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誰のための補正予算か? 「GoToトラベル」よりも少ない生活支援策

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
(写真:アフロ)

 連日、新型コロナウイルスの感染者数が最多を更新し続け、感染拡大に歯止めがかからない。それと同時に、経済への影響が長期化し、厚労省統計でコロナ関連の解雇・雇止めは7万6000人を超えている。

 こうした情勢を踏まえ、先月15日に2020年度の第三次補正予算案が閣議決定され、追加経済対策が打ち出された。追加経済対策の事業規模自体は金融機関の融資や民間投資を含めて73兆円超で、そのうち、第三次補正予算が総額19兆1761億円となっている。

 第三次補正予算は3つの柱から成っている。

①コロナ感染拡大防止

②ポストコロナに向けた経済構造の転換

③防災・減災、国土強靱化の推進など

 上記のうち②のなかに、雇用調整助成金の特例措置延長や、緊急小口資金の特例貸付延長などのコロナ関連の生活支援策が含まれている。第三次補正予算の全体像を踏まえたうえで、これらの生活支援策の規模を見ると、国がどれだけ私たちの生活保障に力を入れているのかが明らかになるだろう。

コロナ感染拡大防止には全体の4分の1以下

 まず、①コロナ感染拡大防止に対しては、4兆3581億円を配分している。これは補正予算全体の4分の1以下でしかない。

 内訳としては、病床や宿泊療養施設の確保など医療を提供する体制を強化するために「緊急包括支援交付金」を増額する費用として1兆3011億円、各都道府県が飲食店に営業時間の短縮や休業を要請する際の協力金などの財源として「地方創生臨時交付金」を拡充する費用として1兆5000億円などとされている。

 感染拡大により医療崩壊が危惧され、医療の最前線に立つ医師や看護師のボーナスがカットすらされている状況にあって、国がどれほどその問題を重視しているのか、疑問の残る予算配分と言わざるを得ない。

コロナ関連の生活支援策には「たったの」1兆円弱

 次に、②ポストコロナに向けた経済構造の転換には、11兆6766億円と半分以上が配分されている。

 内訳としては、中堅・中小企業が事業転換を行うための設備投資などを最大で1億円補助するための費用として1兆1485億円、遅れが指摘される行政サービスのデジタル化を進めるため、地方自治体のシステムを統一する費用などに1788億円、「脱炭素社会」の実現に向けて基金を創設し、野心的なイノベーションに挑戦する企業を10年間継続して支援する費用として2兆円を計上している。

 なお、感染拡大を促進するとして物議をかもした「GoToトラベル」の来年6月までの延長にも1兆円超が配分されている。

 そして、この②のなかに雇用調整助成金の特例措置延長や、緊急小口資金の特例貸付延長が含まれており、それぞれ来年2月末までの延長に5430億円、来年3月末までの延長に4199億円が計上されている。

 冒頭に述べたように、コロナ感染拡大の第三波と言われ、経済や生活への影響が継続している状況にもかかわらず、予算の配分はコロナ感染拡大防止や生活保障よりも、ポストコロナにおける経済成長に重点が置かれている。

 しかも、雇用調整助成金や緊急小口資金の延長よりも「GoToトラベル」の方が多額の予算が組まれているというのは、人々の生活を軽視していると言われても仕方ないのではないか。

国は生活保障の拡充をすべき

 今回の第三次補正予算の内容を概観してきた。日々、生活困窮者に関するニュースが溢れる中で、国はコロナ感染拡大防止や生活保障をもっと重視した予算配分をすべきことは明らかだ。

 もちろん、すでに、コロナ関連の社会保障の拡充もいくつか行われてはきた。休業手当を支払った企業への雇用調整助成金・緊急雇用安定助成金、休業支援金・給付金、緊急小口資金・総合支援資金の特例貸付、住居確保給付金などである。一定の評価はできるが、まだまだ拡充が必要である。

 例えば、休業支援金・給付金は労働者自身が申請できるという点で画期的であるが、会社側のチェックが必要となっており、会社の協力が得られない労働者が補償から排除されている。また、緊急小口資金等の特例貸付や住居確保給付金は期限付きの制度であり、期限切れのために生活困窮に陥っている方からの相談が私たちのもとにもいくつも寄せられている。

 さらに、失業者の増加、失業の長期化も見込まれるだけに、雇用保険の拡充や新たな失業補償制度も検討すべきであるはずだ。補償がなく、失業ができない状態だと、労働条件や労働環境が悪くても「何でもいいから仕事に就く」という行動をとる人が増え、労働条件が限りなく下がっていってしまう。それを防ぐためにも失業補償が重要だ。

 この間の政府の対策は、常に「後手」を踏み続けてきた。政策のほとんどが、「現場」からの批判を受けて、少しずつ拡充されてきたのである。その動きは現在まで、あまりに遅いと言わざるを得ない。

 こうした制度政策の要求は、現実に生活に苦しんでいる方々が声を上げることで可能になる。まずは、私たちのような支援団体にぜひ相談してほしい。

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NPO法人POSSE

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NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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