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OPEC総会から見えてきた原油市場の問題点

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

石油輸出国機構(OPEC)は5月31日にウィーンで開催した第163回総会において、加盟国12カ国の生産目標を現行の日量3,000万バレルで据え置くことを決定した。

総会後に発表された声明では、今年のOPEC非加盟国が日量100万バレルの増産となる一方、世界総需要は80万バレルの増加に留まることで、季節的な需要拡大を考慮に入れても下期の原油ファンダメンタルズは緩むとの悲観的な見方が示されている。要するに、現在の需要見通しを前提にすれば、北米のタイトオイル(シェールオイルやサンドオイル)増産分は吸収し切れないとのロジックになる。

このため、純粋に原油需給を考えれば減産の選択肢もあったと考えている。ただ、原油価格がOPECにとって好ましい水準を推移していることで、敢えて市場をかく乱する可能性がある生産政策の必要性はないと判断した模様だ。

OPECの指標となるバスケット価格は、1バレル=100ドルの節目前後を推移しているが、これ以上の原油高は脆弱な世界経済への影響が警戒される。一方、逆にこれ以上の原油安は産油国財政への影響が大きいため、居心地の良い現行価格を維持したいとの意向が働いた可能性が高い。

OPEC総会に先立つ5月27日には、最大産油国であるサウジアラビアのヌアイミ石油鉱物資源相が、「産油国にとっては、現在の原油価格は生産能力増強に必要な投資を継続する意欲をもたらす水準」、「消費国にとっては、現在の原油価格は景気回復と将来的な成長を阻害する水準にはない」と指摘していたのが、シンボリックだろう。当然に、産油国にとって原油価格は高い方が、消費国にとって原油価格が安い方が良いことになる。しかし、持続的かつ安定的な原油供給環境を維持できる一方、経済成長をぎりぎりで阻害しない価格水準ということで、産油国と消費国の双方が妥協・納得できる価格水準を、OPECは100ドルという価格水準に見出したと見ている。

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■シェール革命は「革命」とは言えない?

昨年からの原油市場で最大のトピックとも言える「シェール革命」に対する評価には、加盟国の間に足並みの乱れも見られた。

サウジアラビアのヌアイミ石油鉱物資源相は、シェールオイルは「歓迎すべき追加分」と述べ、特に問題視しない姿勢を示している。原油供給が短期間に急増したのはこれが初めてではないとして、1980年代の北海油田、2000年代のメキシコ湾海底油田などを例に挙げて、「歴史を忘れてしまったのか?」、「なぜ突然に大騒ぎしているのだ?」と冷静な対応を呼びかけている。

歴史を振り返れば、北海油田増産の前にはオイルショック、メキシコ湾海底油田採掘が本格化する前にはイラク戦争など、原油市場では供給不安とそれに伴う原油価格高騰が新たな供給を呼び込むという動きが繰り返し観察されてきた。その意味では、シェール革命は2008年をピークとした原油価格高騰局面のエピローグ(終章)と評価するのが妥当であり、原油価格が高騰する時代に一つの終止符が打たれたことを確認するステージと受け止めるべきなのかもしれない。

OPECのバドリ事務局長は、「我々は新たなエネルギー・ミックスを目の当たりにしているが、これは革命とは言えない」、「シェールオイルの生産コストが高いことを忘れてはいけない」など、影響は限定的との見方を示している。

国際エネルギー機関(IEA)は5月14日に発表した中期報告で「米国のシェールガスとライトタイトオイル、及びカナダのオイルサンドの生産拡大」が「衝撃波」になっているとの見方を示している。ただ、このシェール革命の「衝撃波」は、あくまでも高い原油価格を前提に発生した動きであることを確認しておきたい。

シェールオイルに関しては、原油価格が70ドル台まで下落すると、徐々に減産が開始されると見られている。シェール技術の一般化で当然に採算コストは切り下がるが、それでも在来系原油とコスト面での競争ができる状況にはなく、シェール革命が成功して原油価格が下落すれば、それがシェール革命の終わりを告げるシグナルとなり兼ねない状況にある。

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■余裕のサウジ、危機感強める西アフリカ諸国

一方、シェール革命に強い警戒感を示している国がある。その筆頭が、ナイジェリアやアルジェリアといった中央・西アフリカ地域の産油国である。

シェールオイルの増産圧力が強くなっていることは間違いないが、実はサウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)といったOPEC主要国にとって、その影響は見掛けの数値程には大きなものではない。というのも、シェール革命で新たに市場に供給されているのは硫黄分が低い軽質油であり、重質油の産油国にとっては、直接的な競合は避けられるためだ。

昨年の場合だと、米国全体の石油輸入量が減少する中で、サウジアラビアやクウェート、ベネズエラなどからの輸入量は逆に増加している。例えば、サウジアラビアは11年が日量119.5万バレルだったのに対して、12年は135.9万バレルを記録している。

一方、シェール革命によって軽質油の米国向け輸出需要は大幅に落ち込んでおり、その直撃を受けているのがナイジェリアやアルジェリアといった軽質油の産油国という訳だ。

特に、ナイジェリアのアリソンマドゥエケ石油相は、シェールオイルを「懸念材料」だと定義した上で、それがOPEC産原油に及ぼす影響を調査する方針を示している。このままシェール革命が想定通りに展開すれば、今後5年程度で米国は軽質油の輸入を全く必要としなくなる可能性が高く、中央・西アフリカの産油国はそれに代替する原油輸出先を見つけ出す必要が生じている。

しかし、その需要の受け皿と期待されている中国などアジア地区の石油需要が伸び悩んでいることが、原油需給の混乱を増幅させている。

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マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

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