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「生理の貧困」が選挙の争点に? 各政党のマニフェストを比較

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
(写真:アフロ)

 10月31日投開票の衆議院選挙に向けて注目すべき政策論点の一つに「生理の貧困」があります。「生理の貧困」とは、経済的な理由等によって生理用品の入手や利用が困難な状態にあることを指します。

 今年の3月に、任意団体#みんなの生理がオンライン調査から「金銭的理由で生理用品の入手に苦労したことがある若者の割合が20.1%にのぼる実態」を明らかにしたことで、「生理の貧困」が社会問題として日本でも広く認知されるようになりました。

 そこで、#みんなの生理の共同代表である谷口歩実さん(23)に、「生理の貧困」対策と2021年衆議院選挙というテーマでお話を伺いました。谷口さんは「生理の貧困」問題の第一人者でありながら、Z世代のアクティビストでもあります。

 Z世代が問題提起した「生理の貧困」を政治はどう受け止めるのか。各政党の「生理の貧困」にかかわるマニュフェストの比較もしていきます。

※この原稿の一部は、「「生理×社会問題」で資本主義と闘う」『POSSE』vol.48を編集したものです。

――まず、谷口さんが「生理の貧困」の問題に取り組むようになった経緯について教えてください。

谷口:2019年12月、私が生理用品を軽減税率の対象にするよう求める署名を立ち上げたのがこの活動の始まりです。2019年10月の消費増税の際、低所得層への配慮から、生活必需品には軽減税率が適用されることになりましたが、生理用品はその対象から外されました。

 ただでさえ、男女の賃金格差が深刻な日本で、女性にとっての必需品に高い税率がかけられれば、女性の生活が圧迫されることは明らかです。私は、これに強い怒りを覚えて署名を立ち上げました。

Change.org「生理用品を軽減税率対象にしてください!」

――それでは、改めて「生理の貧困」について教えてもらえますか。

谷口:「生理の貧困」とは、十分に生理用品や生理に関する教育にアクセスできない状態のことです。

 私たちが今年3月に発表したアンケート調査では、過去1年間に生理用品を入手するために他のものを我慢するなど、経済的理由で生理用品の入手に苦労した経験のある若者の割合が20.1%にのぼることや、過去1年以内に経済的な理由で生理用品でないものを生理用品の代わりに使った経験のある若者が27.1%、生理用品を交換する頻度を減らした若者が37.0%にも及ぶことが明らかになりました。

谷口歩実さん。
谷口歩実さん。

「生理の貧困」に関する政策論点

――「生理の貧困」を解決するために、今回の衆院選に向けて政治には何を求めていますか。

谷口:まずは、生理用品に軽減税率を適用することですね。先ほどもお話ししたように、消費増税の際、生活必需品には軽減税率が適用されることになりましたが、生理用品はその対象から外されました。

 その後、私たちのアンケート調査をきっかけに「生理の貧困」の存在が広く知られたことで、政治家の間でも生理用品への軽減税率の適用が議論されるようになってきています。これを選挙の争点の一つにすることで、政策として実現させたいと思っています。

――生理用品への軽減税率適用のほかには、何を求めていますか。

谷口:今回の選挙に向けたもう一つの要求は、学校のトイレに生理用品を無償設置することです。「生理の貧困」対策として、軽減税率の適用だけでは不十分です。生理用品は必需品ですから、経済状況等にかかわらず誰もが容易にアクセスできるようにしなくてはいけません。ですから、生理用品を無償提供することが必要だと考えているのです。

 とくに、学校では、すべての人に教育機会を保障するためにも、生理用品へのアクセスを容易にする必要があります。生理があるということによって、生徒の活動が制限されたり、不利益を被ったりしないような教育環境を実現させたいです。

生理用品の無償提供の課題

――「生理の貧困」が知られるようになって以降、自治体等による生理用品の無償提供の取り組みが始まっているようですが、そうした動きについてはどう評価していますか。

谷口:今年の7月時点で、全国の3割の自治体が何らかの形で生理用品の無償提供を実施しているとの数字が発表されています。ですが、正直、課題が大きいと感じています。まず、1回きりの提供というケースがとても多いです。生理はずっと続くのに、無償提供は1回きりでは、問題の解決につながらないことは明らかです。

 無償提供の方法にも問題があります。今のところ、生理用品の無償提供のほとんどは、窓口配布なのです。交通費の方が高いということにもなりかねませんし、人に知られるのが恥ずかしいと感じて躊躇する人も多くいるはずです。このような支援のし方では、生理用品を必要とするすべての人に届けることはできません。

――重要な指摘ですね。生理用品の無償提供について、他にも留意すべき点はありますか。

谷口:生理用品の無償提供にあたって、その対象を「貧困の人」に限定するのではなく、生理のあるすべての人が必要な時に遠慮なく使えるようにすることが大事です。たとえば、ある学校ではトイレに生理用品を設置する際、「これは困っている人のものです。

 忘れた人は保健室に申告してください」と貼り紙をしているのです。これでは、生理や貧困にまつわる「スティグマ」を強めてしまいますし、多くの人がその使用を躊躇ってしまうでしょう。

 もう一つ強調したいことは、「生理の貧困」対策は国・自治体が責任をもって実施してほしいということです。「生理の貧困」対策の財源を企業からの協賛金に求めている自治体が少なくないのですが、そういったケースでは、生理用品を受け取る前にその企業の広告を流すということもあります。

