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黒田日銀のレジーム・チェンジ?

久保田博幸金融アナリスト

3月20日に日銀は新体制がスタートした。安倍首相の辞令交付は20日が祝日であったため21日となったが、黒田東彦総裁、岩田規久男副総裁、中曽宏副総裁の任命日は20日となる。ただし、黒田総裁は白川前総裁が任期を待たずに退任したことから、3月20日から4月8日までがとりあえずの任期となり、4月9日以降の5年間分はあらたに国会同意が必要となる。ちなみに日銀の総裁副総裁及び審議委員の任期は五年で再任できるが(日銀法第二十四条)、日銀法改正後の速水氏、福井氏、白川氏、ともに再任はなく、黒田総裁が再任されると初めてのケースとなる。

日銀の金融政策決定会合の議長、つまり政策委員会の議長については黒田総裁となるが、事故がある場合に議長の職務を代理する者および代理する場合の順位については、第一順位が岩田規久男副総裁、第二順位が中曽宏委員、第三順位が審議委員で先任の宮尾龍蔵委員となっている。これに対して、執行機関としての日銀総裁の職務を代理・代行する場合の順位については、第一順位が日銀出身の中曽宏副総裁、第二順位が岩田規久男副総裁、第三順位が企画担当理事(雨宮理事)となる。このあたりの順位もなかなか興味深い。金融政策の決定については、安倍首相の押すリフレ派筆頭の岩田氏が上位となるが、日本の金融のインフラを支えている日銀の業務については、さすがに岩田氏ではなくその業務にも精通している中曽氏が上位となっている。

21日に黒田東彦総裁、岩田規久男副総裁、中曽宏副総裁による就任会見も開かれた。黒田総裁は2%の物価上昇率目標達成へ「量的、質的両面から大胆な金融緩和を進める」と表明した。目標達成については2年で達成できれば好ましいとした。

この目標達成について岩田副総裁は、達成できなければ、まず説明責任を果たす。ダメなら辞任するとの発言を今回も繰り返した。これに対して麻生財務相は21日、日銀の岩田氏による2%の物価目標を「2年で達成できる」と答弁したことに関連し、「学者とはこんなものか。実体経済が分かっていない人はこういう発言をするんだと正直思った」と述べ、否定的な考えを示した。安倍首相の考え方に最も近い一人が岩田規久男氏であり、間接的ながらリフレ派である首相とアンチリフレ派とも見える財務相の見方の違いが明らかになった。

臨時会合があるかないかを私から特に申し上げるべきではないと黒田総裁は語ったそうだが、リーマン・ショックや震災などの何かしらの特殊な要因があったわけではなく、サプライズ効果を意識した臨時会合であれば、事前に宣告などしたら無意味である。それ以前に少なくとも黒田総裁、岩田副総裁は日銀についてはこれからいろいろと把握せねばならず、福井元総裁のようにその事前学習の必要ない総裁であればともかく、今回については臨時会合を開く余裕があるとは思えないのだが。

臨時の決定会合の有無はとにかく、4月3日、4日の会合で大胆な金融政策なるものを打ち出す必要があり、市場もそれを期待している。ただし、その内容はすでに事前に予想された範囲内に収まるのではなかろうか。基金で買い入れる国債の量と年限の延長、それにより超長期債まで買い入れている通常の国債買入(輪番)との統合、これに伴い日銀券ルールの撤廃とそれに変わる何かしらの指針の設置(言葉だけかもしれないが)、リスク資産の買い入れ増額(市場規模を考えると限界あり)、などが予想される。

付利の撤廃については、付利撤廃と当座預金残高を同時に行なうことが可能と主張されたあまり実務をご存知なさそうな方がいたが、それはかなり矛盾をはらむ。少なくとも国内に金融不安は存在せず、超過準備におく必要性を持たせためには付利撤廃は難しいはずである。

白川体制と大きくレジーム・チェンジという面では、22日の日経新聞にもあったように、今後日銀は白川体制時の包括緩和政策にみられた「資産」に働きかける政策から、反対側の「負債」に働きかける政策に転じる(つまり量的緩和の復活)。一見、大きな政策変更に見えるが、速水元総裁の政策に戻すだけであり、すでに日銀の当座預金残高は50兆円超えて、過去最高水準に達している。白川体制時もここをもっとアピールしておけば良かった気もするが、アピールしても市場は聞く耳を持たなかったようにも思う。とにかくも日銀の新体制によるレジーム・チェンジはこんなものになるのではないかと思う。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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