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森保ジャパンは逆境を乗り越え、アジアカップで優勝できるのか?イラク戦で見えた「名采配」の幻想

小宮良之スポーツライター・小説家
(写真:ロイター/アフロ)

 アジアカップ、グループリーグ第2戦。森保一監督が率いる日本は、イラクに1-2と敗れている。

「大番狂わせ」

 そう表現していいだろう。

 日本はそれだけの戦力差でイラクに挑んでいた。両チームの選手所属クラブを比べたら、ワンランク、いや、ツーランクは上だろう。力の差を示し、勝つべき相手だった。

 森保ジャパンは逆境を力に変え、アジア王者となれるのか?

ベトナム戦に続く苦戦

 一つ言えるのは、イラク戦の敗北で、日本サッカーの価値が下がることはない、ということである。各選手はそれぞれのクラブで、実績を積み上げている。その多くは、真の実力者たちだ。

 楽観的に言えば、イラク戦の苦杯は”物語を盛り上げる要素”になる。敗北が伏線となって、クライマックスを作り出す。大衆は当然のように勝つよりも、逆転劇が大好きだ。

 優勝はいくばくかの運にも左右されるだろうが、「森保ジャパンは決勝進出が順当な結果」という実力は変わらず、悲観する必要もない。

 しかし現実として、ベトナム戦は苦戦し、イラク戦はとうとう小人に倒される巨人になり果てている。言い換えれば、ほとんど必然で悪い結果を招いているのだ。

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/6f24438cfb5a5950e070b2ca1374e8ccfa4d48cb

 やはり、その要因を探るべきだろう。

選手起用の懸念

 アジアカップ、森保監督の”頑固なメンバーチョイス”が裏目に出ているのは間違いない。

 森保監督はうまくいかない兆候があると、むしろ独特な選手起用で袋小路に入ることがある。控え目に言って、GK鈴木彩艶、FW浅野拓磨の起用は成功とは言えなかった。それぞれのボックスで仕事をする選手だけ、采配の面で重大なミスだ。

 そもそも鈴木はベトナム戦も経験不足を露呈する形で、中途半端な弾き方から失点を誘発していた。イラク戦は、試合開始から浮足立つような様子があった。これではディフェンス全体が落ち着かない。

 前回の原稿でも指摘していたが、鈴木本人よりも森保監督の起用法の問題だろう。Jリーグでポジションを得られず、ベルギーでもまだ半シーズンもレギュラーに定着していないGKを、「ポテンシャルが史上最高」と代表の正GKに選択した。その責任は重い。

 相手のハイクロスに競り負けた後のクロスを入れられると、鈴木はベトナム戦をほうふつとさせる中途半端なパンチで、フリーだった相手のエースFWに先制点を叩き込まれた。たしかに試合を重ね、成長を遂げるかもしれない。しかし代表戦を、経験を積む場にすべきなのか。

 また、ベトナム戦は細谷真大が不調で、森保監督はワントップに浅野を起用した。指揮官にとって、子飼いのFWと言えるが、低調な出来だった。浅野は力関係が上の相手で(スペースがある展開では)一定の力量を見せるFWだが、自分たちがボールを持とうとする展開だとポストの収まりは悪いし、周りの選手と動き出しも合わない。

 トップ下に久保を起用したのは悪くなかったが、コンビネーションを作り出せる良さを半減させており、持ち味が合わず「適材適所」という点で疑問のある采配だった。

 あるいは決勝まで勝ち進むのを想定し、FWは上田綺世を温存しながら使いたいのかもしれない。しかし、それだったら、ベトナム戦でゴール感覚が冴え渡っていた南野拓実の1トップでも十分よかった。南野を左で起用し、調子の良さからいくつか好パスを配給し、彼自身はできることをやっていたが、ゴールに迫る怖さは乏しく、宝の持ち腐れだった。今までも左サイドでは十分な仕事はできなかっただけに、むしろ南野が気の毒だ。

カタールW杯は名采配だったのか?

 カタールW杯後、森保監督を名将のように称える論調になっている。

 しかし、”弱者の兵法”は森保監督が採用する最善の方法であることなど、筆者は大会前から論じていた。https://shueisha.online/sports/16513つまり、それほどの名采配ではない。それに名将だったら、今や世界中からラブコールが届いているはずだ。

 カタールW杯で奇跡を起こせたのは、ピッチに立つ選手たちにそれだけの力が備わっていたからだろう。鎌田大地が自主的に攻撃を引き回し、遠藤航が戦術眼で攻守を連結させ、三笘薫や堂安律など交代の切り札に使った選手たちが高い能力で仕事をした。選手たちが実直に耐える時間を作り、「いい守りがいい攻撃を作る」という戦術を動かしたのである。

 一方で大国に勝利を収めることで、選手たちはピッチで積極的に主導権を握り出すようになった。もともと、それだけの力を欧州戦線で身に付けていたのだろう。それが昨年9月、欧州遠征での堂々たるドイツ撃破につながった。

 しかし、その戦いも以前から推奨していたものだ。

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/e45285b276cf4384ecea94a3b65be3234c627ad7

 森保監督は、主導権を握る戦いをカタールW杯でもできたはずだったのである。そこに縛りをかけているのは、指揮官自身だろう。失礼を承知で言えば、頑迷さと言える。

 その結果、勝つべき相手にひょっこりと負ける。カタールW杯ではコスタリカ戦が好例だろう。ボールを持った時、どこか持て余す。そこでカウンターやハイボールで一発を食らうのだ。

 イラク戦も同様だった。テンポのある攻撃を作り出せていない。2失点目は象徴的で、右サイドで菅原由勢があっさり入れ替わられて独走を許すと、後ろ向きのディフェンスをさせられる中、逆サイドの伊藤洋輝はずるずる下がるだけで相手エースFWのマークを見失い、ヘディングで叩き込まれていた。

監督の進退問題にも

 受け身のディフェンスで、森保ジャパンはリズムを作り出せるようになった。しかし、そこから脱却しないと、W杯ベスト8など無理な話だろう。勝つべき相手に勝てるサッカーをするには、まずは選手起用のところで最適な選択ができない限りは…。

 グループリーグ最後はインドネシアと戦う。決勝トーナメント進出を決めているはずだった。しかし勝っても2位通過で、グループEの1位は韓国になる可能性も…。

 日本はアジア最強である。逆境を覆し、アジア王者にもなれる。逆にこれだけの選手たちを招集し、決勝にも進出できなかった場合は――。監督の進退問題にも発展するだろう。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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