コロナを理由にした労働者の解雇や雇い止めが横行している。厚生労働省は、8月7日時点で、4万4148人が解雇もしくは雇い止めされたと発表した。とはいえ、これはあくまで全国の労働局が把握できた数に過ぎず、氷山の一角でしかない。

 そして、真っ先に解雇や雇い止めの対象となっているのが、立場の弱い外国人労働者だ。私が代表を務めるNPO法人POSSEには、今年3月以降、400件近い相談が外国人から寄せられているが、解雇や雇い止めに関する相談は、休業補償に関するものに続いて多い。

 多くの人は、雇い止めや解雇はあくまで「ひどい経営者」がいる企業や、ブラック企業で横行していると思っているかもしれない。しかし、実態はそうではない。SDGsや「エシカル消費」を標榜し、環境にやさしく労働者の権利を守ると謳う企業でも、労働者の「使い捨て」が行われている

 今回は、「エシカル」企業の代表ともいえるグローバルコスメティック企業「ラッシュ」で起こった外国人労働者の雇い止め事案を見ながら、労働者の権利を守るために私たちにできることを考えてみたい。

経営不振を理由に、店舗労働者の半数を雇い止め

 ラッシュといえばイギリスに本社をおく大手コスメティックブランドであり、天然成分由来のバス用品や固形石鹸などの販売で有名だ。日本では、ラッシュジャパンがその運営を担っており、新宿駅前のアジア最大規模のフラッグシップショップをはじめ、日本全国に80以上の店舗がある。

 今回取り上げるのは、そのラッシュジャパンが運営する都内の店舗で働いていたヨーロッパ出身の女性Aさんだ。Aさんは母国の大学卒業を期に来日し、以降、英会話講師などの仕事に従事していた。

 その後、もともと環境に配慮することを謳ったラッシュの製品が好きだったことがきっかけで、2017年からラッシュの都内にある店舗で商品紹介を担当する「セールスアシスタント」として働きはじめた。

 Aさんが働いていた店舗は都内の特に忙しい店舗で、観光客も多く訪れていた。英語を話すことができるAさんは外国人観光客の接客を担い、店舗にとっては不可欠な存在になっていた。

 しかし、Aさんを含め、その店舗には非正規社員が何人もおり、Aさんも6か月契約の有期雇用であった。働き始めた際の時給は1000円で、そこから昇給したものの3年間働いた2020年6月でも1100円と、最低賃金を少し上回る程度にすぎない。

 それでもAさんは、オーガニックで環境にやさしい製品づくりを謳うラッシュの理念に共感し、ラッシュで働けることに満足していた。

 しかし、コロナウイルスの影響で、今年4月の緊急事態宣言発令以降、店舗そのものが休業となり、Aさんを含めてスタッフは自宅待機を命じられた。Aさんのもともと入っていたシフトはキャンセルとなり、ラッシュジャパンはその分に対して、休業補償として4月分は時給の80パーセントを、5月分は時給の60パーセントを支給した。

 またAさんの契約は、もともと今年6月で期間満了することになっていた。これまで3年間ラッシュで働き続けていたが、5月下旬に突然上司から「コロナウイルスの影響で、次の契約は更新しない」と一方的に告げられた。

 さらに、会社から渡された退職に関する書類には、「I resign」、つまり自分から自己都合で退職すると読める文言が予め記載されていた。Aさんは「働き続けたい」と要望したが、会社は雇い止めを撤回せず、6月末をもって契約期間満了でAさんは仕事を失った。Aさんと同じ店舗で働く非正規労働者も、同じタイミングで雇い止めに遭っている。

「外国人労働者のことも考えている」が、休業補償は支払えない

 雇い止めに遭ったAさんは、インターネットで私が代表を務めるNPO法人POSSE外国人労働サポートセンターをみつけ、相談に訪れた(なお、同センターは大学院生・大学生等のボランティアによって運営されている)。

 相談する中で、会社に対して休業補償を100パーセント支払うこと、そして雇い止めを撤回することを求めることを決心したAさんは、労働組合「総合サポートユニオン」に加入して、組合を通じて6月末、ラッシュジャパンに対して団体交渉を申し入れた。

 労働基準法では休業補償として平均賃金の6割を支給すると定められているため、ラッシュジャパンの対応は、労働基準法上は違法ではない。とはいえ時給1100円の60%となると1時間あたりわずか660円であり、これでは全く生活ができない水準までAさんの手取りは減ってしまう。

