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バスケW杯予選スタート。高さに加えてガード陣もクセ者揃いの中国の顔ぶれは?

小永吉陽子Basketball Writer
フロアリーダーの郭艾倫が中国代表に復帰(写真/FIBA.com)

今年1年だけで中国と4度も対戦

「FIBAワールドカップ2023」の出場権をかけたアジア地区予選が11月27日よりスタートする。約1年3か月かけて全大陸で6回の会期(Window1~6)に渡って行われる予選だ。本来ならばホーム&アウェーでの開催となるが、パンデミック下であるため対戦相手の中国では開催されず、11月27日と28日の2日間にわたり、仙台市のゼビオアリーナでバブル開催として行われることになった。

 日本は「FIBAワールドカップ2023」のホスト国(日本・フィリピン・インドネシア共催大会)として開催地枠を得ているが、この秋に指揮官に就任したトム・ホーバスヘッドコーチ(以下HC)のもと、アジア予選を通して新しいシステムを構築し、チームを強化していくことになる。

 中国とは今年6月の「FIBAアジアカップ予選」(本戦は2022年7月)でも対戦しており、戦績は2戦2敗(57-66、84-90)。なんと今年は1年で4度も中国と対戦することになった。

 日本にとってこの予選は、自国開催のワールドカップで好成績を残すための強化に留まらず、パリ五輪の出場権を得るための戦いでもある。オリンピック出場権は、ワールドカップにてアジア大陸の中で最上位になることで得られる。そういった意味では、アジアのトップクラスである中国と1年で4度も真剣勝負ができることは、チーム作りにおいても、実力を図るうえでも絶好の機会となる。

周琦の高さと経験は中国の柱となる。6月のアジアカップ予選より(写真/FIBA.com)
周琦の高さと経験は中国の柱となる。6月のアジアカップ予選より(写真/FIBA.com)

2019年の呪縛から再スタートを切った中国の覚悟

 今予選の中国は、6月のアジアカップ予選時よりメンバーを揃えて来た。注目選手を紹介する前に、まずは近年の中国の背景から紹介したい。

 中国は自国開催の「FIBAワールドカップ2019」にて失意の結果に終わっている。グループラウンドではポーランドに延長の末に逆転負けを喫してしまい、決勝トーナメント進出を逃してしまったのだ。最終的には2勝を上げたものの、大陸最上位に与えられるオリンピックの切符はつかめず、その座をイランに譲ってしまった。そして失意のワールドカップ後の落胆を振り切り、ようやく前に進み始めたのが今年6月のアジアカップ予選であり、対日本での2連勝だったのだ。

 6月の中国は、負傷者や辞退者が多かったため、数人の主軸以外は、若手や代表キャリアの浅い選手に経験を積ませる大会にしていた。そんな中で迎えた日本との初戦は、これまでのスタイルから一変し、スピードあるガード陣の台頭によって試合を制した。

 続く2戦目は修正した日本が主導権を握るも、中国はビッグラインナップを仕掛けて逆襲。とくに1戦目は出場しなかったエースセンターの#15周琦(ZHOU Qi/ジョウ・チー/212センチ/C/25歳)が要所で活躍し、終盤にゾーンディフェンスを繰り出して逆転勝利を飾った。日本としては詰めの甘さを露呈し、ゾーン攻略ができずに敗戦を喫した形となった。

 そして迎えたワールドカップ予選。中国は6月より大幅にメンバーを変更して日本に乗り込んできた。代表復帰組が多いことからも、ワールドカップおよび、オリンピックの切符獲得に向けた本気度がうかがえる。今予選の注目選手を紹介していこう。

東京五輪では3人制の代表となった胡金秋(写真/FIBA.com)
東京五輪では3人制の代表となった胡金秋(写真/FIBA.com)

中国の新フロントライン誕生なるか

 16名の代表候補選手が発表された時点では、210センチ以上を5名揃える布陣を発表していたが、来日直前には220センチのウイングスパンを持ち、6月のアジアカップ予選で活躍した沈梓捷(Shen Zijie/シェン・ズージェ/211cm/C/24歳)とCBA(中国バスケットボールリーグ)で急成長中の齊麟(Qi Lin/チー・リン/198cm/F/22歳)の2名が負傷のために16名の候補から姿を消した。

 さらに、代表歴の長いセンター王哲林(WANG Zhelin/ワン・ジェアリン/212センチ/C/27歳)も負傷を抱えているために、現地入りはしているものの、27(土)は選外となった。これらにより、16名の候補の中に5名いた210センチ以上の選手は3名になった。

 インサイドの軸となるのは、今季はNBL(オーストラリアリーグ)で活動する#15周琦(ジョウ・チー)と昨シーズン平均23.6点でCBAの得点王に輝いた#21胡金秋(HU Jinqiu/フー・ジンチゥ/210センチ/PF/23歳)。今回インサイドでコンビを組むであろうこの2人が機能すれば、これまで以上に若くて新しいフロントラインが誕生することになる。

 #15周琦はオーストラリアから中国に寄らずに日本に直行していることからも、ぶっつけ本番に近い。ただ、6月のアジアカップ予選で示したように、高さとシュート力についてその存在感は絶大である。

