Yahoo!ニュース

1年に1度あるかないかのプレーを4度決められるという屈辱。来季の阪神の見所の1つは1、3塁での攻防

小中翔太スポーツライター/算数好きの野球少年

1、3塁。

点差、アウトカウント、イニングにもよるが攻撃パターンが最も豊富な場面だ。何とか打球を前に飛ばしさえすれば外野フライでも併殺打でも最低は1点は見込まれる場面であり、1、3塁からの得点期待値は無死の時が1.721点、1死の時が1.158点。2死の時はさすがに0.487点にまで落ちるがヒット、エラー、バッテリーミスの何が起きても1点入る場面であることに変わりない。さらに言えば打球を前に飛ばさなくても得点することが可能だ。1塁走者が盗塁を試み2塁送球の間に3塁走者が本塁を狙う重盗や、投手が左投げの時に死角となる3塁走者が先にスタートを切りその後に1塁走者がこけたフリなどをして牽制を誘うフォースボークなど。実際、今季の阪神は広島戦においてこの1、3塁の場面から機動力のみで3点を献上している。

1度目は5月10日、2-1で広島が1点リードする5回表、2死1、3塁から一走・丸がスタートを切ると藤井は二塁へ送球。その送球が投手カット出来ない高さだと見ると三走・田中が本塁突入。二塁塁審の両手が横に広がる間に生還を果たした。

2度目は9月2日、1-0で阪神リードの4回表、2死1、3塁から岩田が1塁にやや高い牽制球を投げると3走・新井が本塁へ走りゴメスからの送球がワンバウンドになったこともあり試合を振り出しに戻した。

3度目は9月13日、広島が1点リードの6回表、2死1、3塁から1走・エルドレッドがスタートを切り、鶴岡は投手カット出来る低い送球を投げたがマウンドにいた高宮は送球をよけてしまい、3走・菊池は悠々本塁に到達した。

1度目は一般的な重盗で、2度目は牽制のスキを突かれ、3度目は警戒している中でのまさかのミス。実はこれ以外にもあった。オープン戦最終カードのオリックス戦でも同じパターンで失点している。開幕を1週間後に控えた3月20日、1-0と1点リードするオリックスは4回に2死1、3のチャンスを作ると1走・坂口がスタート。梅野の送球が誰もいない2塁ベースを通過し外野へと転がると、1、2塁間の中間付近で止まってわざと挟まれようとしていた坂口はこれを見て再スタート、3走・T-岡田ももちろん難なく生還。誰の目にも明らかなサインミス。オープン戦は若手のアピールと主力の調整の場だが、例年最後のカードはベストオーダーで戦う。実際この時グラウンドにいたのは、梅野、鳥谷、上本。開幕スタメンに名を連ねるメンバーだった。

今季の阪神はポレダ、マイコラス、ジョンソン、大野ら同じ投手に何度も白星を献上したが、その陰で1年に1度あるかないかのプレーを4度決められるという屈辱も味わった。逆に阪神が機動力を生かした見事な攻めを披露するという場面はほとんど無かった。

来季から指揮を執る金本がFAで広島から移籍した頃、阪神は中日と優勝争いを繰り広げていたが競り負けることが多かった。金本はその差を走塁の差にあると感じていたという。プロよりも差の大きい高校野球では特に顕著だが走塁の良いチームは相手の走塁に対する守備も上手い。良い走塁とやってはいけない走塁が体に染み付いているからだ。今季はスキを見せた阪神だが、深い野球知識を持つ高代コーチがヘッドコーチに昇格。機動力野球の伝統を叩き込んだ金本新監督とのコンビでどこまでチームの意識が変わるのか。強く振る、練習量の増加などの方針がクローズアップされがちだが、1、3塁の場面でどう攻めどう守るか。来季の阪神の注目ポイントだ。

スポーツライター/算数好きの野球少年

1988年1月19日大阪府生まれ、京都府宮津市育ち。大学野球連盟の学生委員や独立リーグのインターン、女子プロ野球の記録員を経験。野球専門誌「Baseball Times」にて阪神タイガースを担当し、スポーツナビや高校野球ドットコムにも寄稿する。セイバーメトリクスに興味津々。

小中翔太の最近の記事