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ウクライナ危機の余波、日本で値上がりリスクが高い商品は?

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト
(写真:イメージマート)

ロシアのウクライナ侵攻で、エネルギーや農産物など様々な資源価格が高騰している。軍事紛争はそれだけで物流に大きな混乱をもたらすが、今回はロシアのウクライナ侵攻に対して各国が制裁を科す動きを活発化させているため、ロシア産の各種資源供給が大幅に落ち込むリスクが強く警戒されているためだ。では、日本ではどのような商品やサービス価格が値上がりし易くなるのだろうか。

■ガソリン、灯油、ガス、電力料金の値上げ必至

ロシアは、原油で世界3位、天然ガスで世界2位の生産規模を有しているため、エネルギー価格の高騰が警戒されている。既にドイツは、ロシアとの間を結ぶ天然ガスのパイプライン「ノルドストリーム2」の承認凍結を決定したが、各国の経済制裁がロシアのエネルギー産業に及ぶと、原油や天然ガス価格の高騰が加速する可能性がある。

現実問題として、欧州経済に対する影響があまりに大きいエネルギー産業に対する制裁は不可能との見方も強いが、供給不安だけでNY原油先物相場は2014年7月以来で初めて1バレル=100ドルの節目を回復している。また、欧州では天然ガス相場も高騰しており、ロシア以外からの液化天然ガス(LNG)の調達量を増やす可能性が高まっている。

日本では、原油を原料とするガソリンや灯油、軽油の値上がりリスクが更に進む可能性が高まっている。家計はもちろん、物流コストの増大は様々な商品価格の高騰に直結する。また、ハウス栽培で生産される農産物、石油を原料とする食品の包装材料の値上がりなどで、食品価格も値上りし易くなる。航空料金ではサーチャージの値上げが想定される。また、欧州がロシア産の代わりにカタールや米国などからのLNG調達量を増やすと、日本でもLNG価格の高騰が都市ガスや電力料金に反映される可能性が高まる。

■小麦を使った食品価格は値上げが続く、食用油も危険

ロシアとウクライナは、世界の主要な穀倉地帯でもある。特に小麦は両国で世界全体の輸出量の28.5%をカバーしている。また、トウモロコシも同18.7%をカバーしている。農産物に関しても供給不安が強く、シカゴの小麦先物相場は2008年6月以来の高値を更新している。今年はインスタント麺、焼きそば面、パスタ、パンなどの小麦を使った食品価格の値上げが相次いでいるが、これは昨年9月に輸入小麦の政府売渡価格の引き上げが行われた影響である。年に2回改訂が行われるが、今年3月に予定されている改訂でも大幅な引き上げが行われると、更に多くの食品価格の値上がりが進むことになる。

また、ウクライナは世界最大のヒマワリ油の生産・輸出国である。このため、他の食用油に代替需要が発生するとの見方から、パーム油、大豆油の先物価格はともに過去最高値を更新している。食用油は昨年に各社が年4回値上げに踏み切る異例な状態になったが、今年も更に値上げが続く可能性が高まる。食用油価格の高騰は、多くの加工食品のコスト高に直結するため、食用油価格に留まらず、スナック菓子や調理パン、冷凍食品などの広範囲にわたる食品価格高騰を促す可能性が高い。

■水産物ではカニの高級品化が更に進む可能性

ロシアは水産資源にも恵まれており、日本との水産物貿易だと、カニは総輸入量の61.8%(金額ベース)がロシア産になっている。また、サケ・マスが9.5%、タラが7.1%、エビが3.8%など、ロシアからの輸入に依存している品目は多い。今後のウクライナ情勢によっては、今年の年末から来年の正月にかけて、カニやイクラはこれまで以上に高級品化している可能性があるのみならず、そもそも品薄で入手困難な状況に陥っている可能性も想定しておく必要があろう。来年の正月にカニを食べられなくなっている可能性もある。

■宝飾品や耐久財価格への影響も

ロシアは世界有数のプラチナ鉱脈を有しており、世界の生産シェアはプラチナが約1割、パラジウムが約4割に達している。原油や穀物と比較すると値位置は抑制されているが、更に大きく値上りが進むと、宝飾品の値上がりにつながる可能性がある。また、自動車の排ガス触媒用貴金属として使われているため、新車価格の値上がり要因にもなり得る。こちらはエネルギーや食品価格と違って直ちに価格に反映されるようなものではないが、ロシアはアルミ、ニッケル、銅など金属の生産量も大きいため、住宅や自動車、家電などの耐久財価格に対しても値上り圧力が強まる可能性がある。

■ブロック経済化の恐怖も考えておきたい

現状では、多くの資源価格の高騰がロシアやウクライナからの供給が大幅に落ち込むかもしれないとの「恐怖心」を反映したものであり、一部農産物を除くと実際の供給量が大幅に落ち込んでいる訳ではない。このため、ウクライナにおける戦闘状態がどの程度まで長期化するのか、各国が対ロシア制裁でどの様な企業や産業を対象にするのかによって、日本の商品やサービス価格へのインパクトも大きく変わってくる。ただ、現在は世界有数の資源大国であるロシアが、力による現状変更を試みていることが多くの国から批判されており、ロシア産資源供給が今後も取引できるのか、不透明感が急激に高まっている。仮に軍事衝突が一服しても、様々な商品やサービスに対する価格上昇圧力は残される可能性がある。

また、これをきっかけに世界はブロック経済化を進めるとの見方もあり、その際は資源調達の多くを海外に依存する日本では、インフレの脅威が経済や家計に大きなショックをもたらすリスクを抱えた状態になっている。ウクライナ危機は、経済的にも対岸の火事と軽視できない。

マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

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