 #21胡金秋は待望の代表入りを果たした期待の若手。2017年に長野で開催された東アジア選手権ではB代表のエースとして初代表入り。2019年のワールドカップ本戦では選外となってしまったが、CBAでは毎年のように実力を発揮しており、その高さと万能性を買われて東京オリンピックでは3人制の代表として出場した経歴を持つ。今季も13試合消化時点で平均22.2得点、7.3リバウンドと数字を残しており、間違いなく今後の主軸となる選手だ。

 もう一人のセンターは#55韓德君(HAN Dejun/ハン・デェジュン/215センチ/C/35歳)が務めるが、この選手はベテランでありながら国際大会での経験が乏しい。ただし、ガードの#6郭艾倫#4趙継偉とはCBAではチームメイト(遼寧フライングレパーズ)であるため、コンビネーションの面では問題ないと思われる。

6月のアジアカップ予選で巧みなゲームコントロールを見せた趙継偉(写真/FIBA.com)
6月のアジアカップ予選で巧みなゲームコントロールを見せた趙継偉(写真/FIBA.com)

郭艾倫と趙継偉の強力ガードコンビ

 今回の目玉は何といっても、中国ナンバーワンガードと呼ばれる#6郭艾倫(GUO Ailun/グォ・アイルン/192/G/28歳)の代表復帰である。彼は#15周琦と同様、失意のワールドカップから先に進めずにいたが、CBAで結果を残して心身ともにパワーアップして代表に帰ってきた。スピードとドライブが武器のコンボガードで、今シーズンは3ポイントも好調だ(11月14日現在46%)。

 主軸ガードのもう一人は、6月のアジアカップ予選で抜群のゲームコントロール力を発揮した#4趙継偉(ZHAO Jiwei/ジャオ・ジーウェイ/185/PG/26歳)#6郭艾倫とはCBAのチームメイトでガードコンビを組んでおり、どちらがポイントガードを務めても可能。この強力2ガードから繰り出される攻防には要注意だ。 

ワールドカップ2019からの復帰組多し

 2019年ワールドカップからの復帰組が多いのも特徴だ。現在13ゲームを消化した時点でCBAの得点王(平均24.2得点、8.1リバウンド)の#23阿不都沙拉木・阿不都熱西提(Abudushalamu ABUDUREXITI/アブドゥシャラム・アブドゥルェシティ/203センチ/F/25歳)、控えガードの仕事を果たす#17孫銘徽(SUN Minghui/スン・ミンフゥイ/187センチ/PG/25歳)をはじめ、パワフルな攻防でかき回すキーマン#8趙睿(ZHAO Rui/ ジャオ・ルイ/195センチ/G/25歳)が待望の復帰。彼らはワールドカップの経験があるが、2年以上代表戦から離れているので、どこまで試合勘を戻せるか。

 そして忘れてはならないのが、6月のアジアカップ予選でチームを牽引したベテランシューター#10周鹏(ZHOU Peng/ジョウ・ポン/206/SF/32歳)の存在だ。2019年のワールドカップは負傷のため出場できなかったが、経験豊富なキャリアの持ち主で、このチームをまとめている。

2021年は中国A代表と4度も対戦。6月のFIBAアジアカップ予選より(写真/FIBA.com)
2021年は中国A代表と4度も対戦。6月のFIBAアジアカップ予選より(写真/FIBA.com)

実はインサイドよりガードの層が厚い

 今回の中国の顔ぶれを見ると、6月に比べて代表復帰組が多いことから覚悟を感じるメンバーではあるが、25歳前後の代表に定着するかどうかの選手層を鍛えているといった印象もある。11月27日のロスターの平均年齢は、日本よりも2歳若い26歳であり、この長期にわたる予選で鍛えていくのだろう。

 そして、インサイド陣が脅威であるのは言うまでもないが、平均身長でいえば今回は2メートルに満たない198センチであることから、歴代ほどの高さはない。むしろ、選手層ではポイントガードやシューティングガードに厄介者が多く揃っている。トム・ホーバスHCは「スピードを生かしたスタイルで勝負する」と宣言しているが、中国も突破力があるアグレッシブなガードが多く、バックコート陣の層が厚い点に注目したい。

 ヘッドコーチの杜鋒(ドゥ・フォン)はワールドカップ予選の展望をこのように語る。

「今年の夏にアジアカップ予選とオリンピック予選を戦うことで、我々の若い男子代表チームは活力と努力を示したが、それでもさらに徹底的な変革が必要である。特に多くの新しく若い選手が経験を高めるためにも、この予選の機会を大切にして戦い、最善を尽くしたい」

◆2021年6月アジアカップ予選の中国代表紹介記事

#33吴前(WU Qian/ウー・チェン/190センチ/G/26歳)、#7張鎮麟(ZHANG Zhenlin/ジャン・ジェンリン/205センチ/F/22歳)ら、6月のアジアカップ予選で台頭した選手の紹介はこちらの記事を参照。

Basketball Writer

「月刊バスケットボール」「HOOP」のバスケ専門誌編集部を経てフリーのスポーツライターに。ここではバスケの現場で起きていることやバスケに携わる人々を丁寧に綴る場とし、興味を持っているアジアバスケのレポートも発表したい。国内では旧姓で活動、FIBA国際大会ではパスポート名「YOKO TAKEDA」で活動。

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