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ロシア抜きでは何も決められなかったOPEC総会、求心力低下は避けられず

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト
(ペイレスイメージズ/アフロ)

12月6日にウィーンで石油輸出国機構(OPEC)の第175回総会が開催された。米国のシェールオイルなど非OPECの産油量が急増する一方、世界経済の減速で需要見通しに下振れ圧力が強まる中、2019年の供給過剰見通しに対してOPECとしてどのように対応するのかを決定する、石油市場にとっては極めて重要なイベントである。

OPECの需給予想によると、OPEC産原油に対する需要は2018年の日量3,259万バレルに対して、19年は3,154万バレルまで105万バレル減少する見通しになっている。また、10月の産油量実績3,290万バレルを基準にすると、19年の国際原油市場で改めて在庫が急増する事態を避けるためには、年平均で136万バレルの減産対応が求められることになる。

2017年以降は「OPECプラス」とも言われるOPECの枠組みを超えた産油国間の協力関係が構築されており、OPEC単独で減産対応を行う必要はないが、ロシアなど非加盟国も含めて減産対応の必要性があることは議論の余地がない状況になっている。

しかし、今回のOPEC総会では明確な結論を出すことができなかった。メディアの報道をみても、ロイター通信は「減産で暫定合意」と報じる一方、ブルームバーグは「物別れ」と報じるなど、評価が割れている。OPECが発表したプレスリリースだと、2019年の国際原油需要と供給とのバランスを取るために前回の6月総会の政策を変更する見通しを示すも、7日にOPEC非加盟国と協議を行った上で最終的な決定を下すとされている。

減産の暫定合意とも言える一方、合意形成に失敗したとも言える状況であり、OPECの最高意思決定機関としては、曖昧な内容に留まったとの評価が否めない。

背景にあるのは、もはやOPECのみで国際原油需給を安定化させることは不可能な状態にあることだ。理論上はOPECが日量136万バレルの減産を行えば、2019年の国際原油需給バランスは均衡化する。しかし、これはOPECが産油量を4.1%削減することを意味し、さすがに簡単に受け入れることができるものではない。このためロシアなどの協力が必要不可欠だが、そのロシアの態度が明らかでないため、OPEC総会で結論を下せなかったのだ。

OPEC総会が開催されている時、ロシアのノバク・エネルギー相はサンクトペテルブルクに居り、プーチン大統領と協議を行っていた模様だ。OPECとしては、ロシアがどの程度の減産を負担してくれるかが分からない限り、OPEC全体の減産幅もスケジュールも決められず、7日に予定されているOPEC加盟国と非加盟国との会合に結論を先送りした格好になっている。

OPECが市場シェアを失う中、もはやOPECのみで原油需給・価格管理が可能な時代は終わっていることが強く印象付けられる異例の事態になっている。ロシア、更に言えばプーチン大統領がOPECの減産要請に対してどのような対応を見せるのかで、OPECの産油政策は決まることになる。

もはやOPECはロシア抜きでは自らの産油政策さえ決めることができない時代を迎えている。需給管理においてはロシアなど非加盟国との協力を求められる一方、米国のトランプ大統領はOPECの産油政策に対する圧力を隠さなくなっており、OPECの存在感が急速に薄れてしまっていることが強く印象付けられる。カタールは来年1月にOPECから脱退することを決定したが、影響力を失いつつあるOPECの求心力低下は、国際原油市場における強力な不安定化要因になりそうだ。「OPEC総会でOPECの産油政策を決められなかった」という事実は、重く受け止める必要がある。

マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

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