トヨタ4割減益予想は105円想定の余波

(写真:ロイター/アフロ)

トヨタ自動車は5月11日、2017年3月期の利益が大幅に落ち込むとの見方を示した。本業のもうけを示す営業利益は、16年3月期の2兆8,539億円から40.4%減少の1兆7,000億ドルが見込まれている。

もっとも、グループ全体の販売台数見通しは1億0,094万台から1億0,150万台まで0.6%の増加が見込まれており、決して自動車が売れなくなるとの悲観的な見通しを反映したものではない。1兆1,539億円の減益見通しのうち9,350億円(81.0%)が「為替変動の影響」とされており、実際の所はほぼ為替要因だけで大幅な減益見通しの提示を迫られた格好である。

2016年3月期の為替レート実績は、米ドルが120円、ユーロが133円となっていた。しかし、今回の業績見通しでは米ドルが105円(前年度比15円の円高)、ユーロが120円(同13円の円高)となっており、想定為替レートを現状に合わせてきただけで、原価改善(3,400億円の増益通し)や営業努力(1,350億円の増益見通し)といった業績改善効果が完全に相殺された格好になっている。

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【出所:トヨタ自動車 決算説明会補足資料】

(注:赤丸は筆者加工、為替の業績への影響部分)

当然に日本を代表する企業の大幅な減益見通しは、トヨタ自動車株のみならず日本の株式市場全体にとってもネガティブである。トヨタ自動車の株価が急落すれば、日経平均株価急落の引き金になっても不思議ではなかった。

しかし、トヨタ自動車はこうした大幅な減益見通しと同時に、上限を5,000億円とする自社株買、更には普通株に対する16年3月期の年間配当を前期比10円増の210円とするなど株主還元策を強化することとで、同社の株価のみならず日経平均株価の急落を阻止した。9兆2,000億円規模にも達した豊富な手元資金で、トヨタ自動車株の魅力を維持したことが、「トヨタショック」を起点とした日経平均株価の急落シナリオを阻止したのである。

■日銀短観との想定レートのずれ目立つ

しかし、昨年とは一変した為替レート環境において、国内輸出企業の業績に対して下振れ圧力が強くなっているとの事実に変わりはない。トヨタ自動車は豊富な手元資金で当面の株安ショックを回避したが、同様に火種は日本の株式市場の各所に存在している。

ここで注目したいのが、4月1日に日本銀行が発表した「全国企業短期経済観測調査(日銀短観)」である。そこでは、大企業製造業の業況判断DIが、昨年12月時点の12ポイントから3月時点で6ポイントまで急低下したことが話題になった。しかし、それと同時にマーケットの関心を集めたのは、大企業・製造業が想定している2016年3月期の想定為替レートが、昨年12月期の1ドル=119.80円に対して、3月時点でも117.46円(上期117.45円、下期117.46円)と高止まりしていたことだった。

現実の為替レートがこの想定為替レートを早くも10円前後下回る中、これから輸出企業の想定レートが一気にトヨタ自動車と同様に105円前後に集約されれば、「トヨタショック」の代わりに複数の「○×ショック」が発生するのは必至の状態になるためだ。非製造業部門の業績改善が続けば日本企業全体に対する減益圧力は限定されるが、このまま17年3月期の業績が15年3月期の過去最高益からのマイナス幅を拡大していけば、日経平均株価水準の切り上げはファンダメンタルズの裏付けを欠き、今後の株高は過熱感を高めていく形でしか実現しないことになる。

もちろん、これまでの円安局面で構造改革を進めてきた企業にとっては、そのショックは小さくなる。しかし、「アベノミクス→円安→企業業績拡大」の流れにただ漠然と乗ってきた企業にとっては、企業環境の本格的な曲がり角を迎えることになる。企業が慎重に円高リスクをみていることが強く印象付けられる中、円安効果を除いた日本企業の実力が問われることになる。トヨタ自動車、更には日産自動車も1ドル=105円を想定レートとしており、同水準で円高にブレーキを掛けられるかは、日本の株価が下げ止まることができるかとの視点でも重要な分岐点になる。1ドル=105円に、単なる節目以上の新たな意味が付け加えられている。

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(注:日経平均株価とドル/円相場の関係、赤線は近似曲線)