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北朝鮮戦、森保ジャパンは伊東純也を招集するべきか?

小宮良之スポーツライター・小説家
伊東に指示を与える森保監督(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

伊東純也を招集するべきか

 3月14日、2026年W杯アジア2次予選、北朝鮮戦(3月21,26日)の日本代表メンバーが発表される。

「性加害報道のある伊東純也を招集すべきか(週刊誌が『去年6月、大阪市内のホテルで酒に酔った状態の女性2人に、自身の専属トレーナーとともに同意のない性行為をした』と報道。女性2人は準強制性交罪で刑事告訴し、伊東側も『虚偽の告訴で名誉棄損』などで2億円の損害賠償の訴えを起こしている)」

 その一点だけでも、議論が分かれるところだろう。

 報道を受けてアジアカップ途中離脱を余儀なくされた伊東だが、所属するスタッド・ランスでは5試合連続先発出場している。直近のリーグアン(フランス1部リーグ)では、チャンピオンズリーグでレアル・ソシエダを撃破してベスト8に進出した強豪パリ・サンジェルマンと1-1で引き分け、アウエーで勝ち点1をもぎ取る“金星”に貢献。欠かせないアタッカーとしてプレーを続けている。

 そもそも、森保ジャパンの功労者でもある伊東は大会から全自動的に弾き出されるべきだったのか。しかも、決定は二転三転。大会中で難しい処置だったが…。

 日本以外では、あくまで有罪になった場合に契約解除などの処置が下されるが、さもなければ「推定無罪」(何人も有罪と宣告されるまでは無罪と推定される、という法の原則)があるのだ。

アギーレのケース

 例えば2015年、日本代表監督だったハビエル・アギーレは八百長疑惑で告発され、裁判を受けることになった。結果、日本では大騒ぎになって解任を決定。しかしアギーレは同年中にUAEのクラブと契約し、2年間指揮をとった後、エジプト代表を率い、ネーションズリーグの不振で解任されるも、2カ月後にはスペインのレガネスと契約、現在はマジョルカで指揮をとる。

「こんな疑惑で私の夢は奪い去られないし、これからもそうはならない」

 アギーレはそう言って監督業を続ける。

 ちなみに八百長疑惑は2011年のサラゴサ対レバンテの試合で起きたと言われ、数人の選手も告発を受けていたが、何事もなくプレーしている。

 また、2011年には1部リーグ、サラゴサでプレーしていたスペイン人FWブラウリオ・ノブレガが、午前中のトレーニング前に町の一角で物色した女性に性加害に及び、逮捕されている。他にも3人の被害者がいるなど常習者だったことも分かったが、示談金1万2600ユーロで”和解”。さすがにサラゴサでは契約解除になったが、2部のカルタヘナと契約し、のうのうとプレーを続けた。

 これは極端な例で、行動に明らかな問題がある。

 しかし週刊誌の報道だけで、”罪人”と決めつけるのは行き過ぎている。疑惑は晴らす必要があるが、本人が否定しているだけに、現時点ではそれ以上でも以下でもない。行動に甘さが見えるのもたしかだが、切り捨てるのも理不尽だ。

 もっとも、北朝鮮戦で代表に伊東を招集するべきか、は別の議論がある。

 日本代表は次のフェーズに入るべきだ。

いつもベストメンバーで戦うべきではない

 今や日本人サッカー選手は、80人前後が欧州のクラブでプレーしている。トップ選手は、欧州カップ戦にも出場。いずれも劣らぬ実力者。単純な比較はできないし、ポジション別の問題はあるが、その実績、実力は確実にJリーガーを上回る。

 代表を形作る時、「全員海外組」で構成できる。筆者は、専門誌『サッカーダイジェスト』で「現時点のベスト布陣」の23人の名前を挙げる企画依頼を受けたが、Jリーガーで入れたのは酒井宏樹(浦和レッズ)だけだった。それが国内組と海外組の現状で、Jリーグで活躍した選手のほとんどが欧州に渡って成長を遂げているだけに当然の理だ。

 それ故、森保監督がベスト布陣を作ろうとすれば、当然のように欧州組が中心になる。何の縛りもないなら、久保建英、三笘薫、堂安律、遠藤航、守田英正、冨安健洋など欧州カップ戦を勝ち上がったクラブの主力を選ぶことになるだろう。「石橋を叩いても渡らない」頑固で慎重な森保監督が、ベストメンバーを招集しない選択肢はない。

