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アベノミクスを理解するための日銀入門 「第四話 金融政策とはそもそも何でしょうか」

久保田博幸金融アナリスト

猫 それではあらためて、アベノミクスでも注目されている日銀の金融政策について、お話を伺いたいと思います。そもそも中央銀行の金融政策というのは何ですか。

牛 日銀法にもあるように、通貨の価値の安定や金融システムの安定をはかることが日銀にとって大きな目的となっていますが、そのために行う政策が金融政策です。

猫 それではよくわからないので、もう少しわかりやすい説明をしていただけませんか。

熊 中央銀行は発券銀行として通貨を供給できることに加え、銀行の銀行として民間銀行との資金のやり取りを行うことができる。資金を調達したり運用したりする取引が行われる市場を金融市場と呼ぶが、特に短期間の資金のやり取りをする市場では、日銀が大きな影響力を持っておる。

猫 短い期間の資金をやり繰りする市場とは何ですか

牛 主に期間1年未満の資金をやり取りしている市場が短期金融市場と呼ばれる市場です。短期金融市場は、銀行などの金融機関や一般の事業法人などが、短期の資金を調達・運用する場となっています。さらに日銀がオペレーションや貸出等の金融調節を通じて、市場の日々の資金過不足を調節する場でもあるわけです。

熊 金融機関が、お互いに短期的な資金の過不足を調整するための取引が行われている市場をインターバンク市場と呼んでおる。銀行などの金融機関は営業活動を通じて日々、資金の余裕や不足が生じる。預金の受払いや貸出しがあり、市場を通じて国債や株そして為替等の売買も行っており、常に資金ポジションを調節する必要があるわけだ。

牛 この短期金融市場にあって個々の銀行のやり取りというより、資金全体の過不足を調節しているのが日銀なのです。たとえば、「税揚げ」と呼ばれる法人税の国庫納付に伴う資金不足日には、日銀がオペを通じて資金を放出しなければコールレートは無制限に上昇してしまう可能性があります。

猫 年金の支払日とか、ボーナス支給日とか、確かに特定の日に資金の出し入れが集中する日もありますね。

熊 日銀は市場において債券などの売買を行うオペによって資金量を調節し、その結果コールレートを適切な水準に誘導し、日銀当座預金残高の調節も行っている。

猫 そうか、そのオペの正式名称がオープン・マーケット・オペレーションで公開市場操作と呼ばれるものですね。

牛 中央銀行はその資金調節による短期金利の操作が可能となります。短期金利をどの水準に持ってくるのか、その水準こそが金融政策の目標となるわけです。金融政策において操作目標となるのが、日銀では以前は貸出金利であった公定歩合であり、その後は無担保コール翌日物の金利になっているのです。

猫 あれっ、公定歩合ではないのですか。その無担保コール翌日物というのはいったい何ですか。

熊 まったく勉強不足にもほどがある。日銀はもう公定歩合という言葉はお蔵入りさせると言っているぐらいだが、まだ日銀の金融政策は公定歩合の上げ下げと思っておる人がいるとは。

牛 まあまあ。意外にまだ公定歩合操作が行われていると思っている人は多いようですよ。日銀の政策金利は長らく公定歩合でした。公定歩合とは日銀が民間銀行に貸し出しを行うときの基準金利です。以前は預金金利等の金利が公定歩合に連動していたため、公定歩合を変動させることで、日本の市中金利を変動させることと等しくなっていたことで、金融政策を行うことができたのです。ところが金利の自由化などもあって、この公定歩合操作は次第に形骸化してしまったのです。

熊 日銀は1995年3月の短期金利低め誘導あたりから、コールレートを操作目標にしておる。コールレートのなかでも「無担保コール翌日物」はその取引量も多く、また日銀としてもオペレーションなどによってコントロールしやすいため、この「無担保コール翌日物」の金利が金融政策における操作目標とされているわけだ。

牛 そのコール市場とはその名の由来が「money at call」、つまり「呼べば直ちに戻ってくる資金」と言われ、民間金融機関が短期的な手元資金の余剰や不足を調整するための市場で、一般の人にはあまりなじみがない市場かもしれませんね。

猫 でもいま日銀が行っている金融政策は基金によるなんとかで、コールレートの操作ではないんじゃないですか。

熊 これまた勉強不足だな。たまには日銀のホームページを見てみなさい。金融政策を決めたあと公表される「当面の金融政策運営について」などをみると、たとえば「次回金融政策決定会合までの金融市場調節方針を、以下のとおりとすることを決定した(全員一致)。無担保コールレート(オーバーナイト物)を、0~0.1%程度で推移するよう促す。」とあるじゃろう。

猫 あっ、本当だ。何か勘違いしていたのかな。

牛 いやいや、そうではなくて、すでに無担保コールの誘導目標値がゼロ近辺に下げてしまって、もうこれ以上は下げられなくなってしまった。それで違うことで金融緩和を行っているんだ。金利を操作して金融を緩和したり引き締めたりするのが、伝統的な金融政策と呼ばれるのに対し、それとは違うもので金融緩和をしようとしているのでこれは非伝統的手段と呼ばれている。

「第五話 基金による何とかとは何だ」に続く。(第二話・第三話、第五話以降は来週発行予定のキンドル本でお読みいただけます)

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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