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供給過剰を警戒するサウジ、供給不足を警戒するロシア

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト
(写真:アフロ)

国際原油価格は、10月29日から11月9日まで10営業日連続で下落する異例の相場展開になっていたが、週明けの取引では短期底入れを打診する動きを見せている。週末11日に産油国の会合が開催されたが、供給過剰化を阻止するための減産対応に向けて前向きな動きが報告されているためだ。

NYMEX原油先物相場は10月3日に2014年11月以来の高値更新となる1バレル=76.90ドルまで上昇していたが、11月9日には60ドルの節目を割り込む展開になっていた。原油高に危機感を強めたサウジアラビアやロシアの過剰増産によって、国際原油需給が逆に「供給過剰化しているのではないか?」との危機感が強まった結果である。

今春以降の原油相場では、米政府のイラン産原油に対する制裁が11月5日に再開されるのを前に、いかにしてイラン産原油の代替供給を確保するのかが大きなテーマになっていた。サウジアラビアやロシアは増産対応能力を有していたが、無理な増産は今後の供給障害に対応するための増産余力の喪失を意味するため、増産を見送れば国際需給が引き締まる一方、増産を行えば増産余力の縮小で原油市場が不安定化するリスクが警戒されていた。

こうした中、米国からの強力な増産要請もあってサウジやロシアは増産政策に舵を切っていたが、原油高に危機感を抱いて必要以上の増産対応を行った結果、供給「不足」に対する警戒感は供給「過剰」に対する警戒感に一変していた。米政府がイラン産原油に対する制裁に猶予措置を導入したこと、世界経済の減速懸念なども、原油価格の下げをエスカレートさせていた。

しかし、改めて供給過剰が原油価格を本格的に下押しするような展開は産油国の財政環境からも許容できるものではなく、産油国は一気に減産の可能性を打診する方向性に動いている。現在、石油輸出国機構(OPEC)とロシアなどは協調減産政策を展開しているが、改めて減産体制を維持・強化することで、在庫積み増しの再開を阻止する必要性について議論を開始している。

特に積極的な対応を見せているのがサウジであり、ファリハ・エネルギー鉱物資源相からは、11日の減産監視閣僚委員会(JMMC)で10月比で2019年の産油量を日量100万バレル引き下げる提案を行い、OPEC加盟国と非加盟国から支持を得られたことが明らかにされている。12月6日には石油輸出国機構(OPEC)総会が予定されているが、そこに向けて19年もOPEC加盟国・非加盟国が原油需給バランスの安定化に責任を持つスタンスを明確化すれば、原油価格値下りの必要性は薄れることになる。

問題は、非OPECの盟主ともいえるロシアが、必ずしも協調減産体制の強化に前向きではないことだ。ロシアのノバク・エネルギー相は、足元では季節要因から需給が緩和しているが、来年半ばまでには再び供給不足化する可能性が高いとして、追加減産対応に懐疑的な見方を示している。すなわち、OPECとロシアとの間で、原油需給見通しが異なり、その結果として減産対応強化の必要性について合意形成ができていないのだ。

OPECは減産体制の強化に前向きではあるが、あくまでもロシアとの協調を前提条件にしている。OPECが減産してもロシアが増産すれば、OPECからロシアに原油売却収入を譲渡するだけの結果に終わってしまうためだ。

12月6日のOPEC総会では19年の国際原油需給に対して、OPECやロシアはどのように関与していくのかを明らかにする必要があるものの、残された時間は多くない。UEAで11月12~15日に開催される展示会ADIPECに合わせて再協議が予定されているが、12月5日にはJMMCが再度開催される予定であり、そこでOPEC総会でどのような合意を行うのか、決断を下す必要がある。OPECとロシアの需給認識の違いを調整できるかが、原油価格の行方を決定づけることになる。

マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

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