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久保建英はアジアカップを戦うべきか?CLパリSG戦+ケガの不安との天秤

小宮良之スポーツライター・小説家
レアル・ソシエダの久保建英(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

 レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)の久保建英は、1月13日から2月11日までカタールで開催されるアジアカップの日本代表メンバーに選ばれている。

 その間、開幕からエース格として活躍しているラ・レアルを留守にする。ラ・リーガだけでも、バルセロナやレアル・マドリードとの一戦よりも重要度の高いバスクダービー、アスレティック・ビルバオ戦を皮切りに、セルタ、ラージョ・バジェカーノ、ジローナ、オサスナ戦を欠場予定。スペイン国王杯は勝ち上がり次第で4試合を逃す。さらに日本が決勝に進出した場合、チャンピオンズリーグ(CL)ラウンド16のパリ・サンジェルマンとのファーストレグ(2月14日)も出場は絶望的。最大10試合の欠場を余儀なくされる。

 久保は重要な試合を棒に振っても、アジアカップを決勝まで戦うべきなのか?

レアル・ソシエダや久保に選択肢はない

 ラ・レアルは、久保の戦線離脱に頭を抱えている。アジアカップを計算に入れていたはずだが、久保の影響は予想以上に大きくなった。代わりの選手はいても、戦力ダウンは否めない。

https://sportiva.shueisha.co.jp/clm/football/wfootball/2024/01/04/post/

 ただ、ラ・レアルに選択肢はないのだ。

 FIFA(国際サッカー連盟)が主催する大会、試合は代表チームに選手の拘束権がある。つまり、クラブの主張はここでは無効。ラ・レアルがいくら久保を必要としても打つ手がない。

 それは久保本人も同様である。代表招集の拒否は、代表との決別に近い決断を意味する。つまり、彼自身にも選択の余地はない。

「代表に呼ばれたら、行かなきゃいけないと思う」

 久保のコメントにも苦渋が映る。サラリーを受ける所属クラブを離れ、CLを棒に振るなど切歯扼腕のはずだが、日本代表への想いも偽りではないだけに、言葉をぼやかすしかない。

「日程的に、なんて言うんでしょう…。クラブが僕を重要視してくれているので、そういった意味では、この期間に(アジアカップを)やるのは、ちょっとどうなのかなと僕個人としては本当に思います。(でも代表に)呼ばれたら…残念な気持ちはありますけど、そこは割り切って選ばれたからにはしっかり頑張ろうって気持ちです」

 久保は代表合流後、「アジアカップを全力で戦う。代表でのプレーは幸せ」というニュアンスで答えるだろう。

 しかし、彼は18歳から世界に打って出て戦っている。その基準は常に世界トップにある。にもかかわらず、シーズンの真っ只中に代表に呼ばれ、重要な試合を欠場することになるのだ。

パリSG戦の価値と大会開催時期の矛盾

 CLベスト8を懸け、スターが揃うパリSGと一戦を構えることができるのは、サッカー選手としての栄誉だろう。世界中のサッカーファンの注目が集まる。そこで活躍し、勝ち上がる原動力になったら、サンセバスティアンでは伝説になるはずだ。

 率直に言って、アジアカップ優勝などアジアの当該国以外、結果だけが報じられるだけである。

 そもそも大陸別の大会は、欧州や南米の選手は欧州選手権、南米選手権とシーズンがオフの間に戦う。それ故、選手の負担にならない。W杯とは別で、大会の価値も担保されている。

 一方、(マーケティング価値の低い)アフリカ選手権やアジアカップは(イベントの分散化も含めた)気候条件などもあって、冬に開催されている。選手はシーズン中のクラブを離脱せざるを得ない。矛盾を孕んだ大陸選手権なのである。

 失礼ながら、ベトナムやインドネシアとシーズン中に戦う意味はないし、アジア王者のブランド価値も想像以上に低い。立場を変えると、日本のコアなサッカーファンでもアフリカ王者をそらんじられる人がほとんどいないように。世界でのアジアカップの存在も、その域を出ないのだ。

欧州の最前線で示す日本サッカーの進歩

 1990年代初頭まで、日本サッカーはアジアでも苦しい戦いが続き、世界では”かませ犬”に近かった。それが2000年前後からダークホースに転じ、しばらくはアジアカップの称号が燦然と輝いていた。(アジア王者として)コンフェデレーションズ杯に出場する権利も、大いなる経験をもたらしたと言える。世界と遭遇できる貴重な機会だった。

 しかし世の中はうつろい、今の日本はアジアでは突出している。

 世界サッカーの中でも、その実力を恐れられつつある。ワールドカップで4度もベスト16に勝ち上がった実績以上に、日本人選手がヨーロッパのトップクラブで主力として活躍するようになった点は大きい。過去のアジアカップ優勝は勲章であって、少しも貶められるべきではないが、現代の選手たちは”過去”を超えているのだ。

 久保がラ・レアルの主力として強豪パリSGに全力で立ち向かい、勝利を目指す姿こそ、現代のロマンである。それは日本サッカーの興隆と同義と言える。彼一人、その一戦だけで、アジアカップ以上のメリットがあるのだ。

 そして小さく警報も鳴っている。

 久保は直近のアラベス戦で左足大腿四頭筋を負傷し、ケガを抱えたままカタールでの戦いに赴くことになった。最近は久保を恐れた相手のラフプレーが目立つが、ケガの気配が漂う理由はそれだけではない。東京五輪、カタールワールドカップという変則的な大会出場からの過密日程で、肉体は間違いなく悲鳴を上げつつある(実際に、今シーズンは負傷者が多い)。久保と同じ東京五輪世代のペドリは、世界最高のサッカーセンスを持ちながら、過密日程で深刻なけが持ちになってしまい、今や慢性状態だ。

(以下参照『森保ジャパンは、久保や三笘など欧州組の主力を招集し続けるべきか?』)

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/9ff22cb9ab4b3fc486c8423480d09f3c5fed87c3

 神秘的な二刀流を発揮していた大谷翔平でさえ、そのひじは耐えられなかった。体は確実に蝕まれる。重大なけがを予防すべきだ。

 久保はアジアカップを戦うべきか? ラ・レアルでシーズンに集中するべきか?

 その答えは明瞭に出ている。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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