金ETFを買い始めた欧州投資家の危機感

(写真:ロイター/アフロ)

金の上場投資信託(ETF)が投資人気を集めている。金融情報ベンダー・ロイターの集計によると、2月は21日時点で既に49.08トンの純増となっており、4か月ぶりに残高が増加に転じるのがほぼ確実視される状況になっている。49.08トンは、昨年1年間に鉱山で生産された新産金(3,236トン)の1.5%に相当する規模になる。

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このように書くと、米国でトランプ米大統領が誕生した影響がイメージされやすい。トランプ政権が移民・難民規制の動きを強化し、更には対イランや中国などの外交関係悪化、また、メキシコなどとの通商環境悪化など、安全資産である金を購入する理由には事欠かないためだ。米国株はトランプ大統領が近く発表すると予告している大型減税策、更にはインフラ投資や規制改革などへの期待感から連日の過去最高値更新となっているが、政治環境が極めて不安定化していることは間違いなく、「トランプ・リスク」への対処として金ETFが購入されているとの説明は理解しやすい。

しかし、昨年11月の米大統領選でトランプ大統領の誕生が決まった後の金ETFは、実は一貫して売却超過になっている。大統領選のあった11月は15.01トン減、12月は82.27トン減、今年1月は21.26トン減となっており、3か月累計で118.55トンもの売却が行われた計算になる。特に、1月はトランプ政権の誕生で金価格が上昇に転じたにもかかわらず金ETFの売却は続き、定期市場では短期上昇リスクから買いが膨らんだものの、中長期投資家は金購入の必要性を認めなかったことが確認できる。

では、2月に入ってから何か変わったのだろうか。1月は金価格上昇局面でも金ETFは売られたが、2月は同じ金価格上昇局面で金ETFが購入され始めたのはなぜだろうか。

この問いに対する回答としては、いよいよ欧州投資家が欧州の政治環境に対する危機感を強めている影響が大きいとみている。すなわち、米国の投資家は株価急騰の影響もあって必ずしも金購入の必要性を認めていないが、欧州の投資家が政治環境の不安定化を嫌って、金ETFの購入に動き始めている可能性が高いのだ。正確な統計は存在しないが、金ETFの一つである「ishares gold trust」を運用する世界最大の資産運用会社ブラックロックは、欧州の政治的不確実性が、ポートフォリオの分散、保険として、金ETFに対する投資需要を高めていると報告している。

3月15日にはオランダ議会選挙が控えているが、反イスラムと反欧州を掲げる極右政党・自由党は、ルッテ首相の率いる優等右派の与党自由民主党を抑えて、第一党の座を窺う勢いを見せている。また、4月のフランス大統領選の世論調査では、極右候補とされるルペン氏が決戦投票に進んだ場合に敗北する見込みに変わりはないものの、従来と比較すると他候補との支持率格差が縮小していることが報告されている。世論調査通りであればルペン仏大統領は誕生しないことになるが、昨年の世論調査はブレグジット(=イギリスのEU離脱)もトランプ米大統領の誕生も予測できていなかったこともあり、マーケットでは現在の世論調査の結果ではルペン大統領誕生の可能性も否定できないとの危機感を強めている。

その意味では、2月入りしてから突然に金ETF残高が増加に転じていることは、欧州投資家が本格的なリスク回避行動に突入し始めた証拠ということもできそうだ。実は、これと同様の相場環境は昨年前半のブレグジット問題が浮上した際にも観測されている。その当時も、欧州投資家が政治リスクを警戒して金ETFを買い進め、それが昨年前半の金価格上昇を決定づけた。

今年は秋のドイツ議会選挙まで欧州の政治イベントが続くが、これまで一貫して求心力を強めてきた欧州が強力な遠心力に晒される中、万が一のテール・リスク発生に対する保険として、安全資産である金が輝きを増す時間帯を迎えている。裏返せば、金ETF購入の動きが一服した時が、欧州政治リスクの消化が終わった時と言えそうだ。米国の早期利上げ観測浮上など、金価格にはネガティブ材料も目立つ状況にあるが、欧州の政治リスクの一点が、金ETF購入を通じて金価格を上向きに刺激している。

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