 しかし、そうしたベストメンバー依存はリソースの縮小を意味する。

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/17c4f9114aa1315f79dccaeb0927a3a5e2dbba7c

 なぜなら、選手の肉体、精神はあくまで有限であるからだ。

 長距離の移動でアジアまで呼び戻されることにより、疲労を蓄積させ、コンディションを狂わせる。因果関係は別にして、三笘は明らかに怪我が増えている。爆発的な加速を武器にするだけに負担も大きい。また、冨安健洋も復帰と離脱を繰り返し、プレーの継続性が保てなくなっている。

「カタールからスペインに戻って目覚ましいプレーを見せてはいるが、肉体的に限界なのも間違いない」

 スペインのメディアもそう言って久保の状態を危惧している。ケガと隣り合わせで、禍根を残しかねない。

「南米の代表の選手も同じように移動して戦っている」

 そう反論する人もいるが、事情が違う。南米の代表は親善試合で招待を受け、欧州で各国と試合を組むこともしばしば。何より大陸別の大会が、欧州のシーズン中に開催されることはない。これは特記すべき違いだ。

 さらに南米の国同士の試合は、非常にレベルが高い。競争力を上げるためにも、切磋琢磨する必要がある。その戦いはW杯にもつながるのだ。

 翻って、アジア2次予選で競争力が上がることはない。チャンピオンズリーグや欧州トップリーグのプレーと比べれば、別のスポーツのレベル。シリア、北朝鮮、ミャンマーはそもそも国としても独裁体制で深刻な問題を抱え、対外的にサッカーをしている場合ではない。

「アジアを軽んじるな」

 そう言う人もいるだろうが、2次予選はFIFAランキング100位前後の相手に主力を外して悠々と勝つ采配ができないなら、いくら選手が成長してもW杯でベスト8以上など望めない。

 北朝鮮戦は、森保監督の采配こそ試されるゲームだ。

Bチーム編成

 そこで2次予選ではスコットランドやベルギーなどから数人の選手を招集するとしても、欧州組に負担を与え過ぎず、Jリーガーにベテラン選手を足したBチームで挑むのは一つの手ではないか?

 今年のアジアカップ、セレッソ大阪の毎熊晟矢は数少ない評価を高めた選手だった。欧州組の士気が低い中、モチベーションの違いを感じさせた。準々決勝イラン戦では高さや戦闘力で劣勢に立っていたが、可能性を感じさせている。

 毎熊のような気鋭の選手を選び、老練なベテランに叱咤させる形で、2次予選や親善試合は十分だろう。新たな戦力の発掘にもつながる。

 具体的に言えば、MLSの吉田麻也(ロサンゼルス・ギャラクシー)は代表選手としての戦い方を伝えられるベテランと言える。全盛期は過ぎてもセンターバックの35歳は経験で衰えを隠せるし、むしろ周りを動かせる。開幕したMLSでも開幕から3試合フル出場。彼がバックラインに入ることで、アジアカップのようなふわふわした状況にはならない。

「麻也さんは、後ろからずっと声が出ている」

 新たに代表に入った選手たちは口をそろえていた。その号令が集中力を高め、闘争心を落とさない。スピードの衰えでラインの作り方に不安はあるが、気持ちが問われる試合では頼れる選手だ。

 吉田だけでなく、先述した浦和の酒井、あるいはJリーグ王者であるヴィッセル神戸の大迫勇也、武藤嘉紀、セレッソの香川真司、ジュビロ磐田の川島永嗣は歴戦の猛者である。彼らは佐野海舟(鹿島アントラーズ)、川村拓夢(サンフレッチェ広島)、細谷真大(柏レイソル)など若手を触発させるだろう。結果、戦力を厚くすることもできるはずだ。

 アジアカップでは、森保監督の打つ手が悉く裏目に出ていた。GK鈴木彩艶は気の毒なほど不安定だったし(鈴木はベルギーリーグでも不安定に)、南野拓実の起用法はあまりに変則的で、前線の組み合わせも疑問が残った。そして猛攻を浴びたイラン戦の采配は、すべてが後手に回っていた。

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/f8abca4026ae9cba722771b9dfb2abd2fbac3852

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/c281f68dfb6b2eb52ce839b50fa1538fbd9b12c9

 人材はいるわけで、組み合わせでそれぞれを生かす道を探るべきで、新たなフェーズに入るべきだ。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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