政府の「新たな」支援策 私たちが「給付金」以外に注目するべき理由とは

(提供:shozy/イメージマート)

 16日、コロナの影響で生活が困窮する人々に対する政府の新たな緊急支援策の概要が明らかになった。それにもかかわらず、新たな支援策の中身はほとんど注目されていない。所得の低い子育て世帯を対象に子ども1人当たり5万円を支給する「特別給付金」が少し話題になった程度である。

参考:「孤独対策、NPO通じ財政支援 困窮者支援金は返済免除 政府が緊急支援策とりまとめ」(2021年3月16日 日経新聞)

 だが、しっかりと内容を見れば、今回まとめられた様々な支援策のなかには注目に値する施策がある。

 今回は、3月16日に開催された緊急対策関係閣僚会議の資料(以下「会議資料」)と、2月12日に厚生労働省が公表した「新たな雇用・訓練パッケージ」を手がかりに、3つの観点から政策の動向について紹介したい。

職業訓練の拡充

 コロナの影響が長期化するなか、政府は、これまで就業経験のない新たな分野への円滑な労働移動を望む求職者の早期再就職を支援することなどを目的に、職業訓練の大幅な強化・拡充を図っている。

 コロナの影響を大きく受けている業種で働く人々が人材不足分野へ移動できるように、訓練の受講を通じて労働者の能力向上を図るという施策だ。会議資料によれば、目標とされる規模は次の通りである。

・公共職業訓練の受講者の50%増(約15万人を目標)

・求職者支援訓練の受講者の倍増(約5万人を目標)

・職業訓練受講給付金の受給者の倍増(約2.5万人を目標)

・デジタル分野の求職者支援訓練の定員の倍増(約5千人を目標)

 特に重視されているのが求職者支援制度の活用だ。求職者支援制度とは、雇用保険を受給できない求職者に対して、訓練期間中の生活を支援する給付金の支給を受けながら訓練を受講する機会を提供し、スキルアップを通じて早期就職を支援する制度だ。

参考:厚生労働省リーフレット「求職者支援制度があります!」

 この制度を利用すれば、原則無料で求職者支援訓練や公共職業訓練を受講でき、一定の要件を満たす場合には、職業訓練受講給付金として月額10万円の手当などの支給を受けることができる。

 厚生労働省は、この制度について、コロナの影響を受けて休業を余儀なくされている人やシフトが減少した人などが、働きながら訓練を受講しやすくするための特例措置を講じている。

 通常、職業訓練受講給付金の支給を受けるためには、本人収入が月8万円以下であることが要件とされているが、特例として、固定収入が8万円以下の場合、収入要件が月12万円以下となる(シフト制などで定額の給与がない場合、固定収入はないものとみなされる)。

 また、通常は全ての訓練実施日に出席することが支給要件となっているが、特例として、仕事で訓練を欠席せざるを得ない日についてはやむを得ない欠席となり、8割以上出席すれば支給を受けることができる。

 

 さらに、シフト制で働く労働者などが訓練を受講しやすくするために、短い期間や時間の訓練コースの設定、オンデマンド型のオンライン訓練の促進が行われている。

参考:厚生労働省ホームページ「求職者支援制度などの特例措置について」

 会議資料には、人材が不足している介護・障害福祉分野における雇用を確保する観点から、2021年度より、訓練修了後に介護・障害福祉分野に就職した者に20 万円の返済免除条件付の就職支援金を貸し付ける制度を開始する旨も記載されている。

 仕事をしながら職業訓練を受講しやすくする措置は、シフトの減少に苦しむ非正規労働者が多い現状において有効な施策であると考えられる。ICT人材やケア労働を担う人材を育成することは、産業構造の転換への対応という観点からも重要である。

 終身雇用・年功賃金を前提とする従来の日本社会では職業訓練制度が脆弱であったが、コロナ危機を契機に職業訓練の量的な拡大が進み、そうしたあり方が変容する可能性がある。

