学生の2割が「退学検討」の衝撃! 立ち上がり始めた学生アルバイトたち
先日、高等教育の無償化に取り組む学生団体の「高等教育無償化プロジェクトFREE」が行ったネット調査「新型コロナ感染拡大の学生生活への影響調査」が公表され、大きな衝撃を与えている。
その調査によると119の大学、短大、専門学校等の514人のアンケートに回答した学生のうち、「退学を検討」している学生は20.3%、およそ5人に1人に上った。「自分のアルバイト収入がなくなった。父親の店は経営難、契約社員の母は減収。大学をやめることにした」など、すでに2人は「やめることにした」と回答している。
新型コロナの影響で、学生生活を維持することできなくなってしまう学生が増大している。そのなかで、この状況を変えようと学生みずからが立ち上がりはじめた。
労働組合・ブラックバイトユニオンの取り組みを紹介しながら、大学生たちが学業を諦めないための「具体的な方策」を考えていきたい。
立ち上がった学生アルバイト
都内の大学2年生で派遣のアルバイトをしていたAさん、彼の家庭は母子家庭だ。母親は中小企業の事務職で働いているが、生活は決して楽ではない。Aさんは自らの生活費だけではなく家計を支えるために、授業のない日に単発派遣のアルバイトをしながら大学生活を送っていた。
大学が春休みに入る3月、Aさんは10日ほど単発の派遣をいれ、10万円ほどを稼ぐ予定であったという。しかし、新型コロナの影響で次々と仕事がキャンセルになっていった。派遣会社からは電話一本でキャンセルが告げられるだけで、休業手当などについての説明は全くなかった。
仕事が次々となくなり、そのうえコロナ禍がいつ収束するかも不透明な状況にAさんはとても不安になった。自分が働くことができなければ大学に通うことはおろか、生活を維持することもできなくなるからだ。
だがAさんは「派遣という立場の弱い自分の声に耳を傾けてもらえるのか」と悩み、行動に移せずにいた。周囲の大人に相談しても「あきらめるしかない」と言われるだけ。友人たちもコロナの影響でアルバイトがなくなっていたが、休業補償がされず、「学生だからしかたがない」と諦めていた。
「このままでは大学に通えなくなる」。そんな危機感から、Aさんはネット検索でみつけた「ブラックバイトユニオン」に相談した。ユニオンのスタッフからは「会社に休業手当を請求することができる」と説明を受け、「生活のためには、ここで声をあげるしかない」と決意した。ユニオンに参加して行動することに迷いはなかった。
Aさんは4月末に休業補償を求めて会社に申し入れを行なった。今後、ブラックバイトユニオンをつうじて団体交渉を行なっていくことになる。
申し入れを終えたAさんは「一人だと心細かったが、ユニオンの人たちが一緒に闘ってくれて本当に心強い。学生でも生活が苦しい人が多いと思うが、あきらめずに声を上げてほしい。ぼくの闘いが、学生や派遣という立場の弱い人でも声をあげていくきっかけになれば嬉しい」と話す。
学生の権利を守るために行動するブラックバイトユニオン
Aさんを支援するブラックバイトユニオンの荻田航太郎(大学院生)さんは、「学生だからという理由で休業手当が不当に支払われず、生活困窮に追い込まれるという相談が増えている」と指摘する。
休業中の取り扱いについて、改めて学生アルバイトがもつ権利を確認しておこう。
民法536条2項により、使用者の「責めに帰すべき事由」(故意・過失またはこれと同視すべき事由)がある休業の場合、労働者は休業中の賃金を全額請求できる。労働者に何の落ち度もないのに雇用主側の都合で働くことができなかったということであれば、労働者は賃金を請求する権利を失わないということだ。
新型コロナに関連する休業の場合、雇用主にそこまで責任が認められないということもあるだろう。このようなときは賃金全額を請求することが難しいケースもあるが、そのような場合でも、労働基準法26条に基づき、休業手当(平均賃金の60%以上)の支払いを求めることができる。
雇用主が休業手当の支払義務を免れるのは、かなり限定的なケースだけだ(天変事変など不可抗力による場合のみ)。さらに、仮に企業が休業補償を免れるケースでも、休業手当を支払えば、国が雇用調整助成金で補助してくれる(もちろん、支払い義務がある場合でも助成される)。
また、特措法に基づく休業要請を受けていて、解雇等をしていない場合、中小企業であれば補助率は100%に上る(上限額はあるものの学生の場合、多くは全額が補助されるだろう)。
つまり、多くの場合、学生に休業手当を支払ったとしても、企業側に負担はないのである。政府の新型コロナ対策は、この「雇用調整助成金」が中心になっているため、この制度を企業が使わないことは、働く人たちの権利侵害に当たるといっても過言ではない。
ブラックバイトユニオンには「学生だから」という理由で、こうした権利を不当に侵害している相談が相次いでおり、荻田さんは「新型コロナに便乗した企業による不当な権利侵害のせいで、学生生活を諦めるということがあってはならない」という思いから、学生アルバイトの権利行使を支えるために活動している。
参考:政府の助成金を使って「コロナ解雇」を回避してほしい 声を上げ始めた労働者たち
参考:休業手当は給与の「半額以下」 額を引き上げるための「実践的」な知識とは?
なお、ブラックバイトユニオンに加え、首都圏学生ユニオンでも新型コロナの影響を受けた学生の相談を呼びかけている。
また、「ブラックバイト」の名付け親である中京大学の大内教授も、政策を動かすために自身のTwitterで「アルバイトの減少や収入の減少によって、学費の支払いが困難になっている学生、奨学金返済に困っている方」の声を集めている。
学生みずから声をあげ「政策要求」する
今回のコロナ危機で、学生がこれだけ厳しい状況にあるのには、近年の社会構造の変化がある。
「この20年間親世代の所得は低下し続けているにもかかわらず、学費は値上がりし続け、奨学金制度は基本的に借金で使いづらい。こうした構造がブラックバイトの背景にあり、新型コロナの影響による退学を防ぐためには、これを変えていく必要がある」と荻田さんは指摘する。
ブラックバイトユニオンは今後、企業に対して休業手当を求めていくだけではなく、困窮しても大学に通い続けられるよう、学費の減免措置などを政府に申し入れることも検討しているという。
「現在は大学ごとに学生支援策を行なっていますが、通っている大学が違うだけで対応が異なるのはおかしい。学費の減免や給付などは、国が責任をもって対応すべきだ」と強調する。
また、学生とはいえ、みずからの生計を成り立たせるために働いている人は少なくないことから、家賃相当額を給付する「住居確保給付金」を学生も利用しやすくするなど、学生の生活を支えるための政策を要求していく予定だという。
「学生みずから声をあげ要求していかなければこの状況は変わらない。困っている学生は、ブラックバイトユニオンに連絡してもらいたい。一緒にこの状況を変えるために行動していきたい」と荻田さんは呼びかけている。
おわりに
新型コロナは多くの学生に深刻な影響を与えている。だがアルバイトが休業状態に陥り苦境に陥っている学生は、決してあきらめないでほしい。ブラックバイトユニオンをはじめ、この状況を変えていくために行動している人たちはいる。相談することで新たな選択肢がみえてくることもあるだろう。
学生が声をあげていくことによって学生たちの現実が可視化され、政治を動かしていくことにつながっていくはずだ。筆者もこうした学生たちの取り組みを応援していきたいと思う。
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