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「堂島の灯を消してはならない」 総合取引所を目指す大阪堂島商品取引所

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト
(写真:アフロ)

大阪堂島商品取引所(以下、堂島商取)の経営再建に向けた有識者会議「経営改革協議会」(議長=土居丈朗慶応大教授)は10月12日、コメの現物と先物に加えて、農産物先物や工業品先物、更には金融先物も幅広く取り扱う「総合取引所」を目指すことを求める最終提言を取りまとめた。

堂島商取は現在、国内でコメ先物を取り扱う唯一の取引所であり、「宮城産ひとめぼれ」、「秋田こまち」、「新潟産コシヒカリ」などを複数のコメ先物を上場している。しかし一部の農業団体や政治家の反発などもあって2011年の取引開始後も「試験上場」から抜け出せず、未だに「本上場」の見通しが立たない状態にある。近年はトウモロコシや大豆といった他農産物も売買が低調であり、2020年3月期まで7期連続の赤字に陥っており、コメ先物市場が日本から消滅するのではないかとの危機感が高まっている。

こうした中、協議会は「単にローカルな一取引所として延命策を模索するのではなく、総合取引所となった日本取引所グループ(以下「JPX」)に競合できるほどの存在感を有する将来構想」を描く必要性を訴えている。

第一に、現在の会員組織を、2021年1月を目途に株式会社化して、増資による資本の充実と同時にガバナンスが効いた経営効率の高い取引所運営を目指すことになる。コメ関係者や内外金融機関に出資を呼び掛ける一方、経営陣の刷新も求められている。

第二に、「先物市場はしっかりした現物市場があってこそ成り立つ派生商品市場である」として、コメの現物取引所と先物取引所の両輪による総合取引所を目指すことになる。現物取引所で日本全国のコメ価格が集まれば、コメ価格を指数化して、株価指数先物に匹敵するコメ先物指数を組成できる可能性も指摘されている。

第三に、当面は農林水産省所管の農産物取引所として取引量の拡大を目指すことになり、小口化などの商品設計の見直しを行うと同時に、SBIグループから流動性提供などの支援を受けるとしている。既存のコメ、トウモロコシ、大豆での再出発になるが、天候デリバティブなども検討対象として挙げられている。

その上で、経済産業省所管の金や原油先物、金融庁所管の株価指数や為替先物、更には暗号資産、個別上場株先物など品ぞろえを充実し、将来的には先物取引のみならずオプション取引の取り扱いも構想されている。

コメ先物に関しては当然に本上場を目指すことになるが、仮に認められずに試験上場が終了した場合でも、「体制整備を果たした上で再度上場を目指しても良い」として、現物市場などでの取引実績や経営体質の強化後に、歴史のあるコメ先物の本上場を改めて目指す選択肢も提示されている。

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(画像出所:大阪堂島商品取引所「経営改革協議会」資料)

■JPXと並ぶ総合取引所を目指せるか

協議会の提言をどのような形で受け入れるのかは堂島商取の判断に依存することになり、実際にこの提言が実現するのかは別問題である。

ただ、この提言の影響は堂島商取の存続の是非に留まらないことになる。提言では、「既存のデリバティブ市場の枠にとらわれず、リスクマネジメントを必要とするあらゆる取引のリスクヘッジ市場を目指す」とされているが、この提言内容が実現すれば、日本にJPXと並ぶ新たな「総合取引所」が誕生することになるためだ。

国内の取引所グループは、東京証券取引所、大阪取引所、東京商品取引所を擁するJPXに集約が進んでいるが、堂島商取が将来的に総合取引所に発展できれば、国内で取引所間の競争が行われ、JPXと堂島商取の双方の競争力向上に寄与することが期待できる。JPXが海外のCMEやICE、LSE、ドイツ取引所、香港取引所などと競合・共存を目指す上でも、強い刺激になる可能性がある。

また、同じ上場銘柄を二つの取引所が取り扱えば、国内での裁定取引(アービトラージ)といった新たな投資需要を喚起することも可能になる。取引量が分散するだけで共倒れに終わるリスクもあるが、新たな投資機会が内外に提供されることになる。

更に堂島商取は関西圏に位置しているため、菅首相の「東京の発展を期待するが、他の地域でも金融機能を高めることができる環境をつくりたい」(日本経済新聞インタビュー)との構想にも合致する。首相は日本に世界の金融ハブをつくる「国際金融都市構想」の実現に向け、東京、大阪、福岡の3都市を競わせる構想を持っているが、大阪(関西圏)の金融都市構想の中核の一つに、堂島商取が位置付けられる可能性もある。

現状では、規模の違いから堂島商取はJPXと比較対象とされるような存在ではなく、協議会の提言を実現し、堂島商取の再建を目指すだけでも容易なことではない。ただ、取引所の再建に留まらずに日本の取引所取引環境、更には「国際金融都市構想」にも大きな影響を及ぼす可能性がある動きであることは確かである。今後の堂島商取の展開に注目したい。提言では、『「DOJIMA」は先物発祥の地として海外の先物関係者にもよく知られ、尊敬を受けており、 このネームバリューは唯一無二の宝である。堂島の灯を消してはならない。』と締めくくっている。

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(画像出所:大阪堂島商品取引所「経営改革協議会」資料)

マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

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