プログラマーの裁量労働制は違法! システムエンジニアの裁量労働制が違法になったケースも

「プログラマー」には裁量労働制が適用できない

 先日、「裁量労働制」について以下の記事を書いたところ、思わぬ反響があった。

トヨタの「裁量労働制」は違法か?違法な裁量労働制を見極めるポイント

 この記事は、「トヨタが裁量労働制を拡大した」という記事の誤りを指摘しつつ、裁量労働制がどのような場合に違法になるかを解説したものだ。意外な注目を集めたのは、次の一文である。

 「IT企業で働いていても、プログラマーには裁量労働制は適用されない」

 もしプログラマーなのに裁量労働制を「適用」されているのなら違法であり、残業代を請求することができる。この事実に対して、ネットで以下のような内容の反響が多数あり、NPO法人POSSEに労働相談も寄せられた。

「プログラマーだけどシステムエンジニアの業務もさせられている場合はどうなるのか」

「自分は裁量労働制でプログラミングもしてるけど、システムエンジニアとして雇われている」

「プログラマーの定義が古いのでは。コーダーのことじゃないか?」

 IT技術者においては、「システムエンジニア」がユーザーの要件を定義して設計書を書き、「プログラマー」がその設計書をもとにプログラムを設計してコードを書くということが、伝統的な理解だろう。一方で、会社によってはシステムエンジニアがプログラマーの業務を担ったり、プログラマーが設計書を書くこともあり、設計書を書かないプログラマーを「コーダー」と区別することもある。

 ここで注意すべきことは、労働法上の違法・合法は、社内の肩書きや書類の形式ではなく、業務の「実態」で判断されるということだ。

 

 そこで本記事では、業務の「実態」がどのような場合に、システムエンジニア・プログラマーの裁量労働制が違法になるのかを、厚労省の定義や、具体的な裁判・行政の判断から説明したい。

厚労省の定義では、「プログラムの設計・作成」が違法

 ここで、改めて裁量労働制について説明しよう。

 裁量労働制が労働者に適用されると、1日あたりの「みなし労働時間」を定めることで、実際に働いた労働時間にかかわらず、「みなし労働時間」の分だけ働いたものとすることができる。1日1時間しか勤務していなくとも、みなし労働時間が8時間なら、毎日8時間分の賃金が支払われる。労働者が、会社の決めた労働時間に縛られず、自分で自由に労働時間を決めることのできる働き方だとされている。

 一方で、悪用のリスクも高い。みなし労働時間を超えて何時間で働いても、追加で残業代を支払わずに働かせることが可能になってしまうからだ。そのため、裁量労働制が認められるのは、「業務の遂行方法が大幅に労働者の裁量に委ねられる業務」であるとされ、専門業務型裁量労働制では19業務に限定されている。それ以外の業務に従事する労働者に適用することは、それだけで違法なのだ。

 では、システムエンジニアやプログラマーの裁量労働制の対象業務に関して、厚労省はどう説明しているのか。労働基準法施行規則第24条の2の2第2項と、それに関する通達で次のように定めている。

「情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であってプログラムの設計の基本となるものをいう。)の分析又は設計の業務」

「「情報処理システム」とは、情報の整理、加工、蓄積、検索等の処理を目的として、コンピュータのハードウェア、ソフトウェア、通信ネットワーク、データを処理するプログラム等が構成要素として組み合わされた体系をいうものであること。」

「「情報処理システムの分析又は設計の業務」とは、(1)ニーズの把握、ユーザーの業務分析等に基づいた最適な業務処理方法の決定及びその方法に適合する機種の選定、(2)入出力設計、処理手順の設計等アプリケーション・システムの設計、機械構成の細部の決定、ソフトウェアの決定等、(3)システム稼働後のシステムの評価、問題点の発見、その解決のための改善等の業務をいうものであること。プログラムの設計又は作成を行うプログラマーは含まれないものであること。」

 「プログラムの設計又は作成」を行うプログラマーは含まれないと明記されている。プログラミング業務と言い換えても良いだろう。では、「情報処理システムの分析・設計」とプログラミング業務の両方をやっている場合はどうなるのだろうか。そこで、次にまさにそのことが問題となった裁判例を見てみよう。

システムエンジニアの裁量労働が違法とされた裁判例

 紹介するのは、裁量労働制が無効となり、IT技術者に560万円の残業代支払いが命じられた事件の判決である。なお、判決文では会社が「原告」、労働者が「被告B」、元請けの会社が「C社」となっている。ややこしいが、退職した労働者に会社が損害賠償請求訴訟を先に仕掛けてきたという異様な経緯(判決では逆に会社が損害賠償の支払いを命じられている)からだ。

