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急激な円安でガソリン価格は更に上がる?

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

NY原油先物相場は、3月17日の1バレル=42.63ドルをボトムに、5月上旬には昨年12月中旬以来の高値圏となる60ドル台前半まで値位置を切り上げる展開になった。主要メディアでの報道を振り返ると、原油価格が半年で半値水準にまで落ち込んだことを受けて、米国のシェールオイル増産に歯止めが掛かったことを、その根拠に挙げる向きが多かった。

実際に、米国では石油リグ稼動数が昨年10月10日時点の1,609基をピークに、直近では659基まで6割近く減少しており、主要シェール層では増産が止まるのみならず減産の動きが報告され始めている。米エネルギー情報局(EIA)の最新推計では、2014年の米産油量は前年比で日量+120万バレルの急増となったが、15年には+53万バレルまで増産ペースが鈍化し、更に16年には+2万バレルとほぼ横ばい状態に留まる見通しになっている。

しかし、5月はシェールオイル生産環境が一段と悪化しているにもかかわらず原油価格は伸び悩み、ここにきて逆に調整圧力に晒されるようになり始めている。原油市場を買い進んできたファンドも2週連続で買いポジションの整理に動いており、ここから原油価格を一段と押し上げることを疑問視し始めていることが窺える。

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■実は単純だった原油価格反発の背景

これは、「原油価格の底打ち論」が誤りだったことを反映する動きと評価している。3月中旬以降の原油価格反発において、シェールオイルの増産にブレーキが掛かった影響は決して小さくない。中国など新興国の石油需要が鈍化する中、需給均衡化を実現するためには、世界のいずれかの地域で産油量の調整を行うことが必要不可欠なためだ。石油輸出国機構(OPEC)がその調整役を降りている以上、価格低下への耐性が弱いシェールオイルが新たな調整役となれば、需給均衡化が実現する目処も立つことになる。しかし現実には、OPECが増産政策に舵を切っている結果、世界の原油供給水準が大きく切り下がった訳ではない。寧ろ、供給圧力は強くなっている可能性の方が高い状況にある。

では、なぜ3月下旬から5月初めにかけて原油価格が急騰したのかとなるが、「ドル安」の影響が大きかったと考えている。冬季の米景気減速懸念を背景に、これまでの早期利上げ観測を背景としたドル高トレンドが反転する中、「ドル安→ドル建て原油価格上昇」のフローが発生した可能性が高い。たまたま、このタイミングにシェールオイルの減産傾向が伝わっただけであり、原油価格の短期トレンドを決定付けているのは、ドル相場の動向である可能性が高い。

下図は、WTI原油先物相場とドルインデックスを重ねたグラフであるが、ほぼ一致したトレンドにあることが確認できよう。

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こうした状況を考慮すると、再びドル高圧力が強まり始める中、原油価格は再度下押しされる可能性を想定しておくべきである。ドル相場が3~4月にかけての高値水準に到達すれば、再び50ドルの節目を割り込む可能性も十分にあると考えている。

国内では円安による輸入物価価格の高騰が話題になっているが、ドル高に逆行してドル建て原油価格を押し上げることは容易ではない。足元では再び円安傾向が強くなっているためにガソリン価格の大幅値上げを警戒する声も当然に聞かれるが、国内ガソリン小売価格に関しては、これから横ばいないしは若干の値下がり圧力を想定している。日本銀行の追加金融緩和といったドル高ではなく円安が実現しない限り、まだガソリン価格が大きく上昇するステージにはない。

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マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

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