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誰がもらえるの? 学生への給付金について解説 自宅生や新入生でも申請可能

今野晴貴NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
写真は大学のイメージです。(写真:アフロ)

 政府は、5月19日、新型コロナウイルスの感染拡大による休業の影響でアルバイト収入が減少した学生への支援策として「学生支援緊急給付金」を給付することを閣議決定した。住民税非課税世帯の学生には20万円、それ以外の場合には10万円が支給される。

 支給を受けるためには、一定の要件を満たす必要がある。文部科学省は、「申請の手引き」を公表し、支給対象者の要件(基準)を示しているが、やや複雑で曖昧なものとなっており、一見しただけでは分かりにくい。

 後で詳しく解説するように、この要件は目安に過ぎず、支給対象になるか否かの最終的な判断は学校が行うことになる。インターネット上の情報などを少し見ただけで自分が対象にならないと思い込まず、よく確認するように注意していただきたい。

 問合せが多くあったためか、文科省は5月22日にQ&Aを公表し、補足的な説明を行っている。これらを踏まえ、情報を整理していきたい。

【参考】「学びの継続」のための『学生支援緊急給付金』申請の手引き(学生・生徒用)

【参考】「学びの継続」のための『学生支援緊急給付金』に関するQ&A (令和2年5月22日公表)

申請方法は?

 学生支援緊急給付金(以下「給付金」とする。)の支給を希望する学生は、自分の通う学校に申請を行う。学校は、学生が要件に合致するかを審査し、推薦リストを日本学生支援機構に提出する。これを受けて、審査を通過した学生の銀行口座に同機構から給付金が振り込まれるというのが支給手続の流れだ。

 文科省は、給付金の申請をLINEでできる仕組みを整備し、学校によっては、早ければ25日にも申請が可能となる見込みだ。LINEでの申請に対応しているか否かは各学校に問い合わせてほしい。

 もちろん郵送でも申請することができる。申請書の様式は、文科省のホームページでダウンロードできる。

【参考】文部科学省ホームページ「学生の皆様向けページ(「学びの継続」のための『学生支援緊急給付金』 ~ 学びの継続給付金 ~)」

支給対象者の要件は?

 給付金の支給対象になるのは、国内の大学(大学院含む)、短大、高専(第4学年、第5学年及び専攻科に限る)、専門学校及び日本語教育機関の学生のうち、家庭から自立してアルバイト収入により学費などを賄い、新型コロナの影響によってその収入が大幅に減少し、修学の継続が困難になっている方である。

 文科省が公表している資料から、支給対象者の主な要件を整理すると、次のとおりとなる。

  • (1)家庭からの仕送り額が年間150万円未満(授業料を含む)である
  • (2)原則として自宅外で生活している
  • (3)生活費・学費に占めるアルバイト収入の割合が高い
  • (4)家庭(両親のどちらか)の収入減少等により、家庭からの追加的支援が期待できない
  • (5)新型コロナの影響でアルバイト収入が大幅に減少している(前月比で50%以上減少)
  • (6)既存の支援制度を活用している(留学生を除く) ※ 詳細は後述

 重要なのは、これらの要件は絶対的なものではないということだ。文科省の『Q&A』には「こうした要件を考慮した上で、経済的理由により大学等での修学の継続が困難であると大学等が必要性を認める者は対象とすることにしており、最終的には大学等が学生等の自己申告状況に基づき総合的に判断を行う」(太字強調:引用者)とある。

 あくまでも判断を行うのは大学などの教育機関であり、ここで挙げた項目は「要件」というよりも「目安」だと理解していただきたい。学校の判断次第では、一部の要件を満たしていなくても支給対象となる可能性があるため、困っている場合には、この要件だけを見て諦めずに、通っている学校に実情を説明して申請するようにしてほしい。

 こうした対応を補強するように、『Q&A』には、「実際の審査に際しては、学生等へのヒアリングなどを通じ、大学側が学生等の実情に寄り添った形で総合的に判断して頂ければと考えています」とも記載されている。