住まいの支援

 住まいを失ったり、失う可能性がある人々を支援するための政策が検討されていることにも注目したい。

 2017年10月から民間住宅を活用した住宅セーフティネット制度がスタートし、増加する空き家・空き室を低所得者等の住まいとして利用する政策が取られているが、今回は公営住宅やUR賃貸住宅の活用も図られる。

 コロナの影響により住まいに困窮する人々を支援するNPO法人等に、公営住宅や建替え予定等のUR賃貸住宅の空き住戸が低廉な家賃で貸与される。当該NPO法人等は、支援対象者にシェアリング等の形で転貸しつつ、生活相談や就労支援を行う。このような仕組みが新たに創設される。

 入居後に孤独・孤独対策として見守り等の支援活動を行うNPO法人等に対する補助上限も引き上げられる見込みだ。

NPO等を通じた地域社会の再建

 孤独・孤立対策に取り組むNPO等への支援も重視されている。

 例えば、生活困窮者等に対する支援を行うNPO法人等については、電話・SNS相談、居場所づくり、学習の支援、生活上の支援、住まいの確保などに関する活動費の全額が国から助成される。

 自治体からの委託という形式ではなく、国がNPO法人等を直接支援するスキームが検討されており、規則で縛られがちな公的機関とは異なり、現場の実情に合わせて柔軟かつ臨機応変に取り組むことができるNPO法人等の実践が広がることが期待できる。

 また、生活困窮者等に食品の提供を行っているフードバンクについても、補助対象となる団体が拡大され、食品の受入れ・提供に必要な運搬用車両、一時保管用倉庫、入出庫管理機器等の賃借料の全額が補助される。

 NPO法人等が主体となり、こうした施策を活用することによって、余っている資源を活用し、新しい形の経済を作り出しながら、地域に広がる貧困や孤独・孤立の問題を解決していく。前述した住まいの支援と合わせて、そのような動きを促進するものであるといえ、地域社会における支え合いやシェアリングエコノミーを広げる意義がある施策だといえよう。

参考:2021年3月16日内閣官房提出資料「孤独・孤立対策に取り組むNPO等への支援」

「給付金」よりも議論すべきこと

 以上、現在検討されている支援策のなかで注目すべきだと思われる施策を紹介してきた。

 これらの施策には課題や問題点も存在する。例えば、介護業界の低い労働条件をそのままに、介護のスキルを持つ労働者をいくら育成しても、労働者の業界への定着や人手不足の解消は実現しないだろう。労働者の職業能力を向上させても、その力を有効に発揮できる場が整備されていなければ意味がない。

 民間団体の力を活用した支援の仕組みについても、利益重視の運営主体が入り込み、営利ビジネス化してしまえば、いわゆる「貧困ビジネス」が跋扈してしまい、貧困問題の根本的な解決は遠ざかってしまう。

 だが、こうした課題を乗り越えていくことができれば、ここで紹介した施策は、公的職業訓練制度を拡充させたり地域社会の協同を発展させたりするための有効な政策への一歩ともなりえる。

 私たちにとって重要なのは、こうした施策を活用することによって自分たちで地域社会を運営する力を高めたり、地域の結びつきを強めることによって貧困を生み出さない社会を実現していくことにあるのではないか。あるいは、政策形成に介入することによってより良い制度を確立していくことにあるのではないか。

 これに対して、「給付金」はたとえ支給されたとしても、継続的な社会保障制度の確立や、人々の社会を運営する能力の向上には結びつかない。給付金を出す、出さないだけの議論では、社会の改善には結びつかないのである。

 コロナ禍は、これまで可視化されてこなかった社会の様々な課題を表出させた。私たちがいま議論すべきことは、こうした契機を活かし、いかに人々の協同的な実践を生み出し、社会の活力としていくのか、そうした実践を支えるためにどのような施策を求めていくかというところにあるのではないだろうか。

参考資料

新型コロナに影響を受けた非正規雇用労働者等に対する緊急対策関係閣僚会議 配布資料(2021年3月16日)

厚生労働省「新たな雇用・訓練パッケージ」

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