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「学校スト」から「職場スト」へ メーデーに連帯を呼びかける世界の若者たち

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

 毎年、この時期になると「メーデー」という言葉をニュースなどで耳にする機会が増える。しかし、メーデーについて知っている人は少ないのではないだろうか。

 5月1日のメーデーとは、国際的な労働者の日である。その起源は、1886年5月1日にアメリカの労働者たちが8時間労働を要求して行なったゼネラルストライキだ。当時は、1日12時間以上の長時間労働が一般的だった。

 昨日の5月1日にも、日本だけでなく世界中の多くの労働組合や市民運動が、路上やオンライン上で様々な抗議活動やアクションを行なっていた。その中でも、特に興味深かったのが、TwitterのFridays For Future公式アカウントだ。5月1日のその公式アカウントには、#StandWithWorkers(=労働者を支持します)というハッシュタグがついた世界中の若者たちの投稿が並んでいた。

 Fridays For Future(以下、FFF)とは、2018年に当時15歳のグレタ・トゥーンベリ氏が気候変動問題を訴えるためにたった一人でスウェーデンの国会前に座り込みをしたことをきっかけに世界中に広まった気候変動運動である。

 なぜ、世界中のFFFの若者たちは、国際的な労働者の日であるメーデーに、労働者との連帯を示すアクションを行なっていたのだろうか。本記事では、世界のFFFの若者たちが労働者たちと連帯する理由と、海外と日本の事例、さらに、気候変動運動における労働組合の意義について紹介していきたい。

「公正な移行」とは?

 FFFがメーデーの日に要求しているのが、「公正な移行」である。

 「公正な移行」とは、新しい持続可能な社会へと移行する際に、誰も置き去りにしない形での移行、例えば、既存の環境負荷の高い産業で働く労働者に対して失業時の補償や職業訓練を実施し、彼らの権利や生存が脅かされないような形での移行のことだ。

 2015年国連気候変動条約第21回締約国会議(COP21)のパリ協定では、「各国が定める開発優先事項に従ったディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)及び良質の仕事の創出並びに労働力の公正な移行」という文言が盛り込まれており、国際労働機関(ILO)もこの「公正な移行」を歓迎し支持している。

 つまり、FFFは、新しい脱炭素社会の実現に向けて「誰一人取り残さない」ことを重視し、石炭火力などの環境負荷の高い産業の労働者を置き去りにしない「公正な移行」を求めているのだ。

 日本ではあまり聞くことのない言葉だが、労働者を置き去りにしないという視点は、国際的にはスタンダードな考え方なのである。

気候変動と労働問題の連続性

 次に重要なのが、既存の経済システムが、環境問題と労働問題を同時に生み出している、という視点だ。FFFの若者たちは、この「環境+労働問題」を生み出す経済システムの転換=「システムチェンジ」を求めている。

 「環境+労働問題」が日本で具体的に現れているのが、ジュースなどを販売する「自販販売機」の産業だ。

 自販機産業では、各社が利益のために街中に自販機を設置し、大量の自販機を労働者の長時間労働によって機能させている。自販機が機能するためには、飲み物を補充したりゴミ箱の掃除をしたりする労働者が必要だ。この自販機のメンテナンスのために、労働者は一日に数多くの自販機を巡回することになり長時間労働を強いられている。自販機産業では「過労死」も起きているほどだ。

参考:社会問題化する「固定残業代100時間」 自販機ベンダー業界からの告発

参考:コカ・コーラ下請会社で最大月200時間の残業で、労基署から是正勧告

 一方で、環境負荷の視点から自販機産業を考えると、街中にあふれている24時間稼働の自販機それ自体の電力消費、さらに、多くの自販機を巡回する際のトラックでの移動や賞味期限切れの飲料などの食品ロスの問題もある。

 産業構造そのものが、環境と労働者へ高い負荷を生み出していることがわかるだろう。同じようなことは、時給300円で店長が働き、24時間稼働し、大量の食品廃棄を出し続けるコンビニ業界など、多くの産業に共通している。労働の観点からも、環境の観点からも、「持続可能」とは見られない産業は日本にも、世界にも、あまりに多い。