 なぜ、必需品である生理用品を受け取るために、企業のCMを見させられる必要があるのでしょうか。同じことをトイレットペーパーに置き換えて考えてみると、その異様さが分かるはずです。

「生理の貧困」に関する主要政党の政策比較

――今回の選挙に向けて各政党は「生理の貧困」についてどのような政策を掲げていますか。

谷口:詳しくは私たちのnoteを参照してもらいたいのですが、私たちが作成した「衆院選2021政策比較~生理に関する政策~」をもとに、私が印象に残っている点を説明しますね。

作成:#みんなの生理
作成:#みんなの生理

 まず、保守のイメージのある自民党の政策マニュフェストの中に「生理の貧困」が盛り込まれたことには良い意味で驚きがありました。同じ与党である公明党については生理用品の無償提供に言及している点を評価しています。

 ただ、生理用品の提供方法など具体策についてもう一歩踏み込んでほしいという思いもあります。立憲民主党も公明党と同様、無償提供について言及している点は評価しているので、今後施策をより具体化してほしいです。

 共産党については生理用品の無償配布を恒久的な措置として実施するという点を評価しています。社民党は、生理用品に対する軽減税率適用よりもさらに踏み込んで、消費税免除としている点が良いです。れいわは、生理用品への軽減税率の適用に加え、生理用品を窓口や保健室を通すことなく、無償で入手できるようにすると踏み込んだ書き方をしている点を評価しています。

 維新と国民民主党については、「生理の貧困」への言及はありませんでした。

「生理の貧困」対策を前進させるために必要なこと

――今後、「生理の貧困」対策を前進させるために何ができるか教えてください。

谷口:#みんなの生理は、選挙に向けた政策要求だけでなく、普段から生理にかかわるムーブメントを起こして、生理にかかわる社会課題を解決しようと活動しています。「生理の貧困」対策について議員や政党を動かすには、この問題について多くの市民が関心をもち、行動を起こす必要があります。

 この衆議院選挙を通じて求めている2つの要求(生理用品への軽減税率の適用、生理用品の無償提供)についても、選挙以前からオンライン署名キャンペーンを実施して、多くの人がこれを求めていることを可視化してきました。

 投票に行くことはもちろん、こうしたオンライン署名にもぜひご協力ください。

Change.org「生理用品を軽減税率対象にしてください!」

Change.org「東京都の公共施設のトイレに生理用品を設置してください!」

――最後に、今回の衆院選はZ世代に注目が集まっているように感じますが、Z世代や若者という観点からは、「生理の貧困」と選挙についてどう思いますか。

谷口:私たちの意図とは異なり、「生理の貧困」が学生だけの問題であるかのように取り上げられることもあります。政治やマスメディアの論調は、「若い女性がこんなに苦しんでいるんだぞ、何とかしろ」というストーリーになりがちです。この問題を「若い女性に限定しないで」というのはすごく思います。

 そうした問題意識から、最近、NPO法人POSSEや総合サポートユニオンの学生ボランティアの皆さんと「更年期の労働問題」に一緒に取り組むことにしました。私たちは、「若い女性」だけの問題としてではなく、「生理のある人・子宮のある人」みんなの問題として生理の問題に取り組んでいきたい。

 だから、更年期を迎えた人たちが職場で労働問題に遭って、時には退職に追いやられるという問題を何とかしたいと思いました。

 こうした問題意識を共有して一緒に取り組めるZ世代の仲間が増えれば、政治に対してもより大きな影響力を持てるようになるのではないかと思います。

(インタビューは以上)

選挙とZ世代

 谷口さんが最後に話してくれた「選挙とZ世代」は、近年世界的な関心事になっています。アメリカの若者の過半数が「社会主義」を資本主義よりも支持すると回答しているなど、英米では世論全体の左傾化にも影響を与えています。

 彼らは選挙のたびに学費や奨学金など、若者たちの貧困問題の解決を強く訴えており、「ジェネレーション・レフト」とも呼ばれています。

参考:若者が「左傾化」日本でもありえる? 世界各地では年齢が分断の要素に

 たしかに、日本でも選挙の際には、メディアが「若者目線」「若者の立場」に注目します。しかし、日本では「左でも右でもない、無党派の、純粋無垢な若者」が求められる傾向があるように思います。

 具体的な政策要求ではなく、「選挙にいこう」というキャンペーン・マスコットのような位置づけに見えることさえあります。あるいは、突然「選挙について意見して」と問われることで、とまどう若者もいるようです。実際に、POSSEの学生スタッフからは、次のような意見も出ています。

 結局、多く場合、若者は空気を読んで、「政治を考えよう」「選挙にいこう」とあまり意味のない発言せざるを得なくなっているようにも見えます。実際、突然「選挙の時だけ」意見をしようと思っても限界があることは明らかです。

 その点で、今回インタビューした谷口さんのように、具体的な考えをもって動き出している若者の動きはとても貴重だと思います。これからも、行動する若者たちの取り組みを紹介していきたいと思います。

※イベント紹介

POSSEでは、10月23日(土)14時より、「Z世代と選挙」について「ジェネレーション・レフト」という視点からイベントを行うので、関心のある方はぜひ参加してみてほしい。

【総選挙直前企画!】なぜいま「ジェネレーション・レフト」なのか?――Z世代のリアルと新しい社会運動 @PeatixJPより

NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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