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解説:緊急事態宣言で失業者への給付はどうなる? 雇用保険のコロナ「特例」とは

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
(写真:ideyuu1244/イメージマート)

 3度目の緊急事態宣言が発令され、経済や雇用への影響が懸念されています。コロナを理由とする解雇や退職勧奨により、自らの意思によらず、離職を余儀なくされる方が増えることが予想されます。

 勤め先から「辞めてほしい」と言われ、やむなく離職した際に味方になってくれるのが雇用保険制度です。雇用保険から支給される「失業手当」は、離職された方が、安定した生活を送りつつ、早期に再就職できるよう求職活動を支援することを目的とする給付です。

 コロナの感染拡大に伴い、失業手当にはいくつもの特例が設けられています。今月には、新たにシフト制労働者向けの特例が設けられるなど、制度の改善も図られています。ここでは、雇用保険制度の概要とコロナ特例の内容について解説していきましょう。

「失業手当」とは?

 一定の要件を満たす雇用保険の被保険者が、解雇・倒産・自己都合等により離職し、働く意思と能力がありながら就職できない場合に「失業手当」(求職者給付の基本手当)が支給されます。

 原則として、離職の日以前の2年間に、11日以上または80時間以上働いた月が12か月以上あることが受給資格を得るための要件となっています。ただし、後ほど説明する「特定受給資格者」や「特定理由離職者」に該当する場合には、離職の日以前の1年間に11日以上または80時間以上働いた月が6か月以上あれば、受給資格を得ることができます。

 1日当たりの給付額を「基本手当日額」といい、離職前賃金の50%〜80%が給付されます(上限額・下限額あり)。賃金の低い方ほど高い給付率となります。

 給付を受けられる日数を「所定給付日数」といい、離職理由、年齢、雇用保険に加入していた期間に応じて一定の日数が定められています。倒産、解雇、退職勧奨、雇止め等の場合(後述する「特定受給資格者」および「特定理由離職者」)には下記の日数が給付されます。

出展:かながわ労働センター。
出展:かながわ労働センター。

 給付を受けるためには、お住まいの住所を管轄するハローワークに求職申込みの手続きをする必要があります。離職後に次の仕事が決まってしない場合には、できるだけ早く事業主に「離職票」を交付してもらい、ハローワークで手続きを行うようにしてください。

 なお、65歳以上で離職された方には、失業手当ではなく、「高年齢求職者給付金」という一時金が一括支給されます。

参考:「離職されたみなさまへ」(厚生労働省リーフレット)

給付日数に関する特例

 ここからは、コロナに関連して設けられた、失業手当に関する臨時特例についてご紹介します。

 1点目は給付日数に関する特例です。これは、一定の条件を満たす求職者について、失業手当の給付日数が60日間延長されるというものです。昨今の雇用情勢が悪化を踏まえ、なかなか仕事が見つからない求職者を支えるために講じられた措置です。

 コロナ禍の影響による倒産・解雇等の理由により離職を余儀なくされた方の多くにこの特例が適用されます。詳細については、以下のリンク先のリーフレットをご確認ください。

参考:「新型コロナウイルス感染症等の影響に対応した給付日数の延長に関する特例について」(厚生労働省リーフレット)

受給期間に関する特例

 2点目は「受給期間」に関する特例です。

 基本手当を受けることができる期間を「受給期間」と言い、「離職の日の翌日から起算して原則1年間」と定められています。受給期間を過ぎてしまうと、給付日数が残っていたとしても、それ以降、基本手当は支給されません。

 例外として、疾病、出産、育児等の理由により30日以上職業に就くことができない日がある場合には受給期間の延長が認められています(最大で3年間の延長)。例えば、離職した後、病気が理由で100日間仕事をすることができない場合には、受給期間を100日分後ろ倒しすることができます。

 新型コロナに関連して、以下の理由の場合にも受給期間を延長できる特例が設けられています。詳細については、以下のリンク先のリーフレットをご確認ください。

<受給期間の延長が可能となる場合>

1 新型コロナウイルス感染拡大防止の観点からハローワークへの来所を控える場合

2 新型コロナウイルスに感染している疑いのある症状がある場合

3 新型コロナウイルス感染症の影響で子の養育が必要となった場合

参考:「受給期間延長の特例について(新型コロナウイルス感染症関連)」(厚生労働省リーフレット)

「特定受給資格者」に関する特例

 3点目は「特定受給資格者」に関する特例です。

 特定受給資格者とは、倒産・解雇等の理由により再就職の準備をする時間的余裕なく離職を余儀なくされた方のことをいいます。

 特定受給資格者であると認められた場合、自己都合退職の場合と比べて3つの点で有利に給付を受けられます。

 まず、上にも述べましたが、特定受給資格者の場合、離職の日以前の1年間に11日以上または80時間以上働いた月が6か月以上あれば、受給資格を得ることができます。

 次に、所定給付日数が自己都合退職の場合と比べて多くなることがあります。

 さらに、自己都合退職の場合と比べて早く失業手当の受給を開始することができます。

 正当な理由なく自己都合で退職した場合、ハローワークで求職の申込みをしてから7日間の待期期間が経過した後、さらに2ヶ月間の「給付制限」があります(一定の場合は3ヶ月間)。この期間を待たなければ失業手当の支給は開始されませんので、離職してから実際に給付を受けられるまでに相当な期間を要します。