 そのほかにも、『Q&A』には、要件の「例外」がはばひろく認められることが示されている。

 例えば、「(2)原則として自宅外で生活している」について、『Q&A』には「自宅生についても、経済的に家庭から自立している学生等は対象とする」と明記されている。自宅生でも、家庭から学費等の援助を受けていない場合は、その旨を大学に申告すれば対象となり得る。

 また、「(5)新型コロナの影響でアルバイト収入が大幅に減少している」について、今年入学した学生の場合、「アルバイトを予定しており、得られるはずであった収入が得られなかった場合は対象となります」と明記されている。

 他方で、学校が最終的な判断を行うということは、これらの要件を満たしている場合でも、支給の対象とならない可能性があることを意味する。各学校には推薦枠が設定されており、推薦枠以上の申請があった場合には、各学校が総合的な判断によって推薦者を決定することになる。審査の結果が出るまで支給は確定しないということだ。

修学支援新制度とは?

 学生にとって最も分かりにくいのは「(6)既存の支援制度を活用している」の要件であろう。

 給付金の申請に当たっては、原則として、何らかの既存の支援制度を活用していることが要件となっている(現在利用していない場合でも、申請予定であればよい)。既存の支援制度とは、「高等教育の修学支援新制度」、日本学生支援機構の第一種奨学金(無利子の貸与型奨学金)、民間等の支援制度の3つである。

 まず、「高等教育の修学支援新制度」について説明しよう。これは、今年4月からスタートした国の制度で、世帯収入など一定の要件を満たす学生を対象に、授業料等の減免と給付型奨学金の支給を行うものだ。

 世帯収入によって3つの支援区分(住民税非課税世帯〔第1区分〕、それに準ずる世帯〔第2区分、第3区分〕)が設けられており、区分に応じて受けられる支援額にも差が設けられている。

 政府は、新型コロナの感染拡大を受けて、この制度の運用を拡充し、利用を推奨している。通常、前年度の課税標準額により審査が行われるが、新型コロナの影響で家計が急変した場合には、家計急変後の収入見込みによって審査されるようにしているのだ(詳細については次のリンク先の資料をご確認いただきたい。)。

【参考】文部科学省「新型コロナウイルス感染症に係る影響を受けた学生等に対する経済的支援等について(依頼)」

 学生本人の収入だけではなく、家計維持者と学生の収入見込みの合計によって要件を満たすかどうかが判断される。新型コロナの影響により親の収入が減少しているような場合には利用できる可能性があるため、積極的に申請を検討してほしい。日本学生支援機構の進学資金シミュレーターにより、自分が対象となるかどうかを大まかに確認することができる。

【参考】進学資金シミュレーター(日本学生支援機構ホームページ)

 話を給付金に戻そう。支給を希望する学生は、まず、修学支援新制度の対象となるかどうかを確認し、対象となる場合には申請しなければならない(大学院生などはこの制度の対象となっていないため、申請する必要はない)。

 新制度の対象とならない場合でも、日本学生支援機構の第一種奨学金を限度額まで利用することが、給付金を受けるための要件となっている。さらに、要件を満たさないために第一種奨学金も利用できない場合には、民間等を含め申請が可能な支援制度を利用する必要がある。

 「申請の手引き」には、既存の支援制度に申請を行い、仮に採用に至らなかった場合でも、給付金を返金する必要はない旨が明記されている。このため、既存の支援制度の利用要件を満たしているか分からない場合には、ひとまずは申請を出してみて、併せて給付金の申請も行うとよいだろう。

【参考】文部科学省「新型コロナウイルス感染症に係る影響を受けた学生等に対する経済的支援等について(依頼)」

留学生の支給要件は?

