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2%の物価目標達成は可能なのか

久保田博幸金融アナリスト

1月22日の金融政策決定会合で、日銀は政府からの要請のあった「物価安定の目標」を導入することを決定し、同時にあらたな追加緩和策として、「期限を定めない資産買入方式」を導入することを決めた。 物価安定の目標については昨年2月に決めた物価安定の目途を修正し、目途(Goal)を目標(Target)とした上で、その目標を消費者物価指数の前年比上昇率で2%とした。

目標を設定するのは良いが、本当にこの2%の物価上昇は可能なのであろうか。これについて日銀の白川総裁は会見で次のようにコメントしている。

「実現可能性ということですが、これは過去を振り返ってみると、1980年代後半のバブル期の5年間の平均が+1.3%、それから 1985年以降2011年までの平均が、確か+0.5%だと思います。そういう意味で、この「2%」という数字を達成していくためには、相当思い切った努力が必要だと思います。」

今回の2%というのは、消費者物価指数(生鮮食料品除く)の前年同月比の上昇率のことを示す。総裁の弁にもあったように、2%どころか1%までの達成すら怪しい。そもそも金融政策だけで物価上昇を引き起こすことは、副作用なしには困難である。

「日本銀行自身は、こういう形で、強力な金融緩和を推進するということですが、同時に、様々な主体による成長力強化の取組みは非常に重要であり、様々な主体による相当な努力を必要とすると思います。」

日銀としては、金融政策そのもののレジーム・チェンジはかなり危険性を伴う。つまり市場で財政ファイナンスやマネタイゼーションと認識されてしまう懸念のある政策に踏み込むことはできない。外債購入等については、為替操作が目的となれば財務省の所管であるとともに、相手国との交渉も必要てこちらも政府の仕事となる。それよりも政府の財政政策と政調戦略が必要になる。

「もちろん、そうした努力なしに成長力が上がっていくというわけではありません。そうしたことに向けて、政府も、民間も、それから日本銀行も、それぞれの立場で努力をしていくことは大事だと思います。その上で、実際にどの程度成長力の強化が図れていくのか、あるいは、エコノミストの言葉で言うと、予想インフレ率がどの程度上がっていくのかということは、これもまたしっかり点検をし、金融政策運営を行っていきたいと思います。」

予想インフレ率の上昇ではなく、なるべく早く物価そのものの上昇を促さねばならない。しかし、財政政策は財政悪化を招く恐れがある。成長戦略という掛け声は良いが、徹底した規制緩和等には反対もあろう。しかも、これは過去いろいろなかたちで試されていたものであり、いまさら目新しく効果的な手段が出てくることも考えづらい。だから日銀に圧力を掛けた面もあったはずである。

ただし、何もしなくても消費者物価指数(生鮮食料品除く)が2014年にも2%は超えることをご存じであろうか。2014年4月1日に消費税は5%から8%に引き上げられる予定である。日銀が発表した2012~2014年度の政策委員の大勢見通しでも、2014年度の消費者物価指数(生鮮食料品除く)の見通しは「2.9%」となっている。消費税の影響を除くと+0.9%の予想であり、政府・日銀の共同声明のには日本銀行は、物価安定の目標を消費者物価の前年比上昇率で2%とする。」となっているが、特に注釈はない。暗黙の了解として「消費税の影響を除く」となっているはずであるが、これについては特に注釈等もなかったのだけれど。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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