G7の緊急共同声明と米国の思惑

昨日のコラムでG7による緊急共同声明の意味についてまとめてみたが、これにはどうやら米国の思惑も絡んでいるようであり、もう少し今回の緊急共同声明が出された背景について見てみたい。

12日にこの緊急共同声明について、円の過度な動きに懸念を表明することがG7の目的だったとの匿名のG7筋による発言があった。匿名のG7関係筋が「G7声明は誤って解釈された。同声明は、円の過度な動きに対する懸念を示すものだった。G7は円の一方的なガイダンスを懸念している。日本をめぐる問題は、モスクワで今週末開かれるG20会議で焦点になる」と発言した(ロイター)。

これに対し、中尾武彦財務官は13日午前に共同声明について、G7の一部当局者が匿名で円の行き過ぎた動きへの懸念を示唆したとの見解を示したことに対し、「匿名の発言についていちいちコメントしない」と述べたそうである(ブルームバーグ)。

G7のご意見番とも言えるような人物からも、これに関して発言が出ていた。イングランド銀行のキング総裁は13日、為替に関するG7の声明は文字通りに受け止めるべきとの見方を示し、解釈しようとする動きがあることは遺憾だと表明した(ロイター)。キング総裁は会見で、「政府が国内経済成長を支えるために金融刺激措置を活用すれば為替相場に影響が生じる。こうした影響が及ぶのは容認すべきだ」と発言し、これは日本の政策を擁護する発言とも受け取れる。さらに「昨日、声明に署名した際、当局者と呼ばれる他の筋が声明発表前後に根拠のない説明を行い、声明で述べられていないことを主張するとは思いもしなかった」と述べたそうである。

何故、これほど匿名とされる人物の発言が注視されるのか。相場が動いたのでマスコミが大きく取り上げただけなのか。ロイターの記事には次のようなコメントも添えられていた。

「匿名のG7高官が声明は円の過度な変動への懸念を示唆したものだと語ったことについて、声明発表につながったやり取りに詳しい関係筋は、日本がすぐさまデフレ不況対策に理解が得られたとの認識を示したことへのいら立ちによるものだった可能性があると指摘した。」

この匿名のG7高官からの声明はワシントン発だそうである。そうであれば、米国の高官という可能性が高くなる。その米国からG20に出席するのは、サインが特徴的なルー次期財務長官ではない。ルー次期財務長官は議会での承認を待っている段階であり、代わりにブレイナード財務次官が出席する。

11日に会見したブレイナード次官は、積極的な金融緩和と財政出動を打ち出した安倍政権の経済政策について、「成長力を取り戻し、デフレ脱却を目指す日本の努力を支持する」と述べ支持する考えを示した。ただし、「財政、金融政策は自国の景気回復を目的に使われることが重要だ」としたうえで、「為替相場は市場が決めるというのは先進国間のルールだ」と述べ、通貨を安く誘導することを目的にする政策は認められないという考えを強調した(NHKニュース)。

このブレイナード次官の発言は円安容認と受け止められたが、この発言や共同声明を円安容認とする解釈は誤りだとの指摘もあった(FT)。カーニー・カナダ中銀総裁も日本の当局が為替相場の特定の水準を目標としているとの懸念が「一部」出ているとして、「G7はこの件に関して討議した。週末のG20財務相・中央銀行総裁会議でも議題として取り上げられる見通しだ」と述べている。

これらの状況から察するに、ワシントンの匿名のG7高官とは米国関係者であるとみられ、ブレイナード次官もしくはその関係者である可能性が高いのではなかろうか。

それでは何故にこのタイミングで、米国が日本に対して警告を発してきたのか。もちろんG20の開催を控えてということもあろうが、発言がブレイナード次官を通してというところも気になる。これはつまり当然といえば当然ながら、ブレイナード次官が自らの考え方を単に述べただけとは思えない。たとえば前述のキング総裁の発言はイギリスを代表して述べたものというより、自らの意見との見方もできようが、ブレイナード次官の発言は米国政府を代表してのものであると思われ、匿名のG7高官の発言も米国政府の意向を反映したものではなかったかと思われる。

そうなれば今回意識すべきはG20というよりも、来週の日米首脳会議ではなかろうか。緊急の共同文書も含め、事前に米国政府が日本政府に対して釘を刺してきたと言えるのではなかろうか。

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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