 まず、裁判所は同社と当該労働者の業務実態について、次のように認めている。

「原告においては、システムエンジニアとプログラマの区分はなく、各技術者が、システム設計・分析とプログラミング両方を担当していた。被告Bについていうと、C社からのヒヤリング作業、C社のニーズの分析とカスタマイズ作業の提案、システムの分析、設計のほか、プログラミング作業にも従事していた。」

 この会社では、システムエンジニアとプログラマーの業務が分けられず、具体的な業務からしても、裁量労働制の対象業務とそうでないものが混在していたと認定されている。また裁判所は、「被告Bにおいては、C社からの発注を受けて、カスタマイズ業務を中心に職務をしていたということはできる」として、当該労働者が裁量労働制の対象業務を「中心」にしていたことも認めている。

 それにもかかわらず、裁判所は労働者が行っていた「プログラミング」業務に注目した。会社は「プログラミング業務はシステムエンジニアが行うことは一般的」と主張したが、裁判所は判決で次のように述べたのである。

「プログラミング作業については、ノルマがあり…(略)…被告Bについては、C社の窓口担当業務も行っていたため、ノルマは1か月あたり24万6000円から45万5000円分に設定されていた。」「被告Bに対し専門業務型裁量労働制に含まれないプログラミング業務につき未達が生じるほどのノルマを課していたことは…(略)…明らかである。」

 判決は、厳しいノルマがあるプログラミング業務を任されていたことを認めている。加えて、企業への営業業務を行っていたことも確認された。もちろん、営業も裁量労働制の対象業務ではない。

 結果として、当該労働者は裁量労働制の対象業務を中心に行っていたとされながらも、裁判所は上記の業務内容を理由に、業務全体として「「情報処理システムの分析又は設計の業務」ということができず、専門業務型裁量労働制の要件を満たしていると認めることはできない」として、残業代の支払いを命じたのである。

納期の厳しい下請け、参加不可欠な打ち合わせ会議、チームでの労働時間管理でもアウト

 では、システムエンジニアでも、プログラミングや営業のような対象外業務を一切させられていなければ、裁量労働制は適用されるのだろうか。そうとは限らない。裁量労働制の対象業務は、「業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務」とされている。つまり、裁量労働制の対象業務だけをしていたとしても、その遂行方法に裁量がなければ、違法・無効と判断されるのである。

 実は、上記の判決では、裁量労働制を無効とする根拠として、もう一つの理由を挙げている。対象外業務だけでなく、業務の「遂行方法」についても言及していたのだ。

 上記の判決は、「本来プログラムの分析又は設計業務について裁量労働制が許容されるのは、システム設計というものが、システム全体を設計する技術者にとって、どこから手をつけ、どのように進行させるのかにつき裁量性が認められるからであると解される」と裁量労働制が認められる原則を整理した上で、続けて次のように述べている。

「しかるに、C社は、下請である原告に対しシステム設計の一部しか発注していないのであり、しかもその業務につきかなりタイトな納期を設定していたことからすると、下請にて業務に従事する者にとっては、裁量労働制が適用されるべき業務遂行の裁量性はかなりなくなっていたということができる。」

 これを読む限り、システムエンジニアであっても、下請けであるために「システム設計の一部」しか業務をできないこと、そしてそれが「かなりタイトな納期」があったことを理由として、裁量労働制が無効になると考えられる。

 つまり、この判決を活用すれば、IT業界の下請け構造の下では裁量がないとして、広い範囲で裁量労働制が無効になる可能性があるのである。

 もう一つ事例をあげよう。システム開発を担当し、専門型裁量労働制を適用されていた男性が、月120時間の長時間労働をさせられ、精神疾患に罹患した事件の労災審査請求事件である。裁量労働制が無効であるとして、労災支給において残業代を休業補償給付の給付金額算定に含むことを求めたものだ。

 当時の報道によると、「男性の業務は、プロジェクトチームとしてチーフの管理下で(労働)時間配分が行われており、男性の裁量で労働していたとは認められない」と判断されたという。また、管理者による進行管理、作業内容の具体的指示、参加が不可欠な打ち合わせ会議などからも、裁量労働制が無効と判断されている。

 こうしてみると、現状のシステムエンジニア・プログラマー業務においては、かなりの割合で裁量労働制が無効となる可能性が高いことがわかる。それほどに、裁量労働制は厳しい制度なのだ。

 賃金債権は2年分が認められるため、退職時にまとめて請求することもできる。長時間労働や未払い残業に困っている裁量労働制のIT労働者がいれば、ぜひ専門家に相談してほしい。 

※本稿で紹介した事例は、塩見卓也「裁量労働制」『労働法律旬報』(2013年6月上旬号)を参照した。

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