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日銀金融政策決定会合議事要旨(2月13日・14日分)より

久保田博幸金融アナリスト

日銀は12日、日銀金融政策決定会合議事要旨(2月13日・14日分)を発表した。3月20日からは日銀の総裁、副総裁が入れ替わり、これまでの白川日銀から黒田日銀に変わる。まさに白から黒にかわることで、オセロゲームのようにそれにより政策委員全体のカラーが一気にひっくり返ることも予想される。

その際に審議委員6名のカラーがどうなるのか、ここが今後の注目点のひとつとなりうる。それを占うには今回の議事要旨の内容も吟味する必要がある。ということで今回はこの金融政策決定会合議事要旨(2月13日・14日分)の内容をもとに、審議委員と思われる発言部分を中心にチェックしてみたい。特色を色で表現するために白川総裁に近いと思われる発言者をホワイトチーム、そして今度の黒田氏に近いと思われる発言者をブラックチームとしてみたい。

「物価上昇のメカニズムについて、委員は、海外経済の回復を背景とした国内経済の緩やかな回復から需給ギャップが徐々に縮小するもとで、物価上昇率が高まっていくとの認識を改めて共有した。また、その先も経済が持続的に改善していけば、企業や家計の成長期待が高まり、現実の物価上昇率や予想物価上昇率をさらに高めることにつながっていくとの見方で一致した。」

物価に関する部分であるが、その上昇の背景に海外経済の回復をあげているが今後は「成長期待が高まり」で「予想物価上昇率をさらに高める」であろうとしている。

「何人かの委員は、予想物価上昇率が上がっていく中でも、日本銀行が強力な金融緩和を続けていくことは、緩和効果が強まっていくことを意味すると述べた。」

この何人かの委員は今後の追加緩和にも賛成票を投じてくるであろうと予想されることで、ブラックチームと言えそうである。

「何人かの委員は、物価上昇率が持続的に高まっていくには、一時的な景気の浮揚だけでは不十分であり、持続的な成長を実現するため、成長力強化に向けた取り組みが必要であると付け加えた。」

こちらはホワイトチームに近い委員か。どうやら政策委員の間ではすでに考え方のやや異なるチームができつつあることがこれらの発言ではわかる。

「多くの委員は、物価と賃金には密接な関係があるとしたうえで、賃金が先行して上昇すると企業収益が圧迫され、物価が先行して上昇すると家計の購買力が低下し、いずれも持続的な成長が阻害されてしまうため、両者がバランス良く改善することが必要であると述べた。」

多くの委員ということもあるが、白川総裁などの執行部を含めたホワイトチームの意見であったと思われる。

「この点、何人かの委員は、デフレ脱却との関連で賃金が広く一般に議論されるようになったことは注目すべき変化であるとコメントした。」

これはなかなか興味深い発言であり、デフレは貨幣的現象であるとの意見とはやや異なる立場にいるようで、ホワイトチームと言える。

「ある委員は、中長期的な予想インフレ率の上昇ペースが遅れるリスクを指摘した。一人の委員は、金融面での不均衡の観点からは、金融機関が多額に保有している国債の金利リスクについて注意深く点検していく必要があると述べた。別の委員は、長期金利が歴史的な低水準にあることを踏まえると、長期金利の反転リスクに注意する必要があるが、そうしたリスクをしっかりと抑制していくうえでは、財政規律に対する信認を維持していくことが重要であると付け加えた。」

これは景気・物価の先行きを巡るリスクに関する発言であるが、最初のある委員はブラックチームメンバーか。ただし、次の一人の委員と別の委員はホワイトチームというか、たぶん佐藤委員と木内委員であろう。

追加緩和が必要となった場合の選択肢として、何人かの委員は、補完当座預金制度の適用利率(付利)を引き下げること、長期国債買入れにおいて残存年限のより長い国債を対象とすること、リスク資産の買入れを増額すること、に言及したとある。当面の追加緩和の選択肢は、2月の時点ではどうやらこの3つに絞られていたようである。

付利引き下げについて、複数の委員は、ベネフィットとコストを慎重に検討すべきと述べたそうで、先日の石田委員が同様の発言をしていた。付利引き下げは簡単にスルーされた感がある。

「長期国債買入れについて、何人かの委員は、買入れ対象年限の需給が今後さらにタイト化していく可能性を考えると、基金の積み上げを進めていくためには、残存年限のより長い国債を対象とする判断を行うこともあり得ると述べた。」

こちらはブラックチームに近い発言のように思われる。

「このうち複数の委員は、長期国債買入れにおいて残存年限のより長い国債を対象とする場合、効果と副作用を十分に検討する必要があるが、分かりやすさなどの点では、基金における長期国債買入れと金融調節上の観点から行っている国債買入れを統合することも選択肢になり得ると述べた。」

こちらもブラックチーム、その中には白井委員も含まれようが、白井委員だけではなかった。それではこの白井委員ではない委員は何故、3月の会合では白井委員の議案に賛成票を投じなかったのか。この委員が誰なのか、これも興味深い。

「そのうちの一人の委員は、両者を統合する場合には、銀行券ルールの扱いをどうするかという論点が生じるが、仮に銀行券ルールを見直す場合には、政府が財政健全化について市場の信認を確保していることが重要であると付け加えた。」

銀行券ルール(日銀券ルール)はすでに形骸化しつつあるとはいえ、撤廃するとなれば細心の注意も必要であろう。

「複数の委員は、日本銀行が買い入れた資産から損失が生じた場合に、政府に損失を分担してもらう可能性は考えられないか、との問題意識を述べた。」

特にリスク資産の買入を増額する際には、政府による損失負担も当然ながら議論されるものと思われる。

「この委員は、金融緩和が行き過ぎるとインフレ率の過度なオーバーシュートや、信用拡大を伴う資産バブルなどの懸念は生じ得るが、それらは金融面での不均衡の蓄積を含めたリスク要因を点検することにより、適切に対処可能と考えていると付け加えた。」

ブラックチームの筆頭ともいえるような委員からの発言のように思われる。本当に適切に対処可能なのか。この見方に対しては何人かの委員が次のようなに発言をしている。

「今後の経済・物価情勢については不確実性が高く、先行きの金融政策運営に関するガイダンスはこの不確実性の高さを十分踏まえたものとする必要があると述べた。」

ホワイトチームの登場であろうか。消費者物価の前年比上昇率1%の実現に向けて資産買入れを行い、その先は2%が視野に入るまで緩和的な金融環境を維持するという、2段階で考えていくことが適当であるとの提案もあった。

「別の一人の委員は、期限を定めない資産買入れ方式を直ちに導入し、見通し期間を1年延長したうえで、物価上昇率にかかる政策委員の見通しの中央値が1%台半ばを超えるまで、実質的なゼロ金利政策と資産買入れを継続することを明示することも一案であるとした」

期限を定めない資産買入れ方式を早期に導入したらどうかとの提案であり、これも次の追加緩和のひとつの選択肢となりそうである。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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