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羽生九段A級残留へ前進なるか――第80期順位戦A級8回戦、永瀬拓矢王座―羽生善治九段戦展望

古作登大阪商業大学アミューズメント産業研究所主任研究員
棋界ただ一人の「永世七冠」資格保持者羽生九段はA級の座を守ることができるか(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

 渡辺明名人(37)への挑戦権を争う第80期順位戦(朝日新聞社、毎日新聞社主催)A級は8回戦が2月4日東西の将棋会館で一斉に行われる。

 残留争いの大一番、3勝4敗の永瀬拓矢王座(29)と2勝5敗の羽生善治九段(51)戦は東京都渋谷区「将棋会館」での対局。羽生九段は残り2局を連勝で自力残留が可能だが、本局に敗れると過去名人在位9期を含む29期連続で守ってきたA級から初めて陥落する。

 最近の両者の調子とデータを基に勝敗と展開を予想してみた。

永瀬王座は順調

<順位戦A級成績>(丸数字は現時点の成績順。段位のあとの数字はリーグ順位)

①斎藤慎太郎八段(1)7勝0敗

②糸谷哲郎八段(4)5勝2敗

③豊島将之九段(2)4勝3敗

④佐藤天彦九段(7)4勝3敗

⑤広瀬章人八段(3)3勝4敗

⑥佐藤康光九段(6)3勝4敗

⑦菅井竜也八段(5)3勝4敗

⑧永瀬拓矢王座(9)3勝4敗

⑨羽生善治九段(8)2勝5敗

⑩山崎隆之八段(10)1勝6敗 *陥落

<永瀬王座の最近10局>

12月2日 棋王戦本戦

対豊島将之九段 ○

12月6日 棋王戦本戦

対佐藤康光九段 ○

12月10日 竜王戦1組

対糸谷哲郎八段 ○

12月17日 順位戦A級

対菅井竜也八段 ○

12月21日 棋王戦挑戦者決定二番勝負第1局

対郷田真隆九段 ○

1月13日 順位戦A級

対佐藤天彦九段 ●

1月16日 朝日杯将棋オープン戦本戦

対阿久津主税八段 ○

1月16日 朝日杯将棋オープン戦本戦

対藤井聡太竜王 ○

1月28日 叡王戦予選

対郷田九段 ○(千日手指し直し)

1月28日 叡王戦予選

対佐藤天彦九段 ●

<羽生九段の最近10局>(相手の肩書は対局当時・未放映のテレビ対局を除く)

11月9日 ALSOK杯王将戦リーグ

対藤井聡太三冠 ●

11月19日 順位戦A級

対糸谷哲郎八段 ●

11月24日 ALSOK杯王将戦リーグ

対糸谷八段 ○

12月3日 竜王戦1組

対佐藤和俊七段 ○

12月6日 NHK杯

対斎藤明日斗四段 ○

12月9日 朝日杯将棋オープン戦2次予選

対青嶋未来六段 ●(千日手指し直し)

12月15日 順位戦A級

対山崎隆之八段 ○

12月18日 ヒューリック杯棋聖戦2次予選

対木村一基九段 ●

1月7日 順位戦A級

対斎藤慎太郎八段 ●

1月26日 王座戦2次予選

対藤井猛九段 ○

 順位戦A級は前期挑戦者の斎藤八段が7連勝と星2つ離して連続挑戦に向け快走しており、8回戦で敗れてもプレーオフ進出の可能性を残す糸谷八段が敗れた時点で渡辺名人への挑戦決定となる。

 タイトル獲得通算99期の大棋士・羽生九段のピンチとあって挑戦権争い以上に注目の残留争い(降級2人)は、すでに山崎八段の陥落が決定しており順位下位の羽生九段と永瀬王座の順に陥落のリスクが高い。

 ただし順位で1つ上の羽生九段は本局に勝った時点で永瀬王座を抜いて残留圏内の8番手に浮上する。

 永瀬王座の直近10局は8勝2敗と順調だ。破竹の進撃を続ける藤井竜王(王位、叡王、棋聖)を破っているのは最近の充実ぶりを示していると言っていいだろう。

 対照的に羽生九段の直近10局は5勝5敗といま一つ調子が上がらない。2021年度(2021年4月~2022年3月)の通算成績は黒星が先行しており、以前はあまり見られなかった終盤での競り負けも多い。

 調子の比較では永瀬王座がはっきり優位に立っている。

直接対決も永瀬王座が大きくリード

 直接対決は15局あって永瀬王座が11勝4敗(1千日手)と大きく引き離し、しかも直近は永瀬王座の4連勝中だ。

 順位戦は先後が決まっており本局は羽生九段が先手。過去のデータからは矢倉、相掛かり、角換わりが予想されるが永瀬王座は後手番で時折横歩取りにも誘導しており戦型の特定が難しい。よって最近の羽生九段の先手番採用率が高い矢倉を本命としておく。

 棋界ただ一人の「永世七冠」称号獲得者・羽生九段にとって不安材料ばかり目につくが、後のない状況で歴戦の勝負強さを見せることができるかに注目したい。

大阪商業大学アミューズメント産業研究所主任研究員

1963年生まれ。東京都出身。早稲田大学教育学部教育学科教育心理学専修卒業。1982年大学生の時に日本将棋連盟新進棋士奨励会に1級で入会、同期に羽生善治、森内俊之ら。三段まで進み、退会後毎日コミュニケーションズ(現・マイナビ)に入社、1996年~2002年「週刊将棋」編集長。のち囲碁書籍編集長、ネット事業課長を経て退職。NHK・BS2「囲碁・将棋ウィークリー」司会(1996年~1998年)。2008年から大阪商業大学アミューズメント産業研究所で囲碁・将棋を中心とした頭脳スポーツ、遊戯史研究に従事。大阪商業大学公共学部助教(2018年~)。趣味は将棋、囲碁、テニス、ゴルフ、スキューバダイビング。

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