羽生善治竜王のタイトル100期はいつ? 佐藤天彦名人3連覇は先手番の安定感が勝因か
佐藤天彦名人(30)に羽生善治竜王(47)が挑戦した第76期名人戦七番勝負(朝日新聞社、毎日新聞社主催)は6月19、20日山形県天童市「天童ホテル」で行われた第6局に佐藤名人が勝ち、通算4勝2敗で防衛を果たした。
<第1局から第6局の結果と戦型>
※▲=先手、△=後手
第1局 4月11、12日東京都「ホテル椿山荘東京」
羽生竜王(先)〇-●佐藤名人
横歩取り▲5八玉急戦
第2局 4月19日、20日石川県「北陸あわづ温泉 辻のや花乃庄」
佐藤名人(先)○-●羽生竜王
角換わり△早繰り銀
第3局 5月8、9日奈良県「法相宗大本山 興福寺」
羽生竜王(先)○-●佐藤名人
角換わり▲4八金△6二金
第4局 5月19、20日福岡県「アゴーラ福岡山の上ホテル&スパ」
佐藤名人(先)○-●羽生竜王
横歩取り▲青野流
第5局 5月29、30日愛知県「亀学林 万松寺」
羽生竜王(先)●-○佐藤名人
横歩取り△3三角
第6局 6月19、20日山形県「天童ホテル」
佐藤名人(先)○-●羽生竜王
2手目△6二銀力戦
シリーズの明暗を分けたのは羽生竜王先手の第5局
先月第4局が終了し2勝2敗のタイとなった時点で「先手番キープ」が本シリーズの最重要課題で、後手番がどのような工夫を凝らすかがカギになるという記事を執筆した。
第5局の後手番で佐藤名人が用いたのは横歩取り△3三角。角換わりか雁木と思っていた筆者の予想は外れた。
確かに最新の将棋AI(ソフト)では横歩を取った先手有利とされるが、ミスが出ることを前提とした人間の勝負はソフト同士の戦いとは違う。第1局でも用いたように佐藤名人の得意戦法である。
キープしなければならない先手番の第5局で羽生竜王は序盤からソフト解析(Aperyを使用)による形勢分析グラフが示すとおり、早い段階で先手の得を失い逆に後手の佐藤名人は序盤で得たわずかなリードを徐々に広げて押し切った。
第6局は後手番の羽生竜王が自身24年ぶりの採用となる「2手目△6二銀」の奇策を用いて挽回を図ったが、佐藤名人が熱戦を制しシリーズの決着をつけた。
勝因は羽生竜王の不調ではなく佐藤名人の強さ
七番勝負を通じて佐藤名人には大きく形勢を損ねるような疑問手がほとんどなく、安定感は羽生竜王を上回っていた。名人戦七番勝負の勝敗は4勝1敗(奪取)、4勝2敗(防衛)、4勝2敗(防衛)と一度もカド番に追い込まれていない見事な内容、過去3連覇を果たした棋士はすべて永世名人資格(通算5期獲得)を得ており、二十世名人(羽生竜王は十九世名人資格者)に大きく近づいたといっていいだろう。
敗れはしたが、羽生竜王の第6局で見せた勝負への執着心は、不調説を退けるに十分なものだった。また、対局から4日後の6月24日に審判長として公務で訪れた第31回アマチュア竜王戦(読売新聞社主催)全国大会の会場で、選手として対局中だった筆者の将棋を観戦し局後に誰も気づかぬ終盤の妙手順を指摘してくれた羽生竜王の表情は思いのほか晴れやかだった。
1勝1敗のスコアで迎える6月30日のヒューリック杯棋聖戦五番勝負第3局(産経新聞社主催)のシリーズにおいて羽生竜王がタイトル通算100期の偉業を達成する可能性は十分残されている。