原油相場が急落している。国際指標となるNY原油先物相場は7月6日の1バレル=76.98ドルをピークに、8月19日の日本時間夜には62ドル台まで値下がりしており、約3か月ぶりの安値を更新している。「新型コロナウイルスからの経済復興(=原油需要回復)」と「石油輸出国機構(OPEC)プラスの協調減産」による需給の引き締まりが原油相場の高騰を促していたが、特に8月入りしてからは地合の急激な悪化が目立つ。

最大の要因は、新型コロナウイルスの感染被害拡大だ。日本でも連日のように新規感染者数の急増が報告されているが、これと同様の動きは東南アジアや中国、更には米国や欧州でも報告されている。従来株より感染力が強いとされる「デルタ株」が猛威を奮っており、ワクチンさえ接種すれば日常生活に回帰できるとの楽観的な見通しが疑問視される状況になっている。

現時点ではワクチンの有効性が完全に否定されている訳ではなく、原油需要が実際に落ち込むのかについては議論もある。例えば、国際エネルギー機関(IEA)は石油需要見通しを前月から引き下げているが、OPECは経済成長が続いているとして、石油需要見通しを引き下げる必要性を認めなかった。また、米国では原油在庫の取り崩しが進んでおり、出荷データにも大きな落ち込みは見られず、実際の需給が大幅に緩和している訳ではない。

ただ、いずれにしても原油需要環境に大きな不確実性が浮上していることは間違いなく、日常生活を本当に取り戻せるのか、先行き不透明感の高まりが、これまで原油相場を買い進んできたファンドの撤退を促している。

消費者目線では好ましいが、市民目線では厳しい状況

ガソリン価格の高騰が進む中、ドライバーにとってこうした動きは歓迎すべきことかもしれない。米国においても、バイデン政権はガソリン価格が高過ぎるとしてOPECプラスに対して増産を要請したばかりであり、OPECプラスの増産なくしても原油相場が値下がりしていることは、ガソリン価格の上昇にブレーキが掛かり、逆に値下がりが進む余地も作り出すことになる。国際的なインフレ懸念が高まる中、家計部門はもちろん輸送コストを負担する企業にとっても、ガソリン価格値下がりの余地が浮上していることは歓迎できよう。

一方で、原油相場がここまで大きく値下がりしていることは、新型コロナウイルスで発生したショックからの経済活動や日常生活の正常化がうまく進まない可能性が高まっていることも意味する。今後も長期にわたって感染被害が続き、ワクチンを接種してもコロナ禍前のような日常を取り戻すことは難しいのではないかとの危機感が原油相場の急落を促している一因になっている。

こうした点を考慮すると、原油相場の急落でガソリン価格の値下がり余地が浮上していることも、手放しで歓迎すべき動きとは言えないのかもしれない。原油相場の急落は、ストレスの強い日常生活が続き、新型コロナウイルスに感染する高いレベルのリスクを抱え、厳しい経済環境から失業や所得の伸び悩みといった困難な状態に陥る可能性が高まっていることのシグナルとの受け止めも必要だろう。