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台風でも、出勤しなければならない? 台風にからむ労働問題への「対処法」を解説

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
写真はイメージです。(提供:アフロ)

 巨大台風がたびたび発生し、相次いで日本列島を襲っている。台風の規模はこれまで私たちが経験したことのないほど強力なものが多くなっており、これからも各地に大きな被害をもたらす恐れがある。

 今回の相次ぐ台風はたまたま連休期間を襲っており、今のところ出勤などで大きな混乱はみられていない。それでも、休日に稼働する職場は少なくなく、台風は労働問題を引き起している。

 台風で問題となる労働問題は、主に次の3点だ。

  1. 台風で危険があるのに就労を命じられる(出勤命令は拒否できるか?)
  2. 台風が原因でケガをする(その場合賠償を請求できるか?)
  3. 台風で休業になる(その場合の休業補償がどうなるのか?)

 中でも、①危険を伴う業務命令については命の問題にもつながりかねない。労働者、使用者双方に注意喚起を促すためにも、喫緊に必要な知識を提供しておきたい。

会社は、労働者を危険にさらす命令を発してはならない

 労働者は労使双方の合意によって締結される労働契約に基づいて、会社から業務命令を受け、働いている。台風の中での出勤命令も、労働契約に基づく業務命令にあたる。

 実は、この労働契約の締結においては、あえて明文化されておらずとも、当然守るべきさまざまな義務が労使双方に発生する。その中でもとりわけ重要であるのが、使用者側の「安全配慮義務」である。

 安全が守られてない状態では労働者は安心して働くことすらできない。そのため、労働契約では、使用者側は労働者が安全な環境の下で働けるように配慮する義務を当然に負っている。この義務の存在は、労働契約法第5条でも確認されている。

「使用者は労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」

 また、労働安全衛生法第3条も、労働者の安全を守るために危険を防止する措置を取ることを次の通り求めている。

「事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。また、事業者は、国が実施する労働災害の防止に関する施策に協力するようにしなければならない」

 危険な台風が通過する際には、気象庁がかならず身の安全を確保するように注意喚起をするだろう。危険が明らかな中で会社は、労働者の安全を守る措置を取る義務を負っている。そのため、安全の確保されない業務命令は違法である可能性があり、その場合、労働者にはそれに従う義務が労働契約上存在しないと考えられる。

 ただし、現状では災害時の出勤拒否権が明確に認められているわけではない。具体的にどのような場合に出勤の拒否ができるのかは、今後裁判例の積み重ねによって明確になっていくことが見込まれている。災害が多発する中で、国の側から明確な基準を示すなど、政策的対応も必要である(なお、後述するように特定の危険な業務についてはすでに明確に禁止事項が存在する)。

 とはいえ現状でも、明らかに危険な状況下での出勤命令を拒否したことを理由に査定を引き下げたり、実際にけがなどをした場合(この点は後述)、使用者は賠償責任を問われる可能性がある点は強調しておきたい。

悪天候下で禁止された業務

 次に、特定の危険な業務においては、悪天候で危険を伴う業務がそもそも禁止されているものも存在する。

 労働安全衛生法は、「強風、大雨、大雪等の悪天候」下でクレーン作業や高所作業を禁止している。台風前後の強風・大雨も含め、こうした作業に従事するよう命じられた場合は拒否して問題ない。

 悪天候の定義は、厚労省の通達で次の通り決められている。 

強風:10 分間の平均風速 10m/s 以上

大雨:一回の降雨量 50mm 以上

大雪:一回の降雪量 25cm 以上

中震:震度 4 以上

(昭和34年2月18日「基発第101号」)

 禁止されている業務は具体的には「高さが2m以上の箇所で行う作業」、「クレーンに係る作業」などの業務だ。規定は多岐にわたるため、ここでは列挙できない。下記のサイトから具体的な業務を参照してほしい。同時に、使用者側が講じるべき安全対策も列挙されている。

参考:神奈川労働局「降雨及び強風等による労働災害防止の徹底について」

 ここに挙げられている業務に該当する業務に従事するように命じられた場合には、身を守るために断っても法的に問題はない(なお、業務命令の拒否がトラブルに発展する場合には、この記事の最後にある窓口への相談を検討してもらいたい)。

労働災害の場合は、労災保険を使ったうえで損害賠償を請求できる

 次に、不幸にして台風による労働災害が起き、負傷したときには、労災保険が適用される。労災保険では、治療費全額、休業4日目以降の休業補償、後遺障害が残った時の障害給付などを受けることができる。

 会社が危険回避義務を果たさずにケガに至った場合には、さらに会社に対し労災保険給付で補償されない分の損害賠償を追加で請求することもできる。労働災害と労災保険・損害賠償請求については以下の記事で詳細に論じたので詳しくはこちらを合わせてお読みいただきたい。

参考:自動車事故に例えて考える「労働災害」

仕事が休業になった場合の休業補償も請求できる

 台風で休業になった場合には、休業補償を請求できる場合がある。

 労働基準法26条や民法536条は、会社都合による休業があった場合に労働者が休業補償を受ける権利を規定しているが、天変地異など不可抗力によるものはその例外とされる。

 しかし、テレワークも一般化している現在、テレワークで仕事を与えられるにもかかわらず休業になってしまった場合は、法的にも休業補償の対象になりえるだろう。

 また、厚労省は相次ぐ集中豪雨や台風などを受け、昨年「自然災害時の事業運営における労働基準法や労働契約法の取扱いなどに関するQ&A」を公表しており、その中で次の通り、「労働者の保護」を会社に促している。

「被災により、事業の休止などを余儀なくされた場合において、労働者を休業させるときには、労使がよく話し合って労働者の不利益を回避するように努力することが大切であるとともに、休業を余儀なくされた場合の支援策も活用し、労働者の保護を図るようお願いいたします」

 このように災害を労使で協力しながら乗り越えることは道義的にも求められることであろう。

 いずれにしても、災害時の出勤や休業補償については労使で話し合うことが重要である。あらかじめルールを会社との交渉で明確にしておくこともトラブル回避のためには役立つだろう。

 社内に健全な労働組合が存在しない場合には、労働者側は社外の労働組合に加入しルール形成を求めることも一つの手段になるだろう。

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NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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