10年国債と20年国債の利回り格差が1%に拡大した理由
1月17日に日本国債の10年債利回りと20年債利回りの格差が1%に拡大した。同利回り格差が1%以上に拡大するのは1999年末の「資金運用部ショック」以来約14年ぶりとなるそうである(ロイター)。
これは日本相互証券による引けでの利回りを参考にしている。数百兆円もの残高のある国債の評価額は、大量に保有している銀行や生保、年金、日銀等々の資産価値に大きな影響を与えることになる。しかし、個別の取引価格等は顧客との守秘義務もあり、外部に発表する必要はない。このため、この評価については、日本証券業協会が発表する公社債店頭売買参考統計値、もしくは日本相互証券(BB)の発表する国債価格などが使われている。
国債は金利商品であり、利率や償還日の違い等で価格で比較ができないため通常の比較には利回りが使われる。その利回りから価格が算出される。どちらも、複数の証券会社(日本証券業協会は21社、日本相互証券は18社)からの報告された15時を基準とした価格をもとに、(その中の上下を割愛して)平均値を算出したものである。
ということで、1月17日の日本相互証券における10年債と20年債のそれぞれカレント物と呼ばれる直近入札された国債の利回り(引け値)は、10年327回債が0.730%、20年141回債が1.735%の引けとなっていた。
何故、これほどまでに10年債と20年債の利回り格差が拡大したのであろうか。イールドカーブの形成要因を説明する仮説として、「純粋期待仮説」、「流動性プレミアム仮説」、「市場分断仮説」の3つがあるが、今回の場合は中短期と超長期それぞれの変動要因が異なるということで、市場分断仮説での説明が可能かもしれない。これは短い金利には低下圧力が加わっているものの、長い金利にはむしろ上昇圧力が掛かったためと言える。
短い期間の金利に低下圧力が掛かっているのは、いわゆるアベノミクスによる日銀に対する緩和圧力によるものであり、1月21日、22日の金融政策決定会合では追加緩和を検討し、政府との共同文書も取り交わし、2%の物価目標(target)を設定する見込みと伝えられている。資産等買入基金の増額となれば、中期ゾーンの国債買入をさらに進められることで、国債の需給面から見てプラス要因となり、それが長期ゾーンにも影響したと考えられる。また、ここにきて一時的に円安修正が入り、米国債も上昇していたことから、債券先物の買い戻しに加え、10年債にも買いが入ってきてい他面もある。
それに対して超長期債については、アベノミクスがむしろマイナス要因となっている。積極的な財政政策により、今年度補正予算で国債発行額が増加した。これによる超長期債の増額はなかったものの、来年度の国債発行計画では超長期債への増額の可能性も残る。確かに来年度の新規国債発行額は今年度の当初予算よりも抑えられる見込みと報じられてはいるが、アベノミクスによる積極的な財政政策は財政悪化も意識させた可能性がある。さらにそのアベノミクスが、デフレ脱却に主眼を置いている以上、もし仮に本当に物価が上昇するとなれば、それを先取りして長い金利には上昇圧力が加わる。現状でインフレ懸念というのは大袈裟かもしれないが、同様の動きは米国債でも良く見られる。
この10年債と20年債の利回り格差が何か影響を及ぼすのか。たとえば外為市場で気にするところの対外金利差には長期金利もしくは政策金利などの短期金利が影響するとみられ、超長期債の利回り上昇はあまり意識されないであろう。また、投資家にとって、長い金利にそれなりの利回りが付くのも歓迎であろう。ただし、1999年の運用部ショックという大きな変動期に遡るまでの格差拡大というのは、金利そのものが動く予兆のようなものであるのかもしれない点に注意すべきかと思う。