 だからこそ、FFFの若者たちは、グレタ氏の言うような「無限の経済成長というおとぎ話」のために、環境や労働者が抑圧される社会システムを変えようとしていう。また、環境問題への関心から広がり、「労働者たちとの連帯」を重視するのである。

海外の気候変動運動と労働運動の連帯

 海外では、気候変動運動と労働運動が連帯してアクションを行なうことは、メーデーに限った話ではない。

 例えば、ドイツ最大の労働組合のひとつであるIG Bauen-Agrar-Umweltは、組合員が気候変動のデモに参加できる機会を雇用主に要求したり、CO2排出量の削減を要求したりしている。また、アメリカのAmazon社では1749人の労働者が一斉に仕事を引き上げる本物のストライキを行ない、FFFが主導する「グローバル気候ストライキ」という抗議行動に参加した。そして、労働者たちは同社に対して環境に優しい生産のあり方を要求し、ジェフ・ベゾスCEOは要求に応じることとなった。

 さらに、フランスでは、気候変動運動の若者たちと黄色いベスト運動と呼ばれる労働運動の労働者たちが、環境省やグローバルエネルギー企業の前で一緒に座り込みをし、催涙スプレーを浴びながら抗議行動をしている。それが原動力となりフランスでは気候変動対策が大きく前進しているのだ。

日本でも動き始めた気候変動運動と労働運動との連帯

 最近になり、日本でもこのような動きが見られるようになっている。

 その始まりは、2021年4月22日に行なわれた気候変動のアクションだ。気候変動対策を求める世界規模のアクションに、自販機産業ユニオン(以下、ユニオン)は以下の声明を発表した。

参考:グローバル気候マーチ0422に連帯する声明(自販機産業ユニオン)

 この声明の中で、ユニオンは、自販機産業の生産過程における環境負荷の問題点を指摘し、高い環境負荷と労働者への過酷な状況を改善するように求めている。具体的な要求事項としては、次の3点だ。

  1. 業界で協力して無駄な自販機の削減とCO2排出を削減してください
  2. 8時間労働で生活できる賃金を設定してください
  3. 自販機業界と自販機産業ユニオンでの、気候危機に関する議論の場を設けてください

 日本でユニオンによる要求事項の中に、気候変動対策に関するものが含まれているのは非常に稀である。そして、4月22日、ユニオンはFFFTokyoのアクションに参加した。

そして、メーデーにはFFFJAPANが、労働者に連帯するアクションを行なった。

気候変動における労働組合の可能性

 さて、環境問題と労働問題が世界では結びつけて考えられている。その影響で、既存の「環境運動」のイメージも変わってきている。これまでの気候変動運動や環境運動は、時間の余裕のある学生や若者たちが主な担い手というイメージ強かったが、今日では多くの労働者が参加する運動へと発展しているのだ。

 海外の事例では、若者たちが労働者との連帯を通じて、ストライキや直接行動が展開されている。「学校スト」から本物の「職場スト」へと、若者たちの運動が大人たち(労働者)を巻き込みながら広がっているということだ。

 気候変動対策において、生産の在り方を変える重要性はたびたび指摘されている。例えば、「新書大賞2021」を受賞しベストセラーとなっている斎藤幸平氏の『人新世の「資本論」』では、消費の領域ではなく生産の領域を変えることを強調している。

 Amazon社の事例がそうだったように、労働組合には、労働者たちが生産過程に意見を言い、要求する「力」がある。気候変動運動を学生や若者だけに任せるのではなく、労働者も労働組合という手段を使って、環境に優しい生産のあり方を企業に要求していくことが重要なのではないだろうか。

 労働者は職場からも、気候変動という地球規模の社会的課題に取り組むことができる。この意識が日本でももっと広がれば、幅広い労働組合が「メーデー」で気候変動問題に取り組む日が訪れるかもしれない。筆者も日本の若者たちの運動が労働運動を変えていくことを期待する一人である。

NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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