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コロナで「給料」を減らせる? 勝手な賃下げは「違法」の可能性

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
写真は賃下げを告知されているイメージです。(写真:アフロ)

 私たちの下には、コロナを理由とした労働条件の不利益な変更の事例が多く寄せられている。シフトを減らされたり、賃金を減額させられたり、雇用期間を短くさせられたり様々な事例がある。

 「コロナで会社も経営状態が悪いし、緊急事態だから仕方ないかな」と考える人も多いと思うが、実は、労働条件を会社が一方的に不利益に変更することは法的に違法だ。たとえば、賃金を一方的に引き下げることは許されないということだ。

 今回は、労働条件の一方的な不利益変更が違法である理由と、不利益変更を迫られたときの対処法をご紹介したい。

コロナ禍で横行する労働条件の不利益変更

 まずはどのような不利益変更が行われているか、見ていこう。数多くの相談が寄せられているが、大きく分けると二種類に分けられる。一つは、労働時間(出勤日を含む)を変更させられる場合。もう一つは賃金を減額にする場合だ。

1 シフトや労働時間を減らされる

 例:契約を1日12時間→6時間に変更しようとしている(ホテル)。

 例:週休2日→3日に変更すると言われている(ブライダル)。

2 賃金を減額にする

 例:「売上が下がった。来月から給料が5万下がる条件にサインしろ」と言われた(航空会社)。

 例:「コロナによる休業などを理由に、コマ数による時給制に変更してほしい」と言われた」(学習塾)

 このような事態になってしまったとき、私たちは何をすればよいのか、丁寧に見ていこう。

労働契約の「合意の原則」

 まず、私たちが働くときに当たり前のように結んでいる「労働契約とは何か」から話をはじめる必要がある。

 労働契約法の第6条は次のように定めている。

「労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する」(太字:引用者)

 ここに書かれている通り、労働者が会社の指揮命令に従って働き、その対価として会社がその対価として賃金を支払う契約が労働契約だ。

 そして注目してもらいたいのは、「労働者及び使用者が合意することによって成立する」というところだ。労働契約は対等な立場の労働者と使用者の両者が合意することによって成立するのだ。どちらか一方が契約を拒否すれば、労働契約は成立しない。

 だからたとえば、会社が無理やり労働者を働かせれば、それは強制労働になって違法ということになる。これを労働契約の合意の原則という。

 

不利益変更が提示されたときには合意してはいけない

 労働契約には「合意の原則」があるのだから、労働条件の変更=労働契約の内容の変更にも労働者と使用者の両方の合意が必要になる。具体的に問題になるのは、賃下げなど、一方にとって不利益な条件の変更の時だ。

 これについて労働契約法第8条が次のように規定している。

「労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる」(太字:引用者)

 この労働契約法の規定には、新型コロナの万円といった社会状況や、経営赤字のような会社の経営状況も原則的には関係がない。基本的に会社は労働者の合意なしに、労働条件を不利益な方向に変えることが許されない。

 これは、例えば、不景気になったり経営が赤字だからと言って、購入契約や利用契約を結んでいた商品・サービスをいきなり値上げしたりできないのと同じだ。

 だから、労働者側からすれば、会社から不利益変更の提案があったときには、とにかく断ることが重要だ。

「不利益変更か解雇か」の選択肢は違法(変更解約告知)

 もしかすると、不利益変更に合意しないのなら、解雇と言ってくる会社もあるかもしれない。例えば、「10%の賃下げに応じないのなら解雇する」といった具合だ。その場合はどう考えればよいだろうか。

 不利益変更か解雇(労働契約の解約)を会社が通知することを「変更解約告知」というが、これは実は違法であると考えられている。

 なぜなら、労働契約の変更は、労働者と使用者が対等な立場で自由な意思に基づいて合意されたときにはじめて成立するが、解雇が選択肢になっていては労働者が自由な選択ができないからだ。

 そのため、「労働条件を下げた再雇用条件を提示してやったのに、労働者が応じなかったのだから、自己責任だ」と経営者が主張しても、法的には意味がない。

 仮に裁判になれば、解雇そのものの適法性が問われるだけで、「再雇用条件を提示してやった」ことや「労働者が雇用継続を選ばなかった」ことは、裁判所の判断に影響を与えないのである。

合意なしで会社が不利益変更を強行してきたとき

 いくら労働者が不利益変更への合意を拒否しても、無理やり労働条件が変更されてしまう場合もある。また、労働相談の現場では、そもそも合意すら求めずに、不利益変更を強行されてしまっている場合もしばしばみられる。

 このような場合、実際の条件は不利益変更されたとしても、法律的には労働契約が変更されないままになっているはずだから、それによって生じた損害は様々な方法で取り返すことができる。

 支払われていない部分は「未払い」であると考えられ、労働基準法違反に当たる。したがって、未払い分の「請求権」が存在することになるということだ。

 まず大切なことは、不利益変更に合意していないという証拠を残すことだ。口頭でその旨を伝えて録音しておくか、メールやライン、文書などで合意していない旨を相手に伝え、その証拠を手元に置いておくとよいだろう。

 ラインの場合はスマホのトラブルで消えてしまう可能性があるので画面の画像も必ず残しておこう。文面は、不利益変更の内容とそれに自分は合意していないことが分かれば何でも構わない。

 そのうえで、末尾で紹介しているような「労働者側」の専門家のいる相談窓口に相談してもらいたい。会社に対し、権利を主張することは少し勇気がいることだが、専門家は法律の知識も会社と争った経験も豊かだから、話を聞けば、はじめてでも安心して権利を行使できるはずだ

 参考:ブラック企業に入ってしまったとき、どこに相談すればいいか?

 なお、企業側には就業規則へ変更し、労働条件を引き下げるという手段もある(就業規則の不利益変更)が、その場合にも、変更の内容が合理的で、適切な手続きを経ている必要があり、決して「自由にできる」わけではない。

 就業規則の不利益変更の場合にも、やはり外部の専門家に相談をすることが重要だということだ。

無料労働相談窓口

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*筆者が代表を務めるNPO法人。訓練を受けたスタッフが法律や専門機関の「使い方」をサポートします。

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*仙台圏で活動する「労働側」の専門的弁護士の団体です。

NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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