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侍ジャパンU-18代表の豪華投手陣を捕手目線で分析する

小中翔太スポーツライター/算数好きの野球少年
林達也アシスタントコーチ。ブルペン捕手や打撃投手としてチームを支えた。

第27回WBSC U-18ベースボールワールドカップにて惜しくも世界一はならなかったが開幕から8連勝を飾るなど他国を圧倒した侍ジャパンU-18代表、その原動力となったのが9試合で5失点と抜群の安定感を誇った投手陣。甲子園決勝を戦った両エースに地方大会敗退ながらドラフト1位指名確実と言われている本格派右腕など豪華メンバーが揃い、ワールドクラスの強打者達を相手に奪三振ショーを披露した。そんな世界一と呼べる投手陣の球をブルペン捕手として受けた林達也アシスタントコーチに捕手目線でしかわからない各投手の特徴を聞いた。(名前の横にある一言は林アシスタントコーチから見た印象です)

佐藤世那(仙台育英)・・・安定の世那

「変幻自在、自分のピッチングを知ってる。ストレートももちろんだけど特にフォークが素晴らしい」メジャーリーガーの卵達をきりきり舞いさせた伝家の宝刀はスピードも落差も自在に操ることが出来るのだという。フォークを得意とする好投手は他にもいるが何種類も投げ分けられる投手はそういない。佐藤のフォークは鋭く落ちる、だけでなく自分自身の意思で自在に変化させることが可能。他人がマネ出来ない域にまで昇華させたウイニングショットを武器により高いレベルでの野球に挑む。

成田翔(秋田商)・・・キレの成田

「全てのボールがキレ、ハンパない」しかも左腕だからその威力は見た目以上。代表チーム招集直後、受けるのが1番怖かったのが成田だったという。特に自信を持っているのがスライダーでタテ、ヨコ2種類を投げ分け空振りが欲しい場面ではタテスラが猛威を振るった。女子人気も抜群で「翔(かける)君、翔(かける)君」という黄色い声援はチーム全員が何度も耳にした。残念ながら「林さ~ん」という声は無かったそうだ。

高橋樹也(花巻東)・・・のらりくらりの樹也

「気付いたら抑えてる。変化球のコントロールが良いから出し入れ出来る」マウンド上で吠えたり派手なガッツポーズをしたりということはほとんど無く、性格も基本的にはマイペース。どちらかと言えばグラウンド外でものんびりしているそうだが、上記の特徴があるため「リリーフで欠かせない、負けにくい投手」だという。今大会でもリリーフとして3試合に登板し無失点。先発投手の好投ばかりがクローズアップされるが、常にブルペンでスタンバイし投手陣を支えていた。

小笠原慎之介(東海大相模)・・・太ってきてる

「馬力が凄い。下半身から繰り出すボールは重い」甲子園優勝投手の球の威力にはもちろん特筆すべきものがあったが、それ以上に林アシスタントコーチを驚かせたのはチームが集合してすぐの試合中での振る舞い。マウンドに上がれば堂々としているが、まだチームによそよそしい雰囲気がある中、ベンチで最も声を出していたのが小笠原だった。「びっくりするぐらい天狗じゃない」らしく休みの日でもコンディションを怠らず体のケアの意識が高い。他には人懐っこい一面もあるという。ただし油断すれば太りやすいらしいので体重管理には注意を。

上野翔太郎(中京大中京)・・・安定感の上野

「頼りになる。ちゃんとコーナーに投げられるから国際大会に強い」先発したのは開幕試合のブラジル戦とアジアのライバル・韓国戦。絶対負けられない試合でスターターを任されたところに首脳陣からの高い信頼がうかがえる。ストレート、スライダーでストライクゾーンの隅を突き、シンカー気味に沈みながら逃げて行くツーシームは左打者に特に有効。ストイックな性格の持ち主でブルペンでは常に向上心を持ってピッチングを行い、登板前日の宿舎では誰よりも入念なケアを行っていた。

高橋純平(県岐阜商)・・・つかみどころがない

林アシスタントコーチが受ける機会はほとんどなく、他の投手に比べて情報は多くない。それでも「スピードはきっちり出ますし、スライダーもいい」と言わしめる球質はさすが。大会では左太ももを故障した影響から短いイニング数での起用となった。本人も「先発で尻上がりに上がってくるのが1イニングの中で上げることが出来ていない」ともどかしさを感じており中継ぎ、抑えよりも先発タイプか。どんな時でも冷静さを失わず、チーム全員で焼肉に舌鼓を打っている時でもはっちゃけることは無かった。故障が完治した後のフルパワーでの全力投球に期待。

森下暢仁(大分商)・・・不安が自信に変わった森下

代表選手20人の中で唯一、甲子園出場経験が無い。本人もそのことを気にしており侍ジャパン大学日本代表との壮行試合でも結果を残せず。ブルペンでも「球、行ってないですよね」と自信無さそうに聞いてくるなど、最初は常に不安がつきまとっていた。それでも開幕のブラジル戦でいきなり登板機会が訪れると1回を無失点。林アシスタントコーチの言葉をそのまま借りると「マウンド立ったらバシバシ」これで自信が芽生えようやくチームの輪に加わることが出来ると、その頃から表情も生き生きしてきたという。林アシスタントコーチに負けず劣らずの田舎っ子だが「ストレートいいボール来てたし、カットボールもいい」

勝俣翔貴(東海大菅生)・・・いじられの勝俣

クリーンアップの一角を担い、打率.556で首位打者に輝きチーム唯一の本塁打を放つなど打者としてチームを引っ張ったが登録は投手。大会での登板はなかったものの開幕前の強化試合ではマウンドに上がりきっちり結果を残していた。招集初日にブルペンで受けた感想は「コントロールがいい。ストレートはズシっと重いしスライダーもキレキレ。基本ストレートとスライダーのピッチャーで力強い球が来てた」投手としての印象はこれだが内面については「いいキャラしとる」というもの。チームでは勝俣と宇草孔基(常総学院)の2人がいじられ役で盛り上がっていたらしい。

優勝にはわずかに1点届かなかったが、U-18代表投手陣の成績は73イニングで被安打33、与四死球21、奪三振はなんと97個。誰が見ても間違いなく世界一豪華な投手陣だった。

スポーツライター/算数好きの野球少年

1988年1月19日大阪府生まれ、京都府宮津市育ち。大学野球連盟の学生委員や独立リーグのインターン、女子プロ野球の記録員を経験。野球専門誌「Baseball Times」にて阪神タイガースを担当し、スポーツナビや高校野球ドットコムにも寄稿する。セイバーメトリクスに興味津々。

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