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「藤井四段に羽生竜王 2018年将棋界3つの注目ニュース」

古作登大阪商業大学アミューズメント産業研究所主任研究員
2018年もさらなる活躍が期待される藤井四段(右)(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

藤井聡太四段のタイトル戦登場に期待

 将棋界にとって2017年は「大底」から転じて、かつてない上昇機運に恵まれた1年だった。その原動力となったのはなんといっても14歳の若さでプロになったルーキー藤井聡太四段(2002年7月19日生まれ)だ。4月には新人デビューからの無敗新記録11を達成、その後も破竹の快進撃を続けて6月、1987年に神谷広志五段(現八段)が達成した歴代最多連勝記録28に並んだ時には新聞の号外が出た。新人棋士の活躍で号外が出たのはもちろん史上初、さらに同月26日竜王戦決勝トーナメント1回戦で増田康宏四段に勝って約30年ぶりに最多連勝記録を塗り替えると、再び号外が出る破格の扱いだった。

 記録自体は29でストップしたがその後も安定した勝ち星を挙げ、2017年末の時点で年度対局数54(2位は44)、勝数44(2位は33)、勝率0.814(10局以上・2位は0.800)と記録3部門でトップに立っている。将棋界にとって藤井聡太四段の活躍はまさしく「天祐」と呼んでいい。18年はタイトル戦の大舞台に登場できるかどうかが一番の注目となるだろう。

 現時点で8大タイトルのうち年内に挑戦可能性があるのは竜王戦(5組)、王位戦(挑戦者決定リーグ入りまであと2勝)、王座戦(一次予選決勝進出)の3つ。いずれもトーナメント戦なので1つ負ければ挑戦への望みは絶たれるため道は決して容易でないが、最速なら夏の王位戦七番勝負で菅井竜也王位に挑戦する可能性がある。タイトル戦以外の全棋士参加棋戦としては朝日杯将棋オープン戦で本戦進出(ベスト16)を決めていて頂点まであと4勝。過去最年少でのタイトル獲得は屋敷伸之九段(四段昇段は16歳)が1990年18歳6カ月、五段の時に達成しているが藤井には記録更新の大きな期待がかかる。

羽生善治竜王、タイトル通算100期まであと1

 二つ目の注目は羽生善治竜王のタイトル獲得通算100期なるかだろう。昨年12月4日、5日に行われた第30期竜王戦七番勝負第5局で挑戦者の羽生善治棋聖(47)は渡辺明竜王(33)を破り4勝1敗のスコアでタイトル奪取、通算7期獲得の規定を達成し「永世竜王」の資格を得た。このことで過去に獲得した名人、王位、王座、棋王、王将、棋聖の永世称号(王座のみ名誉王座の呼称)と合わせタイトル戦の永世称号をすべて保持する前人未到の「永世七冠」を達成した。なお昨年スタートしたばかりの8つ目のタイトル「叡王」に関してはまだ永世規定は定められていないようだ。

 将棋界にはさまざまな記録があるが、過去「永世五冠」を達成したのは故・大山康晴十五世名人(1923~1992年)と中原誠十六世名人(70)の2人のみ。通算タイトル獲得数では羽生が99期でトップ、2位大山の80、3位中原の64を大きく引き離している。おそらく今後破られることのない「永世七冠」を達成した羽生にとって次の目標がタイトル通算100期の大台達成であることはまちがいない。最短では負け数1つ差で現在5勝3敗の3番手(上位は5勝2敗の久保利明王将と豊島将之八段)につけているA級順位戦を勝ち上がっての佐藤天彦名人へ挑戦から復位の道となる。もちろんそれが成らなくとも6月には棋聖の防衛戦五番勝負もあり、10月には竜王戦七番勝負の防衛戦もスタートする。年内のうちに羽生が100期の大台を達成する可能性は高そうだ。

三浦弘行九段の「A級残留」なるか

 三つ目は三浦弘行九段のA級順位戦残留の成否に注目したい。三浦九段は2016年秋に竜王戦七番勝負への挑戦を決めたあと「将棋ソフトカンニング冤罪事件」に巻き込まれ前代未聞の挑戦者交替となり、理事会から2016年末までの出場停止処分で七番勝負を対局できなかったばかりか名人挑戦権を争うA級順位戦もその後の対局は不戦局扱い(相手に白星、自分は勝敗つかず)となり、裁定により今期順位戦はB級1組からの昇級者2名より下の順位11位という極めて不利な扱いに甘んじた。

 「ソフトカンニング疑惑」に関しては同年末までの第三者委員会の綿密な調査により「不正はなかった」ということが発表され三浦九段の潔白は証明されたが、失われた対局機会は戻ってこない。このことにより日本将棋連盟は谷川浩司会長の辞任、臨時総会で棋士の投票により専務理事を含む理事数名の解任というかつてない事態となり本稿冒頭に述べたように将棋界は「大底」を打ったわけだが、直後の理事選挙により新体制で船出し2017年5月には日本将棋連盟と三浦弘行九段の和解成立が発表された。三浦九段には機会損失に見合った金銭的補償(金額非公表)はなされたが、棋界で昔から言われているように「対局は棋士の命」という言葉どおり、トップ棋士にとって極めて過酷な数カ月に及ぶ実戦からのブランクで復帰当初はなかなか白星に恵まれなかった。だが2017年度の中盤以降、三浦九段は各棋戦で活躍し棋王戦では強豪棋士を次々に撃破して本戦トーナメント準決勝に進出するなどトップレベルの技術を披露し、盤上においても「潔白」を証明した。

 昨年末の時点で三浦九段のA級順位戦成績は3勝4敗と一つの負け越し。順位の関係で残留確定には残り3局で2勝1敗の成績が必要とされる。今期A級は11人参加で降級が3人、9位以下はB級1組に陥落となるが規定により5勝5敗の指し分けの場合は残留となる。昨年末8回戦(抜け番あり)を終えた時点での星取りと順位(カッコ内)は以下のとおり。

5勝2敗=久保利明王将(9)、豊島将之八段(10)

5勝3敗=羽生善治竜王(2)

4勝3敗=佐藤康光九段(8)

4勝4敗=稲葉陽八段(1)、渡辺明棋王(3)

3勝4敗=広瀬章人八段(4)、深浦康市九段(7)、三浦弘行九段(11)

2勝5敗=行方尚史八段(5)、屋敷伸之九段(6)

 三浦九段の9回戦は1月17日(深浦九段戦)。トップ棋士の証明といえるA級の地位を守れるかどうか、最終11回戦が行われる3月2日までA級順位戦から目が離せない。

 このほかにも昨年初タイトルを獲得した菅井竜也王位(25)、中村太地王座(29)のさらなる活躍など、今年の将棋界も明るいニュースが期待できそうだ。

大阪商業大学アミューズメント産業研究所主任研究員

1963年生まれ。東京都出身。早稲田大学教育学部教育学科教育心理学専修卒業。1982年大学生の時に日本将棋連盟新進棋士奨励会に1級で入会、同期に羽生善治、森内俊之ら。三段まで進み、退会後毎日コミュニケーションズ(現・マイナビ)に入社、1996年~2002年「週刊将棋」編集長。のち囲碁書籍編集長、ネット事業課長を経て退職。NHK・BS2「囲碁・将棋ウィークリー」司会(1996年~1998年)。2008年から大阪商業大学アミューズメント産業研究所で囲碁・将棋を中心とした頭脳スポーツ、遊戯史研究に従事。大阪商業大学公共学部助教(2018年~)。趣味は将棋、囲碁、テニス、ゴルフ、スキューバダイビング。

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