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コロナ閉店で東京から愛知への配転命令? 学生の「ブラックバイト」深刻化の実態

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
写真はイメージです。(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

 新型コロナウイルス感染拡大の影響による就労先の休業で、アルバイト収入を立たれた学生の生活困窮が広がっている。緊急事態宣言が解除された後も、以前のようにシフトを入れてもらえず、生活を立て直すことができない場合も少なくない。

 そもそも、会社の都合で働くことができない場合(新型コロナを理由としたものも含む)、労働者には休業補償を求める権利がある。民法上では休業中の賃金を全額請求でき、労働基準法上では休業手当として平均賃金の60%以上を請求できる。

 しかし、アルバイトや派遣などの非正規雇用に対しては休業補償が行われていないことが多い。その上、学生の場合には「遊ぶ金なら出さない」という「口実」が加わってくることもある。

 個人加盟ユニオン「首都圏青年ユニオン」に加入したアルバイト学生が居酒屋チェーンに対し、休業手当支払いを求めて団体交渉をした際、会社幹部は「当社での勤務が生活の基盤になっている人なら手当を出すが遊ぶ金なら出さない」などと発言したのだという。

 「遊び金なら出さない」 学生バイトに休業補償なし 東京新聞

 この発言は、実態とはかけ離れていると言わざるを得ない。高等教育の無償化に取り組む学生団体の「高等教育無償化プロジェクトFREE」が行ったネット調査「新型コロナ感染拡大の学生生活への影響調査」では、アンケートに回答した学生のうち、「退学を検討」している学生は20.3%と、およそ5人に1人にも上っている。

 また、全国大学生協連の調査では、家族からの仕送りが「ゼロ円〜5万円未満」の学生の割合が、1995年の7.3%から2019年には23.4%にまで上昇している。その結果、学費や生活費を稼ぐためにアルバイトをしなければならない学生が増えているのだ。

 今回は、学費や生活費を支払うために休業補償などを求め、私たちが連携する労働組合「ブラックバイトユニオン」に加入して会社に団体交渉を申し入れた学生の事例を紹介したい。

不十分な休業補償と東京から愛知への配転命令

 この度、団体交渉を申し入れたのは、主に愛知県で展開するコーヒーチェーン店「支留比亜珈琲」の都内の店舗で働いていた大学生Aさんと高校生Bさんの2人だ。

 2人がアルバイトをしている理由は、学費や生活費などを稼ぐ必要があったからだ。大学生Aさんは私立大学の薬学部に通っているため、6年間の学費や交通費の一部をアルバイト代で支払っていた。さらに、薬剤師の国家試験対策のための予備校に通う学費も追加で必要だった。

 高校生Bさんは、現在3年生で大学受験を控えている。オンラインの受験対策サービスや参考書については親からの援助が期待できず、アルバイト代で賄っている。

 こうした事情もあり、2人は「支留比亜珈琲」で働いていた。しかし、新型コロナの影響で4月から休業を余儀なくされ、収入が激減した。大学生Aさんには労基法で義務付けられている平均賃金の6割と思われる金額が支給されているが、高校生Bさんには一切の補償がなされていない。

 しかも、緊急事態宣言が解除された後の6月2日には、翌日付の店舗閉鎖が突然通告された。働いていたのは関東圏で唯一の店舗であったため、他店舗に移ることもできない。

 だが、会社からは驚くべき指示が送られてきたという。なんと大学生Aさんには都内から愛知県の店舗への異動を要請してきたのである。愛知県の店舗で働く際の労働条件明示書まで送られてきた。この条件を飲めないなら退職届を提出するよう求めてきている。

 日本では会社に広範な指揮命令権が認められ、正社員には全国規模の転勤命令が行われてきた。それ自体は、終身雇用や年功賃金といった雇用保障と引き換えに甘受すべきものとされてきた。

 他方で、契約で勤務地が限定されている非正規雇用に全国配転を命じるのは難しい。まして、学生である。コロナの影響で授業がオンラインとなっており、通学する必要がないとはいえ、あまりに非現実的な命令だろう。

 むしろ、無理な命令を出しておいて、従わなかったことをもって、解雇ではなく自己都合退職に持ち込みたかったのではないかと思われる。解雇する場合には、労働者に対して30日前に予告するか、30日分の賃金を解雇予告手当として支払わなければならない。よほど解雇予告手当を払いたくなかったのではないだろうか。

また、Bさんについては、昨年度末のテスト期間の際に無理やりシフトを入れられ、テスト勉強ができず留年する危険性があったのだという(コロナの流行でテストがなくなり、何とか進級はできた)。まさに、「学生であることを尊重しないアルバイト」であるブラックバイトの定義そのものだ。

 この点についても、今後学生に対してテスト前にシフトを強要しないことを求めている。しかし、会社は学生がテスト前だからと言って特別扱いはしないとし、不当性を認めていないという。

「労働者としての権利」と「教育を受ける権利」を求めよう!

 こうした経緯もあり、2人はブラックバイトユニオンに加入し、4・5月の休業補償として賃金全額と、解雇予告手当の支払いなどを会社に求めている。これらが支払われなければ、教育を受けられなくなる危険性があるからだ。

 ユニオン(労働組合)には、労働問題を解決する上で強力な権利が認められている。ユニオンによる団体交渉申し入れを会社は断ることができず(団体交渉応諾義務)、交渉に誠実に対応する義務がある。また、誠実に対応しない会社に対しては、会社前で抗議行動を行ったり、メディアを通じた宣伝で問題を社会的に発信することもできる。

 アルバイト先の休業やシフト削減などで学費や生活費に困っている学生は、ぜひ専門の機関に相談してほしい。

 今回紹介したブラックバイトユニオンでは、8月2日に学生アルバイトを対象とするホットラインを開設する。また、末尾に相談窓口も記しておくので、参考にしてほしい。

学生アルバイト・休業補償ホットライン

日時:8月2日(日)13:00〜17:00

電話番号:0120-333-774(通話無料・相談無料・秘密厳守)

主催:ブラックバイトユニオン

 

【無料相談窓口】

NPO法人POSSE 

03-6699-9359

soudan@npoposse.jp

*筆者が代表を務めるNPO法人。訓練を受けたスタッフが法律や専門機関の「使い方」をサポートします。

ブラックバイトユニオン

TEL:03-6804-7245 (日曜日、13時から17時まで)

Mail:info@blackarbeit-union.com(24時間受け付けています)

*学生たちが作っている労働組合です。

仙台学生バイトユニオン

TEL:022-796-3894(平日17時~21時、土日祝13時~17時、水曜日定休)

Mail:sendai@sougou-u.jp

*仙台圏の学生たちが作っている労働組合です。

総合サポートユニオン 

03-6804-7650

info@sougou-u.jp

*個別の労働事件に対応している労働組合。労働組合法上の権利を用いることで紛争解決に当たっています。

NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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