の異次元緩和による巨額な国債買い入れは実質的な財政ファイナンスとの見方もある。しかし、財政ファイナンスはあくまで政府側の意向・態度次第である。また国債の直接引き受けでもない。欧米の中銀も同様に巨額の国債を買い入れているが、それを財政ファイナンスとはみなされてない。このような点からみれば、そのリスクは意識されていたとしても、それにより日本国債を売っているというわけではないと思われる。
今回の日本国債の下落がどのタイミングで止まるのかは、結局、相場が落ち着いていわゆるボラティリティの低下、つまり価格変動が収まり、銀行などのリスク許容度の回復を待つ必要がある。それにはまだ時間が掛かることが予想される。