NY原油70ドル台乗せ、イラン核合意破棄のリスク

(写真:ロイター/アフロ)

国際原油価格が高騰している。指標となるNYMEX原油先物相場は5月7日のアジアタイムに1バレル=70ドルの節目を突破している。これは2014年11月以来となる約3年半ぶりの高値更新になる。

シェールオイルの急激な増産などで16年2月には一時26.05ドルまで値下がりしていた相場だが、その当時と比較すると2.7倍まで値上りしている。僅か1年前には40ドル台中盤で取引されていたが、それと比較しても5~6割の値上がりになっている。

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直接的なきっかけは、主要産油国であるイランを取り巻く緊張の高まりである。イラン核合意に基づき、米国では大統領令によってイランに対する経済制裁を解除した状態にある。しかし、この制裁解除は120日毎に大統領の署名が求められており、次の期限は5月12日に迫っている。しかしトランプ大統領は、今回は経済制裁解除の延長に署名しない可能性が高まっており、イラン情勢が一気に緊迫化するリスクが警戒されている訳だ。

この問題は2016年の大統領選当時から指摘されていたものだが、マーケットは必ずしも真剣に捉えていなかった。オバマ前政権のレガシー(歴史的遺産)とも言われる程に長い交渉期間を得て漸く実現した核合意を破壊するような動きは、トランプ大統領でも取らないだろうとの楽観ムードがあったためだ。

しかし、昨年12月にはイスラエルの大使館をテルアビブからエルサレムに移転することを停止する大統領令に署名せず、各国の反対を押し切る形でエルサレムをイスラエルの首都として認定した。今回のイランに対する経済制裁停止もこれと同じような法的スキームであり、イランに対する経済制裁が再開され、なし崩し的にイラン核合意の枠組みが破壊されるのではないかとの警戒感が広がっている。

前回の期限は1月12日だったが、その際にトランプ大統領は制裁解除の継続を行う大統領令に署名したものの、120日後の次回更新時までに議会と欧州諸国などがイラン核合意を修正しないのであれば、次は大統領令に署名しないと宣言していた。

イラン核合意では、将来的にイランが核弾道ミサイルを開発する可能性を排除できないとして、「悪い取引(bad deal)」だったと修正の必要性を繰り返し訴えている。イランと中東の覇権を争うサウジアラビア、更にはイランと敵対するイスラエルなどもこうしたトランプ大統領の動きに呼応している。仏独など欧州諸国は仲介に乗り出し、既存の核合意を維持した上で新たな合意を締結する妥協案も提示していた。しかし、こうした核合意見直しの動きに対してはイランが強く反発する一方、トランプ大統領はあくまでも核合意の修正を求めており、両者の溝が埋まらないままに5月12日の期限を迎えようとしている。

米仏首脳会談に臨んだマクロン大統領は、会談後にトランプ大統領が「国内事情」によってイラン核合意を破棄する可能性が高いとの認識を示し、秋の中間選挙に向けて共和党支持基盤が求める対イラン強硬政策が実行に移される可能性が高まっている。

まだ5月12日までは時間が残されており、1)核合意破棄、2)経済制裁再開も交渉期間を設定した核合意維持、3)核合意の見直し、4)更に120日間の問題先送りなど、幾つかのシナリオが考えられる。ただ、仮にイラン核合意が破棄された場合には国際原油需給のみならず中東の地政学環境に及ぼす影響も極めて大きいため、原油価格に対して大きなリスクプレミアムが加算されているのが現状である。

仮に米国の対イラン経済制裁が再開されれば、イランの石油産業に対する投資、イラン産原油取引を巡る金融決済、石油輸送・購入などに対して広範囲にわたる制裁が行われ、イランの石油産業は大きなダメージを受ける可能性がある。これが供給過剰状態にあった14年や15年であれば大きな問題はなかったかもしれないが、現在は良好な需要環境と協調減産によって世界の石油需給が正常化に近づいている段階であり、国際原油市場に大きな混乱がもたらされるのは必至である。

マーケットではここ最近の原油高について「泡が発生している」(BPの財務責任者)といった批判の声も高まっている。投機マネーの流入が加速していることで、必要以上の高値が実現している可能性があるという訳だ。このため、5月12日までにトランプ大統領がどのような判断を下すにしても、「材料出尽くし」による原油相場の急落といった可能性は想定しておく必要がある。

ただ、これから石油輸出国機構(OPEC)やロシアなどが協調減産の「出口」を検討し始める中、イランの原油供給環境の不安定化、中東地政学環境の混乱状態は、原油市場に大きな不確実性をもたらすテーマであることは間違いない。そしてこれが、米国がシェールオイル産業の成功によってエネルギー自給自足が見通せるようになって中東地区の安定に対する関心を失っている結果であれば、中東からの原油供給に依存する日本にとっても対岸の火事ではない。

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