 これに対して、特定受給資格者の場合、最初の7日間の待期期間は同じですが、給付制限はありません。このため、待期期間の翌日から失業手当の支給が開始されます。

 以上のとおり、特定受給資格者にはいくつものメリットがあります。前置きが長くなりましたが、コロナに関連してどのような特例が設けられているかというと、以下の理由の場合にも特定受給資格者と認められるようになっています。詳細については、以下のリンク先のリーフレットをご確認ください。

<「特定受給資格者」となる場合>

本人の職場で感染者が発生したこと、または本人もしくは同居の家族が基礎疾患を有すること、妊娠中であることもしくは高齢であることを理由に、感染拡大防止や重症化防止の観点から自己都合離職した場合

参考:「特定受給資格者の対象について(新型コロナウイルス感染症関連)」(厚生労働省リーフレット)

「特定理由離職者」に関する特例

 4点目は「特定理由離職者」に関する特例です。

 特定理由離職者とは、特定受給資格者以外で、期間の定めのある労働契約が更新されなかったこと、その他やむを得ない理由により離職した方のことをいいます。簡単にいえば、「正当な理由のある自己都合退職」をした方です。

 特定理由離職者と認められた場合にも、自己都合退職の場合と比べて有利になる点があります。

 まず、特定受給資格者の場合と同様に、離職の日以前の1年間に11日以上または80時間以上働いた月が6か月以上あれば、受給資格を得ることができます。

 所定給付日数についても、自己都合退職の場合と比べて多くなる場合があります。

 離職理由による給付制限がない点も特定受給資格者の場合と同じです。

 コロナに関連して、以下の理由の場合にも特定理由離職者と認められる特例が設けられています。詳細については、以下のリンク先のリーフレットをご確認ください。

<「特定理由離職者」となる場合>

1 同居の家族が新型コロナウイルス感染症に感染したことなどにより看護または介護が必要となったことから自己都合離職した場合

2 本人の職場で感染者が発生したこと、または本人もしくは同居の家族が基礎疾患を有すること、妊娠中であることもしくは高齢であることを理由に、感染拡大防止や重症化防止の観点から自己都合離職した場合

3 新型コロナウイルス感染症の影響で子の養育が必要となったことから自己都合離職した場合

参考:「特定理由離職者の対象について(新型コロナウイルス感染症関連)」(厚生労働省リーフレット)

「シフト制労働者」に関する特例

 最後に、今月発表された、シフト制労働者に関する特例です。

 コロナ禍の影響によるシフトの削減に伴う収入の減少に苦しんでいるパートやアルバイトの方が多いにもかかわらず、シフト削減を理由に離職した方が自己都合退職と扱われ、給付制限を課されてしまうケースが多くありました。

 こうした状況を改善するために特例措置が設けられました。以下に該当するシフト制労働者の方は、特定理由離職者または特定受給資格者として認められる場合があります。

  • 具体的な就労日数が労働条件として明示されている一方で、シフトを減らされた場合
  • 契約更新時に従前の労働条件からシフトを減らした労働条件を提示されたため、更新を希望せずに離職した場合
  • シフト制労働者のうち、新型コロナウイルス感染症の影響によりシフトが減少し、概ね1か月以上の期間、労働時間が週20時間を下回った、または下回ることが明らかになったことにより離職した場合

参考:「特定理由離職者の対象について(シフト労働者関連)」(厚生労働省リーフレット)

おわりに

 雇用保険制度は、失業者が余裕をもって再就職先を探すことを可能にするという意義を持っています。失業してしまったからといって、どんな仕事でもかまわないと、条件を問わず慌てて再就職をすると、結果として劣悪な条件の仕事に追いやられてしまい、社会全体としてもブラックな労働が広がってしまいます。

 こうしたことを防ぎ、じっくりと自分に合った適正な条件の仕事を探せるようにするために雇用保険という制度があります。制度をしっかり活用し、余裕をもって求職活動を行なっていただければと思います。

 労働相談の窓口には、「会社から退職勧奨を受けたのに自己都合退職扱いにされてしまった」、「会社が雇用保険の加入手続きを行ってくれない」といった相談も多く寄せられています。このような場合には、泣き寝入りせずにハローワークや支援団体にご相談ください。

【無料相談窓口】

NPO法人POSSE

03-6699-9359

soudan@npoposse.jp

*筆者が代表を務めるNPO法人。訓練を受けたスタッフが法律や専門機関の「使い方」をサポートします。

総合サポートユニオン

03-6804-7650

info@sougou-u.jp

*個別の労働事件に対応している労働組合。労働組合法上の権利を用いることで紛争解決

に当たっています。

仙台けやきユニオン

022-796-3894(平日17時~21時 土日祝13時~17時 水曜日定休)

sendai@sougou-u.jp

*仙台圏の労働問題に取り組んでいる個人加盟労働組合です。

ブラック企業被害対策弁護団

03-3288-0112

*「労働側」の専門的弁護士の団体です。

ブラック企業対策仙台弁護団

022-263-3191

*仙台圏で活動する「労働側」の専門的弁護士の団体です。

NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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