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Jリーグにはびこる”結果主義”は正義か?川崎フロンターレやサガン鳥栖に見る一つの答え

小宮良之スポーツライター・小説家
左が三笘薫、右が旗手怜央(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

「効率的な戦いで結果を求める」

 Jリーグはまもなく全日程が終了するが、そうしたクラブが増えた。

 そこで言う効率的とは、「できるだけリスクをかけない」ということだろう。つまり、自分主体でボールをつながず、奪われる危険を避け、放り込んでセカンドボールを狙う。浮いて、バウンドし、転がったボールを争う、という偶然性を伴う状況へ引きずり込むことで、技術的な差を最低限にする。

「デュエル」

 格闘という意味の言葉でサッカーを括り、「ハードワーク」をお題目とする。

 その結果、蹴り込むプレーが横行。ボールが敵ゴール近くにある限り、失点の可能性は限りなく低いし、ちょっとしたアクシデントで得点を狙える。そこに有力な選手がいたり、スピードやパワーで圧倒できる選手がいたら、タイトルも夢ではないが…。

 率直に言って退屈で、サッカーというスポーツの創造性や発展性を無視している。

「下位クラブは(予算の問題で)戦力的限界もあるし、瀬戸際にいるから仕方がない」

 そんな意見もあるが…。

 それは本当に効率的な戦いで、Jリーグで信奉すべきプレーか?

スペインのクラブは格下も結果に拘泥しない

 一つの真理として、サッカーは集団で行うボールスポーツである。

 どれだけ個人がボールをうまく扱い、いかにグループで連係を作り出すか。そこに醍醐味がある。その挑戦によって、ようやくクオリティが上がり、成長面での爆発にもつながるのだ。

 弱く技術的に劣っているから蹴り合い、偶然性に勝負を委ねるべきなのか。

 スペイン、ラ・リーガでは下位のクラブだからと言って、”結果主義”に拘泥しない。ビッグクラブに対しても互角の勝負を挑み、勝機を探す。10倍以上の予算のビッグクラブを相手に一歩も引かない。

 だからこそ、スペインの土壌は優れた選手を生み出し続ける。

 長く2部で過ごしていたジローナは今シーズン、首位を争うセンセーションを巻き起こしている。3年目のミチェル監督が能動的サッカーを実現。シティ・フットボール・グループの利点を活用し、FWヴィクトル・ツィガンコフ、サビオ、アルテム・ドフビク、MFアレイシ・ガルシア、ヤンヘル・エレーラ、DFヤン・コウトなど国際的に無名だった選手の才能を開花させた。昨シーズンもオリオル・ロメウ(バルサ)、ロドリゴ・リケルメ(アトレティコ・マドリード)、タティ・カステジャノス(ラツィオ)とビッグクラブに送り出している。

 ラージョ・バジェカーノはマドリード郊外の小さなクラブだが、伝統的に負けん気の強いサッカーをする。今シーズンもアトレティコには0-7で大敗したが、バルサ、レアル・マドリードと五分五分の攻防を見せ、引き分けている。予算規模では常に降格候補も”前輪駆動”の編成だ。

 ラス・パルマスは大西洋に浮かぶ島にあるクラブで、歴史的にテクニカルな選手をたくさん生み出してきた。最近ではペドリ(現在バルサ)が筆頭格。バルサのBチームを率いていたガルシア・ピミエンタ監督は、バルサ時代の”教え子”を多く集め、パス主体の攻撃サッカーで勝ち点を稼ぎつつある。堂々としたプレーは、昇格クラブとは思えない。

 そして久保建英を擁するレアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)は小さなクラブではないが、特別に裕福なクラブではない。下部組織から一貫した育成で選手を輩出し(トップチームの半分が下部組織出身)、そこに久保のような助っ人を加え、攻撃的サッカーを成し遂げている。左利きを多く擁し、意外性を感じさせるチームだ。

 こうした傾向は1部だけではない。2部クラブも、基本的にボールプレーが求められる。クオリティは1部のクラブに劣るが、目指す様式は変わらない。

川崎、鳥栖の与えるヒント

「選手がいない」

 それは怠慢な言い訳だ。

 相応の選手が揃っていない、というのもスカウティングの問題だろう。たとえスケールが小さく、技術で劣ったとしても、ボールプレーをするキャラクターは共通している。そこで間違っていたら答えは出ない。

 2012年から2016年まで風間八宏監督が率いた川崎フロンターレは、タイトルにこそ恵まれなかったが、極めて魅力的なチームだった。ボールが通る回路が行き渡り、日々のトレーニングの中で”サッカーそのもの”が鍛えられ、選手が技術を磨いた。結果、大久保嘉人は3年連続得点王に輝き、中村憲剛、大島僚太はボールマジシャンとなった。

 明確なプレーコンセプトが優れた選手を発掘し、輩出した。現在の代表の主力である三笘薫、守田英正、旗手怜央、田中碧、板倉滉も、そのエッセンスで飛躍していった。たしかな技術を身に付けていたことで、どの舞台でも適応し、成長できたのだ。

 風間監督は明快な理論と実践で、選手の力を見抜いて揃え、仕組みを整え、革新を促した(名古屋グランパス時代にも、相馬勇紀、菅原由勢にも影響を与えている)。タイトルには恵まれなかったが、良い選手の定義は明確に。それが今のアカデミー出身選手の脇坂泰斗、宮代大聖、山田新、高井幸大にも受け継がれる。

 もし、川崎が「デュエル」や「ハードワーク」が旗印にしたチームだったら、ぞっとする。たとえJ1で上位を続けていたとしても、どれだけの人材が埋もれていたのか。効率的ではなかったことで、チームの礎を作って選手たちを幸せにしたのだ。

 今シーズンは川井健太監督が率いるサガン鳥栖が、自分たちのボールを大事にしたプレーで降格を回避している。鳥栖はJ1で一番、戦力予算は厳しいが、ボールプレーを追求し、選手が頭角を現しつつある。例えば長沼洋一、小野裕二はキャリアハイの得点記録で、新たなポジションで覚醒。J1でのプレー経験がなかった河原創、山崎浩介も1年でチームにフィットした。

 鳥栖は12位で、上位とは言えない。連勝もできなかった。その点、非力さも感じさせた。しかし果敢にボールプレーに挑み、選手を成長に導いたことは将来への福音だ。

 結局、クラブが理念を持っているか。アトレティコ・マドリードのディエゴ・シメオネ監督のように「ポゼッションに意味はない」と割り切り、要塞のように堅固な守備を作りつつ、猛攻で相手を仕留めるバランスを作れるなら、それに即した補強で一つのスタイルになる。しかし理念に筋が通っていなかったら、偶然性に頼った戦いにならざるを得ない。その結果、道を失って”沼に入る”ことも…。

 Jリーグにはびこる”結果主義”は正義か?

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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