 留学生については、上記の項目((6)を除く)の他に、次の要件を満たす必要がある(今回は詳しく触れないが、留学生に異なる要件を設けていることには多くの批判がある)。

  • (1)学業成績が優秀な者であること。具体的には、前年度の成績評価係数が2.30以上であること
  • (2)1か月の出席率が8割以上であること
  • (3)仕送りが平均月額 90,000円以下であること(入学料・授業料等は含まない。)
  • (4)在日している扶養者の年収が500 万円未満であること

 これについても、『Q&A』において、次のような補足説明がなされている。

 「これらの要件を考慮した上で、大学等が特に必要と認める者は対象とすることにしており、留学生も含め、最終的には、一番身近で学生等を見ている大学等において、その実情に沿って総合的に判断していただきます。このため、成績上位3割のみを対象とするものではありません」。

 一部の要件を満たしていない場合でも支給される可能性があるため、諦めずに申請することをお勧めしたい。

アルバイト先に休業手当を求めよう

 給付金が支給されても、高額な学費を支払い、生活を維持していくためには十分でないという学生も多いと思われる。そんな状況でも、諦めて退学を選択する前に支援団体などに相談していただきたい。

 特に知っていただきたいのは、アルバイト先に対して休業手当の支払いを求めることができるということだ。学生支援緊急給付金を受け取ったからといって、雇用主から休業手当を受け取る権利には何の影響も生じない。アルバイト先から「10万円もらったんだから、もういいでしょ」と言われても、納得する必要はない。

 休業手当の不払いは学生に限らず問題になっている。特に非正規雇用の方には休業補償がなされないという事例が多いのだが、学生の場合はそれ以上に雇用主の意識が低く、支払われないことが多い。しかし、学生アルバイトだからといって休業手当を支払わなくてよいという法的根拠はない。

 休業手当の支払いを求めることは、「法的に正当な行為」であり、逆に請求しないことは「法的権利の放棄」に当たる。しかも、今回のコロナ禍に関しては、国が休業手当を払う事業主を全面的に支援しているため、事業主側の負担も少ない。学生自身が請求しなければ、国の救済制度を受けることができなくなってしまう構図にあるのだ。

 事業主に対しては、新型コロナの感染拡大を受けた特例措置により、労働者が雇用保険に入っていない場合でも「緊急雇用安定助成金」(雇用保険被保険者ではない労働者を休業させた場合の助成金)の支給対象になる。しかも、申請手続が大幅に簡素化されており、特に小規模事業主の場合、厚労省が作成したマニュアルを見れば、比較的容易に申請ができるようになっている。

【参考】厚生労働省「緊急雇用安定助成金支給申請マニュアル」

 休業期間の補償がない場合や、あっても不十分な場合には、アルバイト先に対して、助成金を活用して休業手当を支払うよう求めていくとよいだろう。自分だけで話しても難しい場合には、個人で加入できる労働組合(ユニオン)に相談することが解決できる可能性がある。労働組合には団体交渉を行う権利が保障されているからだ。

 実際に、労働組合に加入して会社と交渉を行う学生が現れ始めている(下記の記事参照)。「学生アルバイトには休業手当が支払われなくて当たり前」という法的に不当な現実は、多くの若者が「当たり前の法的権利」を主張することで、変えていくことができるはずだ(末尾に相談窓口)。

【参考】「海外では当たり前ですよ」 若者が個別指導塾で団体交渉、ストライキも

【参考】学生の2割が「退学検討」の衝撃! 立ち上がり始めた学生アルバイトたち

【無料相談窓口】

NPO法人POSSE 

03-6699-9359

soudan@npoposse.jp

*筆者が代表を務めるNPO法人。訓練を受けたスタッフが法律や専門機関の「使い方」をサポートします。

ブラックバイトユニオン

TEL:03-6804-7245 (日曜日、13時から17時まで)

Mail:info@blackarbeit-union.com(24時間受け付けています)

*学生たちが作っている労働組合です。

仙台学生バイトユニオン

TEL:022-796-3894(平日17時~21時、土日祝13時~17時、水曜日定休)

Mail:sendai@sougou-u.jp

*仙台圏の学生たちが作っている労働組合です。

総合サポートユニオン 

03-6804-7650

info@sougou-u.jp

*個別の労働事件に対応している労働組合。労働組合法上の権利を用いることで紛争解決に当たっています。

NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。

NPO法人「POSSE」代表。年間5000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。近著に『賃労働の系譜学 フォーディズムからデジタル封建制へ』(青土社)。その他に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。流行語大賞トップ10(「ブラック企業」)、大佛次郎論壇賞、日本労働社会学会奨励賞などを受賞。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。専門社会調査士。

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