夏の行楽シーズンが近づいているが、今年のガソリン価格は2008年以来の高値になりそうだ。あの「ガソリン値下げ隊」の活躍が必要な程の値上がりにはならないと考えているが、それでも例年よりは1リットル=10~15円程度の値上がりは覚悟して旅行計画を練ることを推奨したい。

資源エネルギー庁の「石油製品価格調査」によると、直近6月10日時点での全国平均レギュラーガソリン価格は1リットル=151.6円となっており、急激な円高にもかかわらず3月4日の今年高値156.20円から殆ど値下がりしていない。末端販売が必ずしも良好とは言えないことで、これまで原油高や円安などのコスト転嫁が遅れていたため、円高局面でも安易に値下がりを促すことが難しい情勢になっている模様だ。

過去最高を記録した08年の184.40円(8月11日)を更新するような状況にはないが、原料となる原油価格が高止まりする中、今年の夏季休暇シーズンはこのまま150円台を維持する可能性が高いだろう。円相場の動向次第では、08年10月以来の160円台乗せの可能性も想定しておいた方が良いと考えている。ここ数年は、夏季休暇シーズンのガソリン価格は140~145円前後での販売となっていたが、今年はもう少し高値を覚悟しておいた方が良い。

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■夏場の原油価格は値下がりしない

こうした強気のガソリン価格見通しの最大要因は、夏場の原油価格下落が想定しづらくなっていることだ。一般メディアでは米国のシェール革命によって原油需給はだぶついているとの報道が多く見受けられる。しかし、実際には原油価格の急落リスクに危機感を強めた石油輸出国機構(OPEC)が大規模な減産に踏み切ったことで、国際原油需給バランスは概ね均衡状態を維持している。

このため、「シェール革命」にもかかわらず国際指標となるWTI(ウエスト・テキサス・インターメディエイト)原油価格は、年初から1バレル=85~100ドルの高値圏で取引されるが、ここにきて今後数ヶ月の大幅な値下がりを想定することは一段と難しくなっているのだ。すなわち、シリア情勢が一気に緊張の度合いを高めていることで、いわゆる「地政学的リスク」に対する警戒感が原油価格の高止まりを促す可能性を一段と高めているのである。

シリア情勢は6月18日の主要8カ国(G8)首脳会議でも主要テーマとなったが、「流血や人命損失を止めるための協働や、政治的手段を通じた平和達成のためのシリア国民への支援を決意する」としたものの、焦点となっていた欧米諸国とロシアの溝を埋めることには失敗している。

欧州連合(EU)は5月27日の外相会談でシリアへの武器禁輸措置を解除することで合意し、反政府組織に対する武器供与は法的には可能になっている。また、米国はシリア政府軍が化学兵器を使用したと断定して、オバマ大統領が反政府組織に対する武器供与を認める決断を下している。しかし、ロシアはイラクやリビアに続いてシリアでも親ロ政権が崩壊してこの地域に対する影響力が低下することに強い警戒感を示しており、欧米の介入に強く反発している。

しかも、この問題にはイランやイスラエルなども密接に関係しているため、最悪の場合には火種がどこまで拡大するのか分からない状況にある。取り扱いを誤れば、中東戦争勃発といった最悪のシナリオも存在しない訳ではない。シリア問題のソフトランディングが難しくなり、中東地区全体の政情不安につながる中、少なくとも当面の原油価格が大きく下落するリスクは限定されることになる。少なくとも、原油先物市場ではファンドが売りポジションを保有することが極度に警戒しており、値上がりはなくても値下がりは難しい状況になっている。

もともと、原油市場では5月下旬から9月上旬までを「ドライブ・シーズン」と呼び、この時期は最大消費地である米国を中心にガソリン需要が膨らむのが例年のパターンである。このタイミングでのシリア情勢緊迫化は、原油価格(そしてガソリン価格)の値下がり期待に応えることが、ますます難しくなっていることを意味する。

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■円高による値下がり期待も厳しい

更に円安問題もある。最近の株価急落・円高で「アベノミクス」失敗と言った見方もあるようだが、実体経済の改善傾向と脱デフレ期待が維持される中、本格的な円高リスクは限定されることになる。

金融緩和が脱デフレを促すことができるのかは議論のある所だが、日本銀行が2年でマネタリーベース(日銀の供給する通貨)を2倍に拡大する方針を示す中、円に対する信認毀損の流れはもはや止めることは難しい。その一方で、米国はいよいよ08年から続けてきたドルばら撒き政策からの脱却を模索し始めており、円安がなくてもドル高と言う形で、円安・ドル高圧力が強まり易い基本環境は維持されることになる。

為替要因での原油、ガソリン価格の値下がりも想定しづらい以上、今夏のガソリン価格は高値覚悟が必要である。