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バイバイ緩和の弊害

久保田博幸金融アナリスト

黒田日銀のキーナンバーは「2」であり、コアCPIの「2%」という物価目標に対しては「2年」程度の期間を念頭に置いて、マネタリーベースおよび長期国債・ETFの保有額を「2年間」で「2倍」程度とし、長期国債の平均残存年数を現行の「2倍」以上にする。つまり倍にするということで、その倍がたくさんあるのでバイバイ緩和と勝手に名付けてみた。目的がデフレからのバイバイでもある。

そのバイバイ緩和で、日銀とすれば余計なものまで倍になった。5日の10年国債の利回り、つまり長期金利は過去最低、世界でもギネス級の記録になりうる0.315%まで低下後、急上昇し0.620%に上昇した。5年債利回りも0.135%から0.210%に上昇、5年債は以前に0.1%近辺まで低下していたので、そこからはまさに倍。8日の6か月物国庫短期証券入札結果は、最高落札利回りが0.0997%と前回の0.0478%からやはり倍近い上昇となった。

さらにさすがに倍とまではいかないが、超長期債の利回りも8日から9日にかけて急ピッチで上昇していた。日銀が発行額の7割も買うのに、何故、債券は売られるのか。もちろん歴史的な超低金利となったことで、4月ということもあり、噂で買って事実で売るという、利益確定売りを優先させた面も、5年債や10年債にはあったのかもしれないが、短期市場や超長期市場には別な要因も存在している。

短期債の利回りが大きく上昇(0.05%でも短期債にすれば大きい)した理由は、日銀の超過準備の付利撤廃への期待が残っていたことがまずある。マネタリーベースというか日銀の当座預金残高を増やすには付利の撤廃は難しい。現実にそれは温存されたことで、1年以下の金利も付利の0.1%近辺に戻ったということになる。1年以上の国債の買入は明らかになったものの、1年以下の国庫短期証券の買入予定などがはっきりしておらず、短期債の利回り上昇(価格は下落)要因となっている。

それよりも問題が深刻なのは、超長期国債の値動きである。日銀が40年債まで購入すると言っているのに、何故、超長期債も売られているのか。それは超長期債を購入する投資家としては、一時1%割れとなった20年債や30年債の利回りは、運用を考えれば逆ざやとなりかねず、手が出しづらい面がまずある。2003年6月のVARショックと呼ばれた国債の急落の要因は、1%割れの超長期国債は購入しないとの大手生保の意向が新聞に大きく取り上げられ、実際に入札においても買いが控えられたことによる。

利回りは低下する上に、それでなくても中長期債に比べて流動性が低い超長期債市場で新発債を含めて日銀の購入割合が高まってしまうと、市場で取引される国債の量そのものが減少してしまう。つまり流動性リスクが高まってしまうことになる。その兆候はすでに現れており、ここにきて超長期債のオファーとビッドは大きく離れてきている。業者も流動性リスクを抱えた買いや、あとで手当てを考えての売りもしにくい。投資家にとっても実勢に見えるものより、高いところで買ったり、安いところで売らざるを得ず、手が出しにくい。さらに今回のバイバイ緩和により、生保などは今年度の運用計画を白紙にせざるを得ず、あらためて練り直しているところも多いとみられ、その分、あらたな超長期債への買いが手控えられている面もあるかもしれない。このような板付きの中、超長期債は業者などのポジション調整などで下落していると思われる。将来の金利上昇を見越した海外投資家の売りが控えているとの声も出ている。

毎月の国債発行額の7割を買って、保有する長期国債の平均残存年数を現行の2倍以上とする今回の異次元の日銀の金融緩和は決して国債市場にとって良い状況をもたらすとは言い切れない。この緩和策は財政ファイナンスではないと日銀は宣言したが、銀行券ルールは外し、5年債や10年債などの新発債も購入する。政府の動向次第では、財政ファイナンスへの懸念を強めさせかねないというリスクも孕む。市場が荒れて市場参加者に不安心が募ると、国債に対する信認・信用にヒビが入りかねないことにも注意する必要があろう。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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