 だが、国の制度である雇用調整助成金を活用すれば、休業中の労働者に対して支払う休業手当の大部分が国から支給される。ラッシュジャパンは大企業に分類されるが、それでも66パーセント(2/3)が国から支給され、解雇を行わなければその割合は75パーセントに引き上がる。

 つまり、雇い止めを行わずに雇用を維持していれば、休業手当の実質的な会社負担はわずか25パーセントであった。Aさんの場合、時給に換算して会社負担はわずか275円だ。Aさんは毎月おおよそ80時間ほど働いていたため、会社負担は22000円ほどになる。この金額すらラッシュは当初払うことを渋ったのだ。

 会社は団体交渉の中でそれらの点について聞かれると、お金がなく休業補償を支払うことができない、雇用調整助成金は請求しているがまだ入金されていない、店舗は再開したが人数を減らして運営しているなどと述べて、休業補償の100パーセント支払いを拒否した。

 さらに雇い止めの撤回についても、シフト時間を保証しない形であれば復帰を認めると述べた。これは世界的には「ゼロ時間契約」と呼ばれ、不安定雇用の典型的な形とされている。

 この契約のもとでは、1ヶ月に働く時間は保証されず、単に仕事があるときだけ働くという形で、給料は当然働いた時間に対してのみ支給される。これでは結局Aさんの生活を安定させることにはつながらないため、Aさんの納得できる回答とは言えなかった。

 労働組合によれば、会社側の担当者は、「ブラックライブスマターの状況もあり、外国人労働者の権利について考えなければいけないと思っている」と述べたという。もし本当に外国人労働者の権利について考えるのであれば、国の制度を最大限活用して彼らの生活を保障するために取り組むべきだろう。

 なお、中小企業であれば、解雇を撤回して休業状態を継続すれば、労働者は国の「休業支援金」によって、従前の給与の8割の補償を受けることができる。

 ラッシュが中小企業であれば、シフトが減らされてもAさんはこの手当を受けることも出来たのである。このように、大企業の非正規雇用労働者たちが「国の制度」から差別されているという別の問題も存在する。

 参考:国に「見捨てられた」のか? 「不公平」な休業支援に怒りの声

 

「エシカル」だけでなく、労働者の生存を求める行動の必要性

 「外国人労働者の権利」と言うと、日本ではよく第三世界のサプライチェーンにおける児童労働や強制労働が想定される。

 実際に、ラッシュジャパンが自社ホームページで「労働者の権利-労働組合、団体交渉、衛生と安全、離職の自由、公平な賃金、労働時間、差別および児童労働を許していないこと」と謳っていが、これは「エシカルバイイングポリシー」というサプライチェーンの問題として捉えられている。

 また最近、話題をよんでいる「持続可能な開発目標(SDGs)」に関しても、ラッシュジャパンは様々な活動を通じて、地球規模での持続可能な発展を掲げて、環境問題やリサイクルに取り組んでいる。

 しかし、Aさんをはじめとする、日本国内での複数の非正規労働者の雇い止めは、労働者が安心して生活することを阻み、その影響は軽視されるべきものではない。実際にAさんはコロナの影響でいまだに就職先を見つけることができていないが、その間の生活保障もなく、生活に困窮している。

 特に、日本で働く外国人労働者の多くが、コロナ禍においてAさんと同じように解雇や雇い止めに遭っている。しかしながら、国による支援はほとんど存在せず、日本人であれば誰でも受けることができる生活保護も、外国人は原則として受けられない。つまり最後のセーフティーネットが存在せず、失職と同時に生活困窮に陥ってしまうのだ。

 ではそのような状況において、わたしたちになにができるだろうか。

 コロナによって生活困窮に陥った外国人にとって最も必要なのは、外国人自身では困難な「労働者としての権利の主張」を手助けすることだ。上に見たように、「権利の行使」が妨げられていては、国の支援策すらも届かないのである。

 コロナに端を発した外国人労働者の使い捨てが日本全国で行われているまさにいま、外国人労働者に対する支援のあり方が問われているだろう。そのなかで私たちにできることを議論していくために、NPO法人POSSEでは学生向けオンラインイベントも開催している。

 いまこそ議論を積み重ねていき、日本で働く外国人労働者の権利がより保証されるような社会を作っていくべきではないだろうか。

 参考:オンラインイベント「コロナ時代を考える! 第二弾 コロナ危機と